エリーゼに連れていかれた先には
「はぁーー……」
部屋に戻り、目に入ったまつ毛が無事に取れて痛みから解放されたあと……鏡に映る自分を見て、私は深いため息をついた。
これは、精神的な疲れによる息でもあり、やっちまったという後悔のため息でもある。
ああ……あの3兄弟を、思いっきり睨んじゃったぁ……。
エリオットは一度馬車の中で睨んだことはあるけど、ディランやレオンを睨みつけたのは初めてだ。
おもしろい女判定してくれた変わり者のエリオットは別として、ディランやレオンは敵対してくる女を好まないだろう。
一応今日までずっといい子のフリをしてきたのに、すべて台無しだ。
どうしよう。
とりあえず、まだ追い出されてないってことは好感度ゼロにはなってなさそう?
もう確認できないけど、イベントのあとだから好感度の変化はあったはずだ。
ゲームオーバーの表示もないし、どうやらゼロにはなっていないらしい。
ビトあたりがそろそろ来るかな?
私がいなくなったあと、3兄弟が怒ってなかったか聞かないと……。
コンコンコン
「!」
誰か来た! ビト!? まさか、追放の報告!?
「は、はい」
「フェリシー。私、エリーゼ」
えっ? エリーゼ?
慌ててドアを開けると、そこには笑顔のエリーゼが立っていた。さっき会ったときよりも、あきらかに機嫌がいいし元気そうだ。
ひとまず攻略対象の誰かじゃなくてホッと胸を撫で下ろす。
「どうしたの? ルーカス様は?」
「挨拶は終わったわ。それで、ちょっとフェリシーに話があって……。今、いいかな?」
「うん。もちろん」
話? なんだろう?
ルーカスのことかな?
「どうぞ」
疑問に思いつつ、ドアを大きく開けて部屋に入るよう促す。
でも、エリーゼは焦った顔で両手をブンブン振ってそれを拒否した。顔も一緒にブンブン左右に動いていて、とても可愛い。
「あっ。ううん。外で話したいと思ってて。一緒に来てもらってもいいかな?」
「? もちろん」
ニコッと微笑んだ天使エリーゼのあとについて外に出ると、見たことのない場所に連れてこられた。
お屋敷からはあまり見えない、庭の端っこ。数種類の綺麗な花に囲まれたその場所には、これまた白くてオシャレなデザインのベンチが置いてある。
わぁ、綺麗……!
この家にこんな場所があったんだ。
「ここはね、庭師が私のために造ってくれた場所なの。ここなら、私以外の家族は誰も来ないわ」
「そうなんだ。とっても素敵な場所ね」
「でしょ? そこのベンチに座って話しましょ」
「うん」
2人並んでベンチに座り、手入れされた綺麗な花々を眺める。
この空間には美しいものしかなくて、疲れきった心が浄化されていくようだ。
なんて最高の癒し空間……っ!
悪魔兄弟が来ないってだけで、さらに安心感が……って、こんな場所で話したいなんて何かすごく大事な話なんじゃ!?
まったりしてる場合じゃない!
「エリーゼ。それで、話って……」
そう問いかけた瞬間、エリーゼがわざとらしい大声を上げた。
声もいつも以上に甲高くて、やけに演技がかっている。
「あーーっ。いけない、私ったら。大事なもの忘れちゃった!」
「え」
「ごめんね。フェリシー。ちょっとここで待っててくれる?」
「う、うん」
……なんだ? 今の棒読みは?
そう思ってしまうほど、エリーゼの様子が不自然すぎる。
まるで苦手なサプライズをしようとしている人の演技にしか見えなかったけど、なぜエリーゼがそんな演技をするのかわからない。
どうしたんだろう?
疑問に思いながらもその場で待っていると、わりとすぐに足音が聞こえてきた。
ここは静かな場所なので、少し離れた場所からでも人の足音がわかる。
あっ。もう戻ってきた。意外と早か…………って、え?
エリーゼだと思って顔を上げると、そこに立っていたのはルーカスだった。
どこか気まずそうな顔で、ゆっくり私に近づいてくる。
え? ルーカス? なんでここに?
目の前まで来ると、ルーカスはポカンとしている私に申し訳なさそうに声をかけてきた。
「驚かせてすみません。フェリシー嬢」
「ルカ様……どうしてここに……」
ハッ!
待って! ここはワトフォード公爵家!
エリーゼの婚約者と2人で会ってるところを見られたら、変な誤解されちゃう!
「あのっ、2人でいるところを誰かに見られたら困るので、私は失礼しま……」
「えっ! 待ってください! 大丈夫です! エリーゼ様には許可をもらってますから!」
「え?」
エリーゼの許可をもらってる?
一度立ち上がりかけた私がまたベンチに座ったのを見て、ルーカスが小さめの声で説明してくれる。
念のため、誰かがいてもできるだけ聞こえないように配慮しているようだ。
「エリーゼ様にお願いしたんです。フェリシー嬢と話したいって。ここなら誰にも見られないからって、案内してくれて……」
「!」
じゃあ、エリーゼが私をここに連れてきたのは、私とルーカスを会わせるため?




