誰の婚約者になるか……って、勝手に話を進めないで
「大事な話し合いをしていたんだ。二人にも意見を聞こう。俺とディランのどちらがフェリシーと婚約するべきか」
「はあ?」
私、ディラン、レオンが同時にそう反応する。
急に自分も候補に入れられてしまったディランは、顔を真っ赤にしてまたエリオットを怒鳴りつけた。
「何言ってんだ!? なんで俺がフェリシーと……っ」
「あれ? そういう意味で怒っていたんじゃないのか? 自分がフェリシーと婚約したかったんだろう?」
「違っ……! 俺は、勝手に人の婚約者を決めるなってことを言ってただけで……」
「それなら、俺とフェリシーが婚約するのはかまわないと?」
「そ れ は……っ」
ディランはぐぐぐ……っと悔しそうに拳を震わせると、開き直ったかのように叫んだ。
「お、俺だって貴族との結婚は面倒なんだ! だから、だから……それなら面倒がない分、フェリシーと婚約するほうがマシだ!」
「フッ。じゃあ、どちらが婚約するべきか、レオンとビトに聞いてみよう。二人はどう思う?」
まるでディランがそんな結論を出すとわかっていたかのように、怪しい笑みを浮かべるエリオット。
その視線がビトに向けられていたことで、冷静に2人の会話を聞いていたビトがレオンより先に答える。
「自分は口を出せる立場ではありませんので。……フェリシー様が望まれる方を、とお答えしておきます」
「なるほど。では、レオンはどうだ?」
「僕はどっちも反対」
レオンが冷めた口調でそうキッパリ答えると、エリオットは興味深そうに「ほお」と呟き、ディランはショックを受けたように顔を歪めた。
レオンはどうでもいいと言いそうなので、反対されたのはエリオットにとっても意外だったらしい。
「なぜ反対なんだ? レオン。フェリシーが貴族ではないからか?」
「そんなのどうでもいいよ。ただ、さっきディラン兄さんが言ってたこと……僕だって、貴族との結婚なんてしたくないんだけど。だから、フェリシーと婚約すればそれを回避できるっていうなら、僕だってそうしたい」
「……なるほど。つまり、3人全員がフェリシーと婚約したい……ということだな」
ここにいる全員の目が、一斉に私に注目する。
私は怒涛の展開についていけず、ただ茫然とその光景を眺めていた。
「さあ。フェリシー。君は、誰を選ぶ?」
ピロン
『【イベント発生】婚約者を選べ
誰か1人を選んでください
①エリオット
②ディラン
③レオン
④ビト』
「…………」
突如現れたイベントの表示を、ジロリと恨めがましい目で見つめる。
この見慣れたアンティークフレームも、ちょっと変わったフォントの文字も、軽快な電子音も、すべてが腹立たしい。
えっと……何? なんでこんな話になってるの?
なんでディランとレオンまで婚約者候補になってるの?
貴族との結婚は面倒だから嫌だっていうのはわかるけど、それでなんで相手が私になるわけ? どこかで結婚してくれる女の子を見つけてくればいいじゃん。
っていうか、私が好きとかそういうんじゃなく、『貴族と結婚するくらいならフェリシーでいい』みたいな妥協してる感じは何?
これが溺愛ルートのイベントなの!?
どこにも溺愛要素ないじゃん! みんな面倒回避したいだけじゃん!
っていうか私に拒否権はないの!?
私の意見を最後まで聞くことなく勝手に話を進めていた悪魔3兄弟にも、全然溺愛モードじゃないこのクソゲーの仕様にも、人のピンチをおもしろがって聞き耳立てていたビトにも、腹が立つ。
っていうか、攻略対象者は選ばなくていいって書いてなかった!? なんで急に選べって出てきたの!?
ほんっとにこのクソゲーは!!!
これがゲームであれば、超絶イケメンキャラ3人から求婚されるキラキラ展開なのだろうか。
実際はただイライラするだけで、胸キュンとはほど遠い状況だ。
こんなの……誰も選びたくない!
もうここで好感度ゼロになって追い出されても、かまわない!!!
私はいつでも逃げられるように椅子から立ち上がり、キッと3兄弟を睨みつけた。
突然反抗的な顔になった私に驚いたのか、3人とも赤い目を丸くしている。
「私は誰も選びません! 私は……っ」
痛っ!
そこまで言ったところで、突然左目に痛みが走る。
この感じは、おそらくまつ毛が抜けて目に入ってしまったようだ。軽く目を擦ってみるけど、全然取れそうにない。
いたぁ……これ、鏡を見ないと取れないかも。
なんとか目を開けようとするけど、痛みでまたすぐに閉じてしまう。
滲んできた涙が、ポロリと頬をつたった。
ダメだ! 限界! 部屋に戻ろう!
「フェリシー……?」
「……っ。すみません。私はここで……っ」
「えっ……」
早くまつ毛を取りたくて、私はディランの呼びかけにも応じず、ペコッと頭を下げて足早にダイニングを飛び出した。
目を擦りながらドアを閉める際、中から「泣くほど……嫌だったのか?」と言う声が聞こえた気がしたけど、気にすることなくそのまま自室に向かって走った。




