俺の婚約者???
これもエリオットなりの嫌がらせなのか……そう思うものの、ひとまずは彼の言う通りにするしかない。
私はいつ呼ばれても大丈夫なように、ドアに近づいて耳をすませた。
中からは、エリオットとルーカスの話し声が聞こえてくる。
「2人して立ったままでいるなんて……どうかしましたか?」
「エリオット様。あの、彼女は……」
「妹のエリーゼです。この前はご紹介できずに申し訳ございませんでした」
「彼女がエリーゼ様……? では、自分と一緒に孤児院に行っていた方は……」
ああ……ルーカス、めっちゃ戸惑ってる!
そりゃあ思っていた人とは別人が出てくるんだから、ビックリするよね。
頭の中に、オロオロしている素直なルーカスの姿が浮かぶ。なんとも愛らしく、なんとも不憫だ。
私の推し、可哀想!!!
エリオット、ちゃんと説明してあげてよ!
やけに楽しそうなエリオットの声に若干イラッとしていると、急に名前を呼ばれた。
「フェリシー。入ってきてくれ」
「!?」
えっ? もう!?
まだまともな会話すらしていないのに、もう中に呼ばれてしまった。
どうやらエリオットは、私とルーカス2人同時に説明をするつもりらしい。
ちょっとまだ心の準備が……とか言ってられないよね! 行くしかない!
ゆっくりドアを開けて、チラッと中の様子を確認しながら入る。
不気味な笑顔を貼りつけたエリオットと、気まずそうに縮こまっているエリーゼ、そして、ポカンと口を開けたまま放心状態のルーカス。
みんなが、私に注目している。
「フェリシー嬢!?」
「ルカ様……」
うっ。なんか騙していたみたいで胸が痛いっ。
あまりに困惑した様子のルーカスを見て、ズキズキと良心が痛む。
真っ直ぐに顔を見ることができず、私はフイッと彼から目をそらした。
「なぜ……」
「驚かせてすみません。ルーカス様。俺から説明させていただきます」
気まずい空気の中、1人だけ陽気なエリオットが場を取り仕切る。
エリオットは隣に立っているエリーゼの髪に触れながら、得意げに彼女を紹介した。
「こちらが妹のエリーゼ・ワトフォードです。あなたの……婚約者です。ちょっとした事情で、髪の色が変わってしまったのです。妹はそれにショックを受けて、しばらく家の外に出られない状態でした。……なぁ? エリーゼ」
「……はい」
エリオットに問いかけられて、エリーゼが小さく返事をする。
普通のやり取りに見えるけど、私にはエリオットの「なぁ?」が脅しのように聞こえた。まるで、肯定する以外の返事は許さないとでもいうような、そんな圧のある言葉に──。
こわっ! これじゃ実の兄でも怯えて当たり前だわ!
顔は似ているのに並んでいてもあまり兄妹に見えないのは、エリーゼがエリオットに対して心の距離を空けているからかもしれない。
そんなことを考えていると、今度はエリオットが私の肩に触れた。
次は私の紹介をするらしい。
私のこと、なんて言うつもり?
ここの兄弟と同じで瞳の色が赤いし、親戚の子とでも言うのかな?
話を合わせるために、事前に教えてほしかったわ、まったく。
「こちらは、フェリシー。……俺の婚約者です」
「…………」
え?
「彼女には、外に出られないエリーゼの代わりに孤児院へのボランティアをお願いしていました」
いや……ちょっと待って?
「そのため、あなたに名前を名乗れなかったのです。誤解させてしまい、すみませんでした」
いや。いやいや。いやいやいや。私が孤児院に行ってたことや、名前を言えなかったことをうまく誤魔化してくれたのは助かるけど、そうじゃなくて……今、なんて言った?
私のこと、俺の婚約者って言った?
呆然としている私を横目で見るなり、エリオットはニヤッと口角を上げた。
何も反論できないこの場で言うなんて、完全に私への嫌がらせだ。
「!!」
ほんっとにこの男は! 私が慌てるのを見て楽しんでるわけ!?
楽しんでるよね。そうだよね。そういう男だもんね!!!
エリオットに対して激しい怒りが湧き上がってくるけど、ここで何か言うことはできない。
公爵家同士の大事な顔合わせの場を乱すわけにはいかないからだ。
くっ……よりにもよって、推しの前で変な嘘をつくなんて。
エリオット、絶対許さない!!!




