私の新しい役割
「……まだ、言えない」
「えっ!? な、なぜですか?」
「そのときになったら話そう。今はただ、いつも通りに過ごしてくれればそれでいいよ」
「…………」
優しい口調と笑顔に騙されそうになるけど、私に何をさせようとしているのか言わないなんて怪しすぎる。
たいしたことない内容だけど、私を不安にさせるためにわざと言わないのか。
それとも本当にやばい内容だから今は言えないのか──。
怖すぎる……いったい何をさせようとしてるの?
うまく笑顔が作れなくなった私を見て、エリオットは非常に満足そうだ。
まるでさらに困らせてやるとでも言わんばかりに、また中途半端な情報だけを伝えてきた。
「あ。1つだけ。2日後、君に会わせたい人がいる。予定は空けておいてくれ」
「会わせたい人、ですか?」
「ああ」
……誰かは教えてくれないのね。
私のモヤモヤを増やすのがそんなに楽しいの!? この悪魔長男!
そう文句を言ってやりたいけど、なんとか我慢して素直に返事をする。
「……はい。かしこまりました」
「よろしく頼むよ」
くっ……この笑顔がムカつく!
私に会わせたい人って誰!? ……まさかルーカスじゃないよね?
すぐに彼の顔が浮かんだけど、そんなわけないと自分で自分を否定する。エリーゼの婚約者であるルーカスに、身代わりだった私を会わせるわけがない。
「では、フェリシーはもう部屋に戻っていい。ビトは残ってくれ」
「はい」
「!」
あっ! そういえばビトもいたんだった!
静かすぎて、すっかり存在を忘れてた!
私の斜め後ろに立っていたビトが、エリオットと話すために1歩前に出る。
それに合わせて、私は催促される前にと足早に部屋を飛び出した。私の今後の話をしたように、ビトにもこれからの役割について話すつもりなのだろう。
もう私の付き人は終わりかな? それとも、監視の継続?
溺愛ルートの攻略キャラを選んでいないため、ここでビトがいなくなるとは思えない。
きっと、エリーゼの秘密を漏らさないかどうかの監視役として、付き人を継続させると予想している。
まあ、部屋で待っていればそのうち来るよね。
監視されるのは気が重いけど、ビトはこの家で一番の話し相手だ。ちょっと人間性に不安を感じることもあるけど、いなくなるのは正直寂しい。
どうか付き人継続でありますように……と願いながら、私は自室に戻った。
「フェリシー様の監視役として、引き続き付き人をさせていただきます」
「……わかったわ」
私の部屋にやってくるなり、ビトは無表情のままそう報告した。
もう私に隠す必要がないと思っているのか、『監視役』と堂々と言ってしまっている。
やっぱりね。でも、ぼっちにならずに済んでよかった!
予想通りだったため、特に驚きはしない。
むしろ、どこか安心した様子の私を見て、ビトが不思議そうに首を傾げる。
「監視が続くのに嬉しそうですね?」
「え? ああ……だって」
どうせビトがいなくなっても、私の監視がなくなることは絶対ないと思うし。それについては、そんなに気にしてないんだよね。
それよりも、話し相手がいてくれることのほうが大事!
「ビトがいなくなったら寂しいし」
「……え?」
「今、私が頼れるのはビトだけだもん。付き人が継続になって嬉しいよ」
「…………」
ん? 私、何か変なこと言った?
ただ質問に答えただけだというのに、なぜかビトはポカンと口を開けたまま私を凝視している。
いつもは無表情で大人っぽく見えていたビトが、なんだか年相応の青年に見える。
「ビト? どうかした?」
「……いえ。なんでもないです。俺は訓練場に戻るので、お出かけする際は呼んでください」
「わかったわ」
若干早口でそう言うなり、ビトはササッと部屋から出ていってしまった。
不機嫌そうには見えなかったけど、最後はずっと私から目をそらしたままだった。
何? 付き人を継続されたこと、嫌だったのかな?
不思議に思いながら部屋に用意されていた紅茶を飲んでいると、突然部屋をノックされた。
ビトが戻ってきたのかと思い、気軽に返事をする。
「はーーい」
「フェリシーさん。……エリーゼです」
「えっ!?」
エリーゼ!? なんで!?
慌ててドアを開けると、そこには気まずそうに立っているエリーゼがいた。
ディランもいるかと一瞬身構えたけど、どうやら1人で来たようだ。
「ど、どうされましたか?」
なんでエリーゼがここに……あっ。もしかして、やっぱりこの部屋がいいとか!?
家具を返してほしいとか、そういう感じ!?
「あのっ。エリーゼ様が望むなら、私はいつでもこの部屋を出ますので!」
「えっ?」
「家具やお洋服も、もちろん全部エリーゼ様のお好きにしていただいて……」
「ちょっ……待って待って! 違うの。そんな話をしに来たんじゃないわ」
「そう……なのですか?」
エリーゼは焦った様子でコクコク頷いたあと、周りに誰もいないことを確認してから小さな声で尋ねてきた。
「部屋に入ってもいいかしら? ちょっとお話があるの」
「ええ。もちろん」
話? ……何?
見た目は天使のように愛らしく穏やかな美少女だけど、エリーゼはあの悪魔双子の妹だ。
もしかしたら恐ろしい裏の顔があるのかも……と、少しの不安に襲われる。
二人きりになった瞬間キレられたらどうしよう……。
攻略対象じゃないエリーゼはゲームのキャラ説明の中にもいなかったし、性格に関しての情報は何もないんだよね。
……変なキャラじゃ……ないよね?




