なぜあんな嘘を?
ルーカスはまだ戸惑い顔のままだけど、エリオットの話していることはきちんと理解できているようだ。
いつもより元気はないけど、しっかり会話を続けている。
「エリーゼ様の代わりに……」
「はい。エリーゼは髪色が変わってショックを受けながらも、孤児院へのボランティアを気にしていましたから。妹は本当に優しい子なんですよ」
朗らかに話すエリオットを、エリーゼは胡散臭いとでもいうような目で見ている。
感情が顔に出やすいところは、ディランに似ているかもしれない。
エリーゼ、あんまり乗り気じゃなさそう?
知らない人との婚約なんて不安だけど、性格も良さそうで爽やかでイケメンな私の推しに会えば、安心すると思ったんだけど……。
ルーカスもいつものような眩しい笑顔が消えているし、なんとも空気が漂っている。
これが政略結婚の現実なのかと、居た堪れない気持ちになってしまう。
えっと……私、もう必要ないよね?
出ていったらダメかなぁ?
この空気に耐えきれずソワソワとドアのほうに視線を向けると、それに気づいたのかエリオットがまた私の肩に触れた。
そんなスキンシップが多いタイプではないはずなので、少しだけ違和感を覚える。
……なんでわざわざ触るの?
いつもより距離も近い気がするし……何考えてるの?
「では、我々はこのへんで失礼しようか。フェリシー。あとは、二人でゆっくり話したいこともあるだろう」
「えっ? あ。そ、そうですね」
おお! エリオット、たまには空気読めるじゃん!
なんか胡散臭いとか思ってごめん!
「では、私はここで……」
「フェリシー嬢!」
「!」
エリオットの後押しもあり、すぐに歩き出そうとドアを振り返った瞬間、ルーカスにパシッと手を掴まれた。
でも私がエリオットの婚約者と言われたことを思い出したのか、ルーカスは「あっ」と声を上げてエリオットの顔を見ると、慌てて手を離した。
「すみません。あの……」
「…………?」
「……いえ。なんでもありません」
少し考えたあと不自然に笑ったルーカスを見て、ギュッと胸が苦しくなる。
その笑顔が、まるで泣きそうに見えたからだ。
ルーカス……。
何を言いかけたのか、ちゃんと聞きたい。でも、きっとこの場では言ってくれない気がする。
私はペコッと軽く頭を下げてから、エリオットよりも先に部屋を出た。
振り返ったときに見た、ルーカスとエリーゼの並んでいる姿に胸が痛んだことには気づかないフリをして、一緒に廊下に出たエリオットに冷静に詰め寄る。
「エリオット様。婚約者とは、いったいどういうことでしょうか?」
あまり責めた言い方をしたら逆ギレされるかもしれないし、ここは落ち着いた感じで聞かなきゃね。
エリオットはまったく悪びれた様子もなく、クスッと笑うなりダイニングの方向を指差した。
そのあと、内緒のポーズのようにその人差し指を口の前で立てる。
絶対これスチルであっただろと言いたくなるくらい、絵になりすぎているのが腹立つ。
このイケメンの無駄遣いが……っ!!
いくらイケメンでも、推しでもないあなたには簡単に流されたりなんかしないからね!?
「ここでは中に声が聞こえてしまうかもしれないからね。ダイニングで話そうか」
「……はい」
心の中の反抗が表に出ないよう冷静を装いながら、階の違うダイニングに2人で向かう。
その途中で、キョロキョロしながら廊下を歩いているディランに会った。私たちに気づくなり、すぐにこちらに駆け寄ってくる。
「おい。エリーゼを見なかったか?」
「今クロスター公爵家のルーカス様と会っている。挨拶はまたあとでいいから、邪魔するなよ」
「はあ!? もう会わせたのか!?」
「エリーゼもちゃんと納得していたし、問題ないだろう」
「それは……そうだけど」
グッと言い聞かせられたディランが、エリオットの後ろにいる私にチラッと視線を向ける。
「で、お前たちはどこに行くんだ?」
「ダイニングだ。ルーカス様に俺の婚約者だと言ってフェリシーを紹介したことについて、これから説明するところだ」
「……は?」
ついさっきまでは普通だったのに、一瞬にしてディランを纏うオーラが変わった。
エリオットを睨みつけているその表情は、完全に裏社会の住人の顔をしている。
な、何!? 急にキレた!?




