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ルーカス視点②


 どうしよう……緊張する!!



 自分の婚約者がエリーゼ様だと知った2日後、俺はまたワトフォード公爵家を訪れていた。

 今回の目的はエリオット様でもディラン様でもなく、もちろんエリーゼ様に改めて挨拶をするためだ。

 緊張している姿を見られたくなかったため、今回はユータの同行を断り1人で彼女を待っている。




 こんなにドキドキするのは初めてかもしれない……!




 やっぱりユータを連れてきたほうがよかったか? などと考えながら、ソワソワと部屋のドアに視線を送る。

 もうすぐ、彼女がやってくるのだ。




 ……会う許可をもらえたということは、エリーゼ様も婚約者の話を聞いたってことだよな?




 少しの期待と不安。

 ルーカスとして会ったことがないのだから、エリーゼ様は自分の婚約者である『ルーカス・クロスター』がどんな男なのか知らないだろう。




 顔を見たら驚くだろうな……。

 どう思われるだろう? もしショックな顔をされたら……。




 俺は彼女が婚約者だと知って喜んだが、彼女は違うかもしれない。

 聡明な彼女のことだからハッキリと嫌がるような態度はしないと思うけど、少しでも拒絶の空気を感じたら俺は冷静でいられるだろうか。



「……そもそもお前は空気を読めないだろ、って言われそうだな」



 呆れ顔のユータを想像しながらそう呟いたとき、コンコンコンとノックをされた。

 ビクーーッと大袈裟に反応してしまう。




 来たっ!!




「は、はい」


「失礼いたします」



 ゆっくりと開けられたドアから、1人の女性が顔を見せる。

 見慣れない顔に初めはメイドかと思ったが、女性はメイドの服ではなく綺麗なドレスを着ていた。




 ……誰だ?




「あの……」


「はじめまして。ルーカス様。エリーゼ・ワトフォードと申します」


「……え?」




 エリーゼ……様?




 エリーゼ・ワトフォードと名乗るその女性は、あきらかに俺が知っているエリーゼ様ではない。

 年齢は同じくらいだし赤い瞳をしているが、顔つきも違うし何より髪の色が全然違う。

 茶色の髪をしたその女性は、どこか申し訳なさそうな顔で俺を見つめている。



「え……と、エリーゼ様は、その……ピンク色の髪色だとお聞きしておりましたが……」


「はい。以前はそうでしたが、事情がありこの髪色になってしまいました」


「そう、ですか……」



 シーーン……と静まり返る室内で、お互い気まずそうに見つめ合うことしかできない。

 何か言葉を繋がなくてはと思うのに、頭の中がパニックになっていてうまく働かないのだ。




 どういうことだ?

 この方は、自分はエリーゼ様だと嘘をついているのか? 

 いや……でも、ワトフォード家の中でそんな嘘をついたってすぐにバレるだけだ。

 



 エリオット様と孤児院やエリーゼ様の話をしたとき、それはエリーゼ様ではないと言われなかった。

 俺が一緒に孤児院に行っていたフェリシー嬢は、特徴から考えても間違いなくエリーゼ・ワトフォードのはずだ。

 どう考えても目の前にいるこの女性のほうが偽物の状況なのに、心からそう思えないのはこの女性がどこかエリオット様に似ているからなのか。




 どうなってる?

 彼女が本当にエリーゼ様なら、俺が会っていたあの女性はいったい誰なんだ?




「遅れてすみません。ルーカス様」


「!」



 ぐるぐると頭の中で考えていたとき、エリオット様が部屋に入ってきた。

 まだドアの近くに立っているままの女性と俺とを交互に見て、なぜかフッと笑みを浮かべている。



「2人して立ったままでいるなんて……どうかしましたか?」


「エリオット様。あの、彼女は……」


「妹のエリーゼです。この前はご紹介できずに申し訳ございませんでした」


「彼女がエリーゼ様……? では、自分と一緒に孤児院に行っていた方は……」


「ああ……!」



 まるで今思い出したかのような反応だが、どこかわざとらしく感じる。

 エリオット様はニヤッと口角を上げるなり、ドアの外に向かって声をかけた。



「フェリシー。入ってきてくれ」


「!?」




 フェリシー?




 聞き覚えのありすぎるその名前に、俺はまさか……という気持ちでドアを凝視する。

 少しして、薄いピンク髪の女性がオドオドとした様子で入ってきた。

 間違いなく、あのフェリシー嬢だ。



「フェリシー嬢!?」


「ルカ様……」



 そう小さく呟くなり、彼女はフイッと俺から目をそらした。

 気まずそうな女性2人に、動揺している自分。この中で唯一笑顔を保っているのはエリオット様だけだ。




 なんで彼女が『フェリシー』と呼ばれているんだ?

 フェリシーはニックネームで、本名はエリーゼではなかったのか?




「なぜ……」


「驚かせてすみません。ルーカス様。俺から説明させていただきます」



 うまく言葉が出ず呆然としている俺に、エリオット様が明るく声をかけてくる。

 彼は最初に部屋に入ってきた茶色の髪の女性に触れるなり、改めて俺に紹介してきた。



「こちらが妹のエリーゼ・ワトフォードです。あなたの……婚約者です」


「…………」


「ちょっとした事情で、髪の色が変わってしまったのです。妹はそれにショックを受けて、しばらく家の外に出られない状態でした。……なぁ? エリーゼ」


「……はい」



 エリオット様に問いかけられて、エリーゼ様が小さく返事をした。

 あまり仲の良い兄妹には見えないが、横に並ぶと顔立ちがそっくりなのがよくわかる。

 このエリーゼ様がワトフォード公爵家の娘であるのは本当なのだろう。




 だとしたら、フェリシー嬢は……。




 エリーゼ様に触れていたエリオット様の手が、今度はフェリシー嬢の肩に触れる。

 モヤッとした黒い影が胸をかすめるが、その後のエリオット様の言葉にまた頭が真っ白になった。



「こちらは、フェリシー。……俺の婚約者です」




 え? ……婚約者?

 フェリシー嬢が……エリオット様の……?




 よく立っていられるなと自分で思うほど、全身の力が抜けてしまった。

 ただ驚いているのか、ショックを受けているのか、状況が理解できていないのか……自分が今どんな状態になっているのか自分でわからない。



「彼女には、外に出られないエリーゼの代わりに孤児院へのボランティアをお願いしていました。そのため、あなたに名前を名乗れなかったのです。誤解させてしまい、すみませんでした」


「エリーゼ様の代わりに……」




 そうか。だから、彼女は自分のことを何も言えずに……。

 じゃあ、やっぱりこの茶色髪の女性が本物のエリーゼ様で、フェリシー嬢はエリーゼ様ではない……。

 彼女は俺の婚約者ではなく、エリオット様の婚約者……。


 


 絶望という言葉は、きっと今の俺に当てはまるのだろう。

 そう思ってしまうほど、なんとも言えない苦しい感情が俺を襲った。

 


いつも読んでくださりありがとうございます。

今回のお話は、この物語を考えた時からずっと書きたかった回です。

まさか発売日当日に更新できると思っていなかったので、嬉しいです!


不可ヒロ1巻、本日発売✩︎⡱

よろしくお願いします!

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