11話 シロタ死す!!!
「ポイズンスネイクから逃げるのはなし」
「なんでですかぁ……」
シロタの顔が真っ青になった。
「先々のことを考えて、毒耐性を最大限まで上げておきたい。毒殺、とか暗殺の常套手段でしょ。私が毒を使うのはいいけど、使われて死ぬのは絶対に嫌だ。毒殺される前に私が毒殺したい」
「ご主人様は追手がかかっていますからね。でも、毒耐性のスキルを持っているならそれで十分のような。毒を使って反撃するのは過剰防衛のような。そんな気がしないでもないような」
「目には目を歯には歯を。その方が反撃した時により気分がいいでしょう?」
「ボクのご主人様が怖すぎる件について」
グズるシロタを肩に乗せると、私は手近にいたポイズンスネイクを踏みつぶして倒した。
「転移」
ポイズンスネイクのスキル<毒耐性C><毒の牙F>をシロタに移動させた。
「え、えええ、え、嘘です、ボクに、スキルが……」
「行くよ。シロタ、しっかり捕まってて」
両手でナイフを構えると、私は山を駆け上がる。
草木がほとんど生えていないため、岩や砂地を足場にしながら、ポイズンスネイクの群れへと飛び込んだ。
襲い掛かるポイズンスネイクにはナイフを振り上げ、逃げるポイズンスネイクは蹴りで打撃を加え、踊るような身のこなしで効率的に狩っていく。
「<転移><転移><転移><転移><転移>」
死体が100匹ぐらい。ナイフが一本、毒の腐食で使えなくなった。
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▶蜂須莉々菜のスキル<短剣術>の熟練度がD→Cになりました。
▶レベルが60に上がりました。
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「<転移><転移><転移><転移><転移>」
死体が500ぐらい。またナイフが一本、毒の腐食で使えなくなった。
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▶レベルが65に上がりました。
▶蜂須莉々菜のスキル<短剣術>の熟練度がC→Bになりました。
▶蜂須莉々菜のスキル<打撃>の熟練度がB→Aになりました。
▶蜂須莉々菜のスキル<毒耐性>の熟練度がB→Aになりました。
▶スキル<転移>の熟練度がE→Dになりました。それに伴い<転移>の無詠唱が解放されました。
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「無詠唱はめっちゃ楽!」
スキルを声に出しすぎて、喉はもうカラカラだ。
私は口角を上げると、ポイズンスネイクを狩るスピードをさらに上げる。
「アハハ!」
心で念じるだけで、面白いようにポイズンスネイクのスキルがどんどん私の中に吸収されていく。
そして死体が1000ぐらい。ゴロツキから奪った最後のナイフが、毒の腐食で使えなくなった。
ついでに靴も腐食が酷く、ほとんど素足だ。服もボロボロで素肌が見えている。
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▶レベルが70に上がりました。
▶蜂須莉々菜のスキル<短剣術>の熟練度がB→Aになりました。
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「……後は仕方ない。その辺にある物とかで戦うか。オラァッ」
落ちている岩を掴むと、それをポイズンスネイクの脳天にぶつけて。
ぶつけて。
ぶつけて。
ぶつけまくる!
はい。岩が割れたら、素手でポイズンスネイクの身体を引きちぎって。
はい、引きちぎって。
はいはい、引きちぎって。引きちぎって。
引きちぎりまくる! はいはいはい!
この岩と素手のループを高速で流れ作業のようにやっていると、真っ赤な血とどす黒い毒液がシャワー辺りに降り注いだ。
「ご主人様ぁぁあ! 返り血が、返り毒が……どえらいことなってるんですが。正直ホラーでしかないんですけどぉ!」
「何を言っているの。今が一番いいところなんだよ!」
「ボクのご主人様が戦闘民族すぎるんですけどぉぉおお! オークより野蛮な戦い方だよぉぉおお」
泣きわめくシロタを無視し、私はひたすらポイズンスネイクに襲い掛かる。
やがて脳内に高らかにレベルアップの音が鳴り響く。
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▶ポイズンスネイク2576匹からスキルを転移しました。
▶蜂須莉々菜のスキル<毒霧>の熟練度がE→Sになりました。
▶蜂須莉々菜のスキル<毒耐性>の熟練度がA→Sになりました。熟練度が一定値を超えたため、<毒耐性>が<毒無効>に進化します。
▶新たに<毒針S><毒沼A><毒の牙S><毒薬生成A><水泳C>を獲得しました。
▶レベルが75に上がりました。
▶スキル<転移>の熟練度がE→Dになりました。それに伴い、スキル記憶の転移が解放されました。
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「……スキルの記憶ってこういうことか」
脳内に<毒霧><毒針S><毒沼A><毒の牙S><毒薬生成A><水泳C>の使い方が流れて記憶された。
尤も、あくまでポイズンスネイクの使用の仕方なので、<毒の牙>は野性味あふれる噛みつき攻撃の記憶で、<水泳>も蛇の泳ぎ方である。
『スキルの記憶』は魔物からスキルを奪った場合は使い勝手が悪いように思えるが、奪ったスキルでどんなことができるのかが最初から理解できるのはかなり有用だ。
「ご主人様。そろそろ撤退してもいいんじゃないですかね……」
毒液と返り血でベショベショなったシロタが非常に疲れた目で私を見上げた。
お前は何もしていないだろ、という鬼畜なことはさすがに私も言わない。
「<毒無効>も手に入れたし、もうそろそろ行くか。日が暮れる前には人間の街に行きたいし」
私は谷の下に今だ蠢く無数のポイズンスネイクを見ながら言った。
とてもじゃないが数時間ぽっちじゃ駆逐なんて無理だ。効率も悪いし。
「良かったです。とりあえず、どこか安全なところで少し休憩しましょう。まだまだこんなにポイズンスネイクがいるんです、か、ら――――」
「あっ」
「いんゃややあああああ!」
ホッとしたのか、油断したのか。シロタの身体から力が抜け、あっという間に谷底へと落ちていく。
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▶シロタが死にました!
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