13話 逃亡OLとバジリスク 後編
空中でアイテムボックスを開き、テントで使う丈夫で大きな布を取り出してバジリスクから私が見えないように広げた。
先ほど暗闇に浮かんだ2つの赤い光。おそらく、バジリスクの瞳だ。
地球のファンタジー作品では、バジリスクは目に石化の能力を宿すことが多い。全く確証のないデータではあるが、石化能力があの瞳だと仮定して動くことにした。
始めにバジリスクの身体を見た時は石化は起こらなかったし、分の悪い賭けではないだろう。
「こっちも姿が見えないんだけどな!」
私は石になったポイズンスネイクを数十匹ほどバジリスクがいると思われる個所に転移させた。
――――グァァアアアアアア!!!
先ほどとは違い、痛みに戸惑うバジリスクの悲鳴が轟く。
硬い鱗に覆われていようと、生物の内臓は柔らかいもの。体内に異物――――しかも曲がりくねった石が入れば痛いのだ。
しかし、バジリスクもやられているだけではなく、お返しとばかりに私へ向けて数十本の毒針を飛ばす。
「当たったら死ぬかもね!」
研ぎ澄まされた視力と聴力、極限の状況で鍛え上げられた直感、実戦でものにした体術と剣術。それらを合わせて布によって遮られた視界の中、私は毒針を避け続けた。
空中に飛んでから20秒も経っていない。そんな短い時間の中、私の頭の中は思考が巡る。そして、同調するように身体が動いた。
ゴブリンキングの剣を構え、一閃。
穴が開き、布がボロボロとなる寸前に、私は予測したバジリスクの両目へと剣を突き刺した。
剣は一気に腐食し、ドロドロに溶けながら崩壊する。
バジリスクは悲鳴を上げながらのたうち回った。
「危ないな」
再び上空へと転移し、バジリスクが血の涙を流しながら耐え切れず瞼を閉じているのを確認すると、私は冷静に狙いを定めた。
「<転移>」
バジリスクは断末魔の叫びを上げる暇もなく、胴体が真っ二つに切断される。
猛毒の血しぶきが広がり、ドシンッという地響きを立てながら、絶命したバジリスクが横たわった。
無数にいたポイズンスネイクは先ほどの戦いに巻き込まれ、この場にいたほとんどのものが死んでいる。戦いを恐れたのか、離れた場所にいるポイズンスネイクもここには近づいてこないようだ。
「……さすがに疲れたな」
服はもう腐食してボロボロで、街を歩いたら露出魔とでも言われそうだ。
「さっさと済ますか。<転移>」
バジリスクの死体にスキルを発動させる。
*********
▶レベルが71に上がりました。
▶バジリスクからスキル<毒魔法A><石化E><悪食A><怪力B><スタミナC><石化耐性D>を転移しました。
▶蜂須莉々菜のスキル<毒霧B><毒針S><毒沼A><毒の牙S><毒薬生成A><毒無効>がユニークスキル<毒魔法A>に統合され、熟練度がA→Sになりました。
▶蜂須莉々菜のスキル<聴力>の熟練度がC→Bになりました。
▶蜂須莉々菜のスキル<視力>の熟練度がE→Dになりました。
▶蜂須莉々菜のスキル<転移>の熟練度がD→Cになりました。
▶魔力増加に伴い、アイテムボックスの容量が 7畳 → 一軒家 に上がりました。
<毒魔法S>
毒属性にあらゆる適正と耐性を得る。魔法威力・効果はランクに依存する。希少属性。
<石化E>
生き物・物体を石化する。効果はランクに依存する。
<石化耐性D>
石化に対する耐性。効果はランクに依存する。
<悪食A>
あらゆるものを食べることで消化し栄養とすることができる。ごく稀に食べたものからスキルを得る。
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レベルアップしたからか、石化耐性のスキルのおかげか分からないが、私の左手の石化は解けた。疲労もほとんどなくなったし、スッキリと爽快な気分だ。
私はバジリスクの死体を見ながら笑みを浮かべる。
「バジリスクの死体って利用価値がありそうだな」
魔物解体のスキルがあるぐらいだ。魔物の死体は市場で取引されているに違いない。
試しにバジリスクの死体をアイテムボックスに入れてみると、すんなり入った。どこか遠い場所で高く売ろう。
「……ご、しゅ……じ、んさ……ま……」
「ああ、こんなところにいたんだ」
谷から落ちたというのに、シロタにケガはない。バジリスクの猛毒で痙攣しているようだが、生きてはいる。精霊っていう種族はステータスが低くとも丈夫なようだ。というか、死ねない体質なのかもしれない。
詳しいことを考えるのは後にして、私はシロタの首根っこを掴んだ。
「それじゃあ、今度こそ街に行こうか」
私は毒が充満する死地から転移をした。




