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見つかった妹


「エリーゼッ!?」



 エリーゼを連れてワトフォード公爵家に帰ってきた私たち。

 髪色の変わった妹の姿を見るなり、ディランは駆け寄ってすぐに彼女を抱きしめた。



「お前、今までいったいどこに……! どれだけ心配したと思ってんだ!」


「ごめんなさい。ディランお兄様」



 そんなに力いっぱい抱きしめて大丈夫!? って心配になるほど、ディランはさらにギュッとエリーゼを抱きしめた。

 苦しそうなエリーゼに同情してしまうけど、報告を受けて真っ先にやってきたディランのことはちょっと見直してしまう。

 ゲームの人物紹介に書いてあった通り、ディランはやっぱり愛情深いのかもしれない。




 その愛情をほんの少しでも私に……もっと私にも優しく……なんて思ったらダメだよね。

 これは家族の愛なんだから。私に向けられるわけない……。




 家族という言葉に、チクッと胸が痛む。

 前世でも今世でも家族に恵まれなかった私は、ここまで心配してもらえているエリーゼが羨ましい。




 まあ、心配してるのはディランだけ……なんだけど。




 ディランの次にやってきた執事が、「エリオット様が執務室にお呼びです」と言ったのを聞いて、ついため息が出てしまった。

 行方不明だった妹が帰ってきたというのに、すぐにやってくるどころか呼びつけるなんて。




 さすがエリオット……っていうかレオンに至っては無反応!?

 ほんとこの兄弟は……。




「フェリシー様のこともお呼びですので、一緒に来ていただけますか?」


「! あ。は、はい」



 執事に促されて、慌ててディランとエリーゼのあとに続いて歩き出す。

 しれっと私のあとからついてくるビトから、どこかワクワクした楽しそうな空気を感じるのは気のせいだろうか。



「ちょっと。ビトは来なくてもいいんじゃない?」


「いえ。エリーゼ様を見つけたときには俺もいましたし、一応関係者ですから。それに……」


「それに?」


「それに……エリーゼ様の身代わりであるフェリシー様が、今後どうなるのかしっかり見届けないといけませんし」


「…………」




 なんか、それっぽいこと言ってるけど顔が笑ってるんだよなぁ……。

 私がどうなるか知りたいのは嘘じゃないだろうけど、ただおもしろがってるだけだよね?




 ビトに呆れた視線を向けながらも、心の中はソワソワしている。

 念願叶ってエリーゼを見つけられたのはいいとして、私だってこれからどうなるのか未知なのだから。




 もう身代わりは不要って帰されるのかな?

 それとも、秘密を知ってる者としてこの家に置かれたまま?

 この前言ってたみたいに、本当にエリーゼがいる状態でも私がエリーゼとしてルーカスと結婚させられる? ……まさかね。そんなの、ディランが許すわけ……。




「フェリシー様。着きましたよ」



 ハッ


 ビトの声で我に返ると、先頭を歩いていた執事がエリオットの執務室をノックしているところだった。

 心なしか、エリーゼの顔色が悪い気がする。




 実の妹でも、エリオットは怖いのかな……?




 そんな予想が当たっていると確信できたのは、エリオットを前にしたエリーゼの手が、かすかに震えているのを見たからだ。

 こちらまで冷や汗をかいてしまうような、変な緊張感をヒシヒシと感じる。



「おお。エリーゼ。久しぶりだな。無事だったのか」


「……はい」


「心配していたんだぞ。記憶を失っていたというのは本当か?」


「はい……つい先ほど、自分が誰なのか思い出しました」


「そうか」



 オドオドしているエリーゼと、どこか楽しそうなエリオット。

 この楽しそうな様子が、妹が見つかった喜びではなく記憶を失っていたという部分に興味を持っているだけだというのは、顔を見ればわかる。




 心配してただなんて、よくも言えたわね!

 あんたが心配してたのは、エリーゼ自身じゃなくてルーカスとの婚約の件だけでしょ!




 行方不明だった妹と再会したというのに、エリオットの赤い瞳からはあいかわらず何も感情が伝わってこない。

 本当に心底冷たい男なのだと、改めて気づかされる。

 チラチラとエリーゼの様子を確認しているディランが、やけに優しい男に見えるくらいだ。



「エリーゼ。戻ってきてくれて嬉しいよ。ちょうど今日、クロスター公爵家から連絡がきたところなんだ」




 !!!

 クロスター公爵家から連絡って、もしかして……!




 突然出た公爵家の名前に、エリーゼとディランが不可解そうに眉をくねらせる。

 こうして見ると、兄妹そっくりだ。



「クロスター公爵家……ですか?」


「ああ。エリーゼ、お前との婚約を進めたいと」


「!!」



 初耳であろうエリーゼは自分の口を両手で覆い、同じく初めて知ったディランはカッと激昂してエリオットに詰め寄った。

 ギャンギャン喚いているディランを横目に、一瞬だけエリオットが私を見たような気がする。




 この前はエリーゼが見つかっても私とルーカスを結婚させるって言ったくせに、コロッと意見を変えたわね!

 別にそれでいいんだけど、なんかあの意味深な視線が気になる……っ。何!?




「おい! エリオット!! 帰ってきたばかりのエリーゼに何言ってんだ!? いきなりそんな話をされたって、エリーゼが混乱するだけだろ!」


「エリーゼの婚約は確定していることだ。今伝えようがあとで伝えようが、変わらない」


「そういうことを言ってんじゃねーよ!!」


「ディ、ディランお兄様。私は大丈夫ですから……」



 今にも殴りかかりそうなディランを、エリーゼが後ろから抱きしめるようにして止めている。

 私とビトは、まるで部屋の壁になったような気分でその様子を静かに眺めていた。

 激怒しているディランには近づきたくないし、いつエリオットのブチギレ真顔が炸裂するかと気が気じゃない。




 でも、今回はディランに同意……。

 記憶を思い出したばかりでまだ戸惑ってるエリーゼに、いきなり婚約の話なんて。

 いくら相手が最高に可愛くてかっこいい私の推しだとしても、エリーゼにとってはまだ知らない人なわけだし。




 このまま2人を同じ部屋に居させるのは危険だと察したのか、エリーゼがディランをグイグイ引っ張りながら叫んだ。



「エリオットお兄様! また改めて参りますので、今日のところはこのへんで……!」


「おい! エリーゼ! まだエリオットと話が……!」


「ああ。またあとで呼び出そう。そのバカをよろしく頼むな」


「誰がバカだ!!」



 エリーゼに乱暴はできないらしく、文句を言いながらもディランは暴れることなく執務室から出ていった。

 ポツンとの残された私とビトに、エリオットの冷たい視線が向けられる。



「さあ。待たせたね、フェリシー。妹を見つけてくれてありがとう」


「……いえ」


「先ほど聞いたとおり、妹の婚約者はクロスター家のご子息だ。先日君に嫁がせると言ったが、やはりエリーゼを嫁がせることにした。いいな?」


「それは……もちろんです。あの……ですが、先日私を妹だと名乗ってしまった件は大丈夫なのでしょうか?」


「ああ。あんなもの、どうにでもなる」



 あんなもの──という言葉に、ゾクッと背筋が凍る。

 妹だと紹介した件だけではなく、その話をした友人のことも『あんなもの』と言っているように感じてしまったからだ。




 やっぱりエリオットは、他人をただのオモチャや駒としか見てない……。

 



「きっと、ワトフォード公爵家の娘と婚約をしていると知ったら彼は喜ぶだろう。そんな彼が、エリーゼを見たらいったいどんな顔をするのか……楽しみだ」



 そう言ってニヤッと笑ったエリオットは、今までで1番楽しそうに見えた。

 

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