優しくなったディラン
「ビックリした……。なんでお前、エリーゼの名前を?」
「!」
しまった!
ディランの前でエリーゼって言っちゃった!
エリーゼを呼び捨てで呼ぶようになったのはついさっきで、本人の希望だからだ。
でも、そのやり取りを知らないディランからしたら、私が勝手にエリーゼを呼び捨てで呼んだと思ってしまうだろう。
「申し訳ございませんっ! 先ほどエリーゼ様にお会いして、お名前で呼んでいいと言っていただいたので、つい! でも、今後はちゃんとエリーゼ様とお呼びして……」
「待て待て。俺は別に怒ってないぞ」
「え……」
キレられると思って急いで謝罪をしたけど、ディランはキレるどころか少し困惑した様子でそれを制止した。
眉も吊り上がっていないし、怒っていないのは一目瞭然だ。
「エリーゼが呼び捨てで呼んでいいって言ったなら、好きにすればいい」
「あ。はい……」
あれ? 優しい?
……また怒られなかった。
最近は、あまり怒鳴らなくなったディラン。それでも最初の頃のやり取りが忘れられなくて、私の中ではどうしても怖いイメージが消えなかった。
でも、ここまで態度が変わるとさすがに見る目が変わるというものだ。
さっきのエリーゼへの優しい兄の姿を見たのもあるのかな?
ついクセで怯えちゃうけど、今のディランはあんまり怖くないかも……?
怒られなかったことに拍子抜けしている私を見て、ディランはどこか気まずそうに会話を続けた。
「あーー……、その、エリオットがこの部屋は継続してフェリシーに使わせると言っていたみたいだけど、お前は大丈夫なのか?」
「? それは、どういう意味でしょうか?」
「エリーゼが見つかったら、この家から出ていくって言ってただろ」
「!」
それって、王宮のパーティーで聞かれたやつのこと?
あ。もしかして、それを気にしてここに?
あのときの私は、ディランが一番望んでいると思って「家を出ていく」と答えた。
でも、その答えを聞いたディランは見るからに元気がなくなって、順調だった好感度も下がっていたのだ。
好感度が下がったなら、「出ていく」っていう選択肢は間違ってたってことだよね?
わざわざ確認しに来てくれたくらいだし、ここは普通に家に残るって答えていいはず……。
「大丈夫ですよ。エリオット様にも、まだ家にいるよう命じられましたので」
「それに納得したのか? 本音は出ていきたいんだろ?」
……なんでそんなに聞いてくるの? 出ていくって言ってほしいわけ?
ついそう疑ってしまうけど、ディランの顔を見る限りそれも違う気がする。
王宮のときと同じように、どこか寂しそうな空気を感じるのだ。
そりゃあ本音は出ていきたいけど……家とかお金とか考えると現実的にはまだ厳しいし。
殺される心配がないなら、別にすぐじゃなくてもいいんだよね。
少しくらいは出ていきたいと言ったほうがいいのかと迷いつつ、もう一度否定する。
「いえ。そんなことは……」
「気を使わなくていい。出ていきたいって、お前が言ったんだろ」
「あ、あれは……」
いや。しつこ!! めんどくさ!!
なんで何回も確認してくるの!?
「えっと……あのときは、私が家を出たほうがディラン様はお喜びになると思って、そう答えました」
「え……」
しつこいディランにイラッとして、つい正直に理由を言ってしまった。
ディランは一瞬口を開けてポカンとしたあと、静かに聞き返してきた。
「それは、俺がいつも出ていけと言っていたから……ってことか? お前が出ていきたいと望んでいたわけではないってことか?」
「はい。ディラン様がそうお望みになっていると思いまして」
まあ、望んでいたといえば望んでたけど、今はそう答えないほうがいいよね?
とりあえず適当に話を合わせておこう。
そんな軽い気持ちで素直に答えると、ディランは気が抜けたかのように表情を崩して笑い出した。
「…………ハハッ」
「!」
「なんだ、そうか」
「…………」
え。笑った。ディランが笑った!
ディランの笑顔を見るのはこれが初めてじゃない。でも、こんなに嬉しそうに爽やかに笑ったディランは、初めて見る。
あまりにも眩しすぎる笑顔に、思わずドキッとしてしまった。
ディランもこんな顔で笑うことあるんだ!
ちょっと……なんていうか……可愛くない!?
ディランを可愛いと思う日がくるなんて。これも溺愛ルートになったことの影響なのか。
やはり、少しは私に対しての態度に変化が生じているのかもしれない。
こんな可愛いディランが見られるなら、溺愛ルートにしてよかったかも!
今までのディランは、ほんと怖すぎだったもんね。
ホッとしたのか、ディランから緊張感が消えた気がする。
まだ爽やかなオーラを纏ったままのディランは、改めて私に向かい合った。こんなに近くにいるのに、もう恐怖を感じない。
「たしかに俺に聞かれたら、そう答えるしかないよな。……ただ、1つだけ誤解してほしくないのは、俺は今もお前に出ていってほしいなんて思ってない」
「えっ……?」
「よく考えたら、お前はエリーゼの立場を乗っ取ろうなんてしてなかった。俺が勝手にそう思い込んでいただけだ。お前はエリオットの都合で連れてこられただけだったのに……たくさんひどいことを言って、ごめん」
「…………」
「エリーゼも見つけてくれてありがとう」
「……あ。はい……」
せっかくディランが謝罪やお礼を伝えてくれているというのに、驚きすぎてそんな返事しかできなかった。
優しくなったとは思ったけど、まさかここまで人が変わるなんて。
嘘……本当にディラン?
これ、昔と性格変わりすぎじゃ……。
そこまで考えて、ディランのキャラ紹介ページに『情に厚い』と書いてあったことを思い出す。
今まで表に出ていなかっただけで、実は最初から結構いいヤツだったのかもしれない。
まあ、最初の脅しとか態度はひどかったけど、ちゃんと反省してくれてるみたいだし……ディランと普通に話せるようになっただけで、十分だよね。
これからは、あんまり怖がらないようにしよう。
私は、気にしていないと伝えるためにニコッと微笑んだ。
心なしか、ディランの頬が少しだけ赤くなったような気がする。
「フェリシー。1つだけ、聞いてもいいか?」
「はい。なんでしょう?」
「お前は……今でも俺のことが嫌いか?」
「え?」
パッ
ディランの質問と同時に現れた、アンティークフレームに囲まれた文字。
溺愛ルートになって初めてのイベントだ。
『【イベント発生】本音の確認
どう答えますか?
①「好きです」と言う
②「嫌いです」と言う
③「なんとも思っていません」と言う』
ええっ!? なんでイベントが!?
次はディランの番じゃないのに!!!




