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15話 逃亡OLと指名手配

 さすがファンタジー世界。王都から1000キロメートル近く離れたこの街にも一日足らずで情報を飛ばす手段があるとは。


 私は感心しつつも、メニュー表のデザート欄を眺める。


 兵士が黒髪黒目の女を探しているようだが、ここで焦ったところで不審に思われるだけだ。



「おい、お前」


「なんですか?」



 初めて気づいたとばかりに近寄ってきた年かさの兵士に視線を向ける。



「街では見ない顔だな。黒髪で女……」


「よく見てくださいよ。私の瞳の色は青です」



 そう。私の容姿は外国の血が混じっているため黒髪目。城で目の色をPC眼鏡で隠したのは良い判断だったようだ。


 もしかしたら通学路らしき場所で勇者召喚された高校生たちが私のことを記憶している可能性もあったが、どうやら大丈夫だったようだ。


 とくに金髪ギャルの子とか見覚えがあったような気がしたし。



「野蛮な盗賊から命からがら逃げて、また一から商売を始めようとしていたのに。私と似た容姿の人の手配書が回っているなんて、本当についていないです。違う街に行っても、お役人様に疑われそうで……」



 困りましたねと呟くと、私は金貨を3枚取り出し、兵士のポケットにそっと忍ばせた。



「せめてこのアズーロの街が素敵なところだと嬉しいんですけど」


「もちろんだ! 君は指名手配などされていないのだから。この街にいる間は快適に過ごせるようにしよう」



 そう言って兵士たちは店の外に出た。私は油断せずにスキル<聴力>を使って、兵士たちの会話に耳をそばだたせる。



「短時間でこんな王都から離れた辺境に指名手配犯がいる訳がないつーの」


「国からの命令で仕方なく巡回していただけだしな」


「金貨3枚はもうけもんでしたね!」


 

 どうやら最初から私のことを真剣に探していた訳ではないらしい。


 兵士たちのことは解決した。それと気になるのは……。



「私のことがそんなに怖い?」



 私は振り向くと、後ろに座っていた紫髪の青年に営業スマイルを浮かべる。



「ひょぇっ」



 紫髪の青年は素っ頓狂な声を上げた。


 兵士たちが登場する前から……なんなら、私が食堂に来てから彼の心臓の音だけが早かった。彼のテーブルにはアルコールが入っていそうな飲み物は置かれていない。


 ということは、私のことを恐れているということ。


 遠慮してても仕方ない。私は青年に許可も得ず、スキル<鑑定>を使った。




*********



名前:サイモン


ノーマルスキル:危機察知S 暗殺術A 視力E 毒耐性E



*********



「へぇ。私を殺しに来たの?」



 紫髪の青年――――サイモンは、なかなかのスキルをお持ちのようだ。どう見ても堅気ではない。


 私が臨戦態勢を取ろうとすると、サイモンが見事な速度と所作で土下座をした。



「申し訳ございませんでした!」


「土下座をして油断させて私を殺すつもり?」



 サイモンは顔を上げると一気にまくし立てる。



「滅相もありません! 綺麗なお姉さん! 艶やかな長い黒髪に、夏の海のように美しい青い瞳、天使と見紛うかのような凛々しく整った顔、すらりと高い背に抜群のスタイル、そしてそれに似合わぬ圧倒的密度の筋肉、どれをとっても素敵で――――」


「私を監視していた理由を簡潔に述べよ」


「とんでもない実力者が街に来たので、アズーロの街の裏社会のボスである僕が直々に確認しに来ました!」



 私がジロリと睨むとサイモンがあっさりと吐いた。



「この宿屋に泊まらせたのもアンタの策略でしょ」


「気づいていましたか……」


「この宿屋は満室みたいだし、食堂も賑わっている。この街の中でも人気な宿屋のはず。それなのに、小さい女の子が閉門間際の夕方に客引きをしているなんておかしいでしょ。そんなことをしなくても、宿屋にはお客が来るだろうに」


「……その通りです。急遽、宿泊客を1名、別の宿屋に移しました」


「私に怯えていたのは、スキル<危機察知>のせい?」


「スキル<鑑定>もお持ちでしたか」



 サイモンは正座をして居住まいを正した。そして手を上に掲げると、食堂内にいた客たちが首を傾げながらぞろぞろと外に出ていく。



「この街の裏社会のボスっていうのは、本当かもしれないね」


「僭越ながら。王家直々の指名手配犯というのも本当かもしれません」


「へぇ、言うね」



 サイモンは冷や汗をかきながら引き攣った笑みを浮かべた。



「その……いつでも殺し合うみたいな顔やめてください」


「なにせ指名手配犯なんでね。命のやり取りをする覚悟はとっくにできているけど?」


「文献では、異世界人って温厚な人が多いはずなんですけど……」


「人の性質は主に環境が変えるんだよ。……それで、サイモン。私のことを役人に通報しないの?」

 

「俺のスキル<危機察知>があなたを敵にしてはならないと警告しています。そして、生まれてから裏社会で生きてきた僕の勘が、あなたを通報するよりも恩を売れと言っています」



 真剣な面持ちのサイモンを見て、私も思考を巡らせる。


 私が指名手配犯だということをサイモンに知られた時点で、この街にいるのは危険だ。


 しかし、スキル<転移>のおかげで私はいつでもここから逃げることができる。情報収集もある程度はできるし、戦うことだって可能だ。


 たとえサイモンに裏切られたとしても対処はできる。それならば、サイモンを利用しても大丈夫なはずだ。


 もしもサイモンが信用できる人間なら、異世界で初めてできた人脈となる。



「売って欲しい恩があるんだけど」


やっと主人公の容姿が出せました。

カッコいい美人女性がサイコパスって設定が好きなんです。


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