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1話 優秀なOLは勇者召喚(巻き込まれ)に気づく

 平日の昼下がり。バス停の前で私、蜂須はちす莉々りりなはスマホで銀行アプリを開いていた。



「……貯金額は一千万か」



 高卒で働き始めて4年。コネもない22歳でこの貯金額はかなり頑張っている方だと思う。


 だが、私にはある野望があった。



「総資産一兆円までの道のりはまだ遠いな。やはり一発逆転は投資かギャンブルか」



 たぶん多くの人は私の野望を無謀だと馬鹿にするだろう。けれど、私は本気だ。



 絶対に私の一生をかけて一兆円貯めてやる!



 私は決意を新たにスマホの画面を消して鞄にしまった。


 すると、ちょうど学校帰りの高校生の男女4人組が、私の横を楽しそうに通り過ぎて行く。




 その姿をなんとなく眺めていると、突然――――その高校生たちが消えた。



「え、嘘。マンホール蓋でも開いてたか!?」



 高校生たちが下水道に落ちたのかと思い、私は駆け出した。


 すると、地面に赤黒い光が満ちる。


 よく見れば、アニメなどファンタジー作品お馴染みの魔法陣のような文様が描かれていた。



「なんじゃこりゃぁああ!」 



 そして、抵抗をする暇もなく私は赤黒い光に吸い込まれた。






    ☆





「うっ、ここは……」



 倒れ込んで目が覚めるとそこは、赤いベルベットの垂れ幕や金の装飾品などが飾られている、欧州によくある観光城のような豪華絢爛な広間の中だった。


 毛布と勘違いするような、今までの人生の中で一番ふかふか絨毯のおかげで、私の身体に痛みはない。


 上半身を起こして天井を見上げると、先ほど見た魔法陣が音楽ライブの演出かのように光り輝いていた。



「――――なのです。この国は今、魔王の脅威に晒され、滅びの危機にあります。どうかお願いです、異世界から参られた勇者様方。わたくしたちをお救いください!」



 

 後ろを振り向くと、舞台衣装のようなお姫様ドレスを身に纏った、どう見ても地毛としか思えない艶々桃色髪の美少女が声高に叫んでいた。


 彼女のさらに後ろには同系統の衣装を着た、見たこともない大粒の宝石で身を飾り付けた夫人と、王冠を被ったおじさんがいる。さらにその周りには、鎧を着た騎士っぽい人が10人以上とローブを着た魔法使いっぽい人もいる。



 桃色髪の美少女の視線の先には、突然消えたはずの高校生たちがいた。私がいることには、まだ誰も気づいていないらしい。


 

「異世界といえば魔王討伐が王道だよな! 冒険だぜ!」



 いかにも活発系という感じの少年が叫ぶ。



「浮かれすぎですよ」



 イケメン眼鏡男子がやれやれと溜息を吐いた。



「魔王なんて知らないよ。帰らせてよ!」



 金髪ギャルは怯えた表情で蹲っている。



「でもでも……困っている人は助けてあげないとだとよね」



 小動物系ゆるふわ女子は困り顔で言った。



 ……うん。控えめに言ってもやばい状況だな。



 ここが異世界かはさておき、状況的に見てもこれは誘拐だ。桃色髪の美少女たち誘拐犯一派は、被害者である私たちに何かさせたいらしい。


 もし高校生たちと一緒に行動したとして、何かあったときに彼らが一番最初に切り捨てるのは私だ。


 よく知りもしない、たまたま一緒に誘拐されただけの年上OL。それと同じ学校の良く知った友達だったら、天秤に乗せる価値もない。


 それに魔王討伐なんていかにも3Kな仕事なんて、一兆円払ってくれないとやりたくない。


 そして、こういう強引で傲慢な奴らは金払いが悪いと相場が決まっている。

 


「四属性魔法使いに、希少な回復魔法の使い手がふたり、さらに勇者様にいたってはスキルを既に5つもお持ちです! 必ずや魔王を打ち取ってくれることでしょう!」



 魔法使いっぽい男が言った……というか、魔法がどうのと真面目な顔で言っているし、本当に魔法使いなのかもしれない。




「帰還についても、お望みであれば魔王討伐後に神が手伝ってくれますわ」



 まるで他人事のように桃色髪の美少女が言った。


 後ろのご夫人と王冠おじさんも満足そうに頷いている。



 ……うわぁ。この手の自分が言ったことを履行するのが当たり前という表情。公私混同しまくりの親族経営会社みたいで嫌だな。絶対に碌な奴らじゃないわ。



 私が苦笑いしていると、活発系の少年が元気よく拳を上げた。



「それなら安心じゃね? せっかくだし異世界を楽しみつくそうぜ! 皆、勇者の俺が守ってやるからよ。ステータスオープン」



 どう考えても安心じゃねーだろうがよ!



 私は内心で毒づきながらも、活発系の少年を観察する。


 彼は『ステータスオープン』と言った後に、まるでそこにタブレット端末があるかのような動作で虚空を指でなぞっていた。



「……ステータスオープン」



 小声でそう呟くと、私の目の前にファンタジー作品かのようなステータスパラメーターが表示された。


 それをざっと確認していると、イケメン眼鏡男子が振り向いてこちらを見た。



「あれ、誰だあの黒髪の人」



 私は慌てて顔を鞄で隠した。



「もう一人お仲間がいたのですか。では、早速鑑定を――――」



 魔法使いっぽいおじさんが近づく足音がしたので、私は急いでマスクと色付きPC眼鏡を装着する。


 これで私の顔はよく分からないはずだ。



 ……さて、同じ巻き込まれ被害者仲間として、高校生たちにアドバイスぐらいはしておくか。



 私は左手を眼前にかざして決めポーズをとった。




「我は伊賀忍者の末裔! 邪心を持つ者共に屈したりせぬ! この虚言癖共め!」



 そう叫ぶとポカンと口を開ける人々の隙をつき、手近なでかい窓からを開けて飛び降りた。



 どう考えてもヤバい人だけど、これが現状の最善策だな。





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