12話 逃亡OLとバジリスク 前編
「さて、人がいる街にでも行きますか」
無慈悲な通知を受け止めた私はすぐに気持ちを切り替えて、毒蛇の谷を離れる決断をした。
そして<転移>を使おうとすると、脳内にけたたましい通知音が流れる。
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▶シロタが生き返りました。
▶シロタが死にました。
▶シロタが生き返りました。
▶シロタが死にました。
▶シロタが生き返りました。
▶シロタが死にました。
▶シロタが生き返りました。
▶シロタが死にました。
▶シロタが生き返りました。
*********
精霊という種族の性質なんか知らないが、どうやらシロタはそう簡単には死なないらしい。
そうなると、このままでは四六時中通知音が流れ続けるのだろう。
うるさいし面倒だ。
「……仕方ない」
私は溜息を吐くと、軟弱な精霊を助けるために谷へと飛び降りる。
咽そうなツンとした刺激臭が鼻腔に広がり、毒液が気化して滞留しているのか肌がピリピリした。
視力をスキルで強化しているからか、暗い谷底でも夜目が利く。地面に蠢くポイズンスネイクたちと激突する前に一度<転移>を使って落下の勢いを殺して着地した。
「手元にある最後の武器だから、本当は使いたくないんだけど」
私はゴブリンキングの剣を円を描くように振り上げ、周りにいたポイズンスネイクを一掃する。
「シロタ、生き返ったら返事して!」
波のように襲い掛かるポイズンスネイクを切り裂いていくと、ゴブリンキングの剣が刃こぼれした。
どうやら先ほど狩りをしていた場所よりも、こちらのポイズンスネイクの方が毒性とレベルが強いらしい。
「早いところ脱出したい気もする」
スキル<直感A>のおかげなのか、先ほどから嫌な予感がする。
環境を破壊するほどのポイズンスネイクが大量に蠢いていることから考えても、生態系になんらかの異常が起きていることは明白だ。
私の嫌な予感の正体が自然環境が作り出したトラップのようなものなのか。
それともゴブリンキングのような強力な魔物の出現を予期させるものなのか。
前者は最悪だが後者は――――
私が思考していると、目の前のポイズンスネイクたちの波が大きく揺らいだ。
「ギシャァァアアアアアア!」
ゴツゴツとした突起に覆われた岩のような肌に、猛毒の滴る鋭い牙。
全長15メートルはあるような巨大な蛇が現れた。
巨大な蛇は大きく口を開けると、ポイズンスネイクたちを喰らいつくす。
ぶちぶちと音を立てながら、ポイズンスネイクが体液と臓物をまき散らしながら千切れ落ちていく。まるで地獄にでも来たような光景だ。
「<鑑定>」
私の目の前に巨大な蛇の情報が表示される。
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種族:バジリスク(魔物)
ユニークスキル:毒魔法A 石化E
ノーマルスキル:悪食A 怪力B スタミナC 石化耐性D
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暗闇にルビーのような真っ赤な光が2つ灯った。
「やばっ<加速>!」
直感に従って私は咄嗟に身体強化と加速のスキルをを使い、自分のできる最高速度で地面に蠢くポイズンスネイクの群れに潜った。
大量のポイズンスネイクに噛まれ、身体に毒を注入されるがそれもしばらくしたら止まる。
……左手が動かない。この感触は石か。
私の上に積み重なるポイズンスネイクも同じように石となっているようで、ピクリとも動かない。
鑑定で表示されたバジリスクの<石化>スキルの影響だろう。
この状態から脱するには、バジリスクを倒してスキルを奪うしかない。
ずりずりとバジリスクが這いずる音と、ポイズンスネイクたちが擦り潰される音が谷に響く。
――――ギァァアアアアアア!!!
尾か何かが私の傍で叩きつけられ地面が揺れた。私の居場所が分かったのか、何かが空を切る音が僅かに聞こえた。
その瞬間、私は辺りにいる石化したポイズンスネイクごと空中に転移する。
「いい加減、命のやり取りも慣れてきたな。スキルを根こそぎよこせ! 蛇野郎!」
私は口角を上げ、不敵に笑った。
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