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閑話 街のボスの勘違い sideサイモン

「はぁ……手強いな」



 莉々菜が部屋に戻るのを確認すると、サイモンは瞼に手を当てて項垂れた。

 

 莉々菜から隠れていた側近がそれを見て苦笑いする。



「ボスの顔を見ても油断しませんでしたね。惚れる……までいかなくても、好感を抱いてほしかったです。まあ、相手も美人でしたからボスに耐性があったのかもしれません」



 サイモンは一等美しい花街の女から生まれ、優れた容姿を持つ。何も力がなかった子どもの頃は、スキル<危機察知>と自分の容姿を利用してのし上がった。


 それ故に女性相手であれば、どうにでもなると思っていた。



「リリナさんと目が合った瞬間に懐柔は無理だと思ったよ。まだ手の震えが止まらない」



 王家からの指名手配書の情報をいち早く入手し、サイモンは念のため関所を確認していた。


 そこで現れたのが莉々菜だった。黒目ではないが、珍しい黒髪を持つ女性。指名手配犯かは断定できなかったが、彼女が相当な実力者だというのは立ち居振る舞いで分かった。


 女性相手なら実力者だろうと、自分の顔と力量で丸め込めると思った。


 けれど、食堂で相対したときには、まるで自分という存在を簡単に消してしまえるような――――未知の恐怖を莉々菜からひしひしと感じた。



「これ……例の盗賊団が奪ったと噂の品々に似ていますね」


「似ているんじゃなくて、そのものだろう」



 側近は驚きで目を丸くさせた。



「盗賊とはいえ……変異種のゴブリンキングの縄張りに拠点を置いて、立派な護衛のついた貴族や豪商たちの馬車を次々と襲う実力者たちですよ」


「だが、おかげで合点がいった。ギルドの依頼を受けた冒険者たちが盗賊団を殺して捕まえたらしいが、彼らのランクでは到底無理だったはずだ。それなのに冒険者たちは誰一人欠けていない。しかも、盗賊たちの武器以外はアジトになかった。リリナさんが盗賊たちを冒険者たちが来る前に倒して、彼らの戦利品を奪っていったんだろう」


「戦利品を売り飛ばしたなら金貨が押収されるはずですし。不自然な点が莉々菜さんの登場で一気に繋がりますね」



 サイモンはリリナのすべてをのみ込んでしまう空虚な青い瞳を思い出す。


 彼女はサイモンのことなど見ていなかった。


 利用できる相手か、そうでないか。情に流されず、自分の利でのみ判断する。常人では難しいそれをいとも容易くやってしまう。


 そんな常識外れの感性を持っているんじゃないだろうか。


 

「それにしてもリリナさんは、召喚されたばかりの異世界人なのに強すぎないか? そっちのネームタグなんて、中央の有力冒険者のものだぞ」



 Cランク冒険者に渡される銅のネームタグは、冒険者たちの憧れであり誇りだ。


 ネームタグを奪われたといことは、冒険者はすでにこの世にいないだろう。



「エリーゼ姫の元に残った勇者は戦闘スキルに特化しているらしいですが、莉々菜さんほどの強さはないはずです。近衛騎士団の中堅ぐらいの強さだとか。一緒に召喚されたお友達も、潜在能力は高くとも悪名高い盗賊団を倒せるレベルではないはずです」


「俺たちなんて簡単に殺せるんだろうね」



 サイモンもそれなりの実力者ではあるが、スキル<危機察知>が莉々菜には勝てないと警鐘を鳴らしている。



「……友好関係は築けたんでしょうか」


「これからの働き次第ってところじゃないか」



 サイモンの第一印象は莉々菜からすればカスみたいなものだろう。


 ここからいかにサイモンが有益な存在なのかをアピールしなくてはならない。


 彼女はおそらく世界を動かせてしまう存在に成長する。



「宝飾品類の査定はきちんとやりますね。化かし合いをするだけ無駄でしょうから」


「まあ、通常価格だとしても相当な利益になる。悪いことばかりじゃないさ」



 莉々菜のもたらした財宝を上手く転売すれば、多くの活動資金が手に入る。そうすればより一層アズーロの街を国から守れるはずだ。



「……王家の保護した勇者は戦闘特化、他には魔法使いの少年と治癒魔法使いの少女がふたり。腐ったこの国がさらに荒れそうだ」


「盗賊団の状況と王家の動きは引き続き注視します」


「忙しいところ悪いんだけど、アシュガ帝国にも人員を回してくれる?」


「彼女はそれほどですか」


「俺の<危機察知>が、リリナさんはエリーゼ姫やアシュガ帝国皇帝よりも恐ろしい人だと警告している」



 息を吞む側近にサイモンは疲れた笑みを浮かべた。



「リリナさんは、いずれ噂の魔王陛下に並ぶかもしれないね。冗談だけど」



 この世界の誰もが知る最強の存在『魔王』。


 そんなバケモノと莉々菜が並び立った世界なんて、我ながら本当に悪い冗談だとサイモンは思った。


名の知れた冒険者チンピラ

→莉々菜に全裸放置されてプライドがズタズタ。生き恥晒中。


盗賊団

→莉々菜に昏倒された後、盗品をすべて奪われる。

 その後、冒険者たちが来て昏倒している盗賊団をコロコロする。

 山奥から生きたまま連行するよりコロコロして運んだ方が効率的だよね!

 手間暇かけて来たのに盗品がない。冒険者たちは大損。収支マイナスです。

 莉々菜はアズーロの街で殺戮者だと思われるし、客観的に見ると誰も得していないね!

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