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溺愛ルートになった変化


 溺愛ルートに変更した次の日。

 私は、レオンのいる中庭に向かってトボトボと歩いていた。

 もしこれが漫画の中なら、私の背景には『ズーーン……』という文字が書かれていることだろう。




 何も……変化がないっ!!




 溺愛ルートになったことで、攻略キャラの私に対する態度が変わると思っていた。

 優しくなったり、恋愛対象として意識されたり、嫌がらせのようなイベントではなく明るく楽しいイベントが起こったり。

 でも、実際は──。




 エリオットはあいかわらず姿を見せないし、ディランは私の顔を見るなり睨みつけてどこか行っちゃうし、ビトはいつも通りだし!

 なんなの!? これが溺愛ルートなの!?




 別に恋愛をしたいわけではないけど、多少はキャラとの距離が縮まって心穏やかに過ごせるようになるのではないかと期待していたのだ。

 地獄のような空気だったワトフォード家の中が、少しは温かいものになるのではないかと。

 でも、今のところ何かが変わった様子はない。




 もうこうなったら実際に試してみるしかない!

 レオンに会わなきゃ!




 レオンは、会った瞬間にイベントが発生する特殊なキャラだ。

 本を持っていない私が挨拶をしたらどうなるのか、好感度の変化をすぐに確認することができる。




 普通なら、本を持ってない状態で挨拶したら好感度が1%下がる……。

 これが溺愛ルートだとどうなるの!?




 中庭に到着するなり、いつもの場所にレオンが座っているのが見えた。

 儚く麗しいその美少年は、あいかわらず鈍器のような分厚い本を読んでいる。



「レオン様、こんにちはっ」



 少し離れた場所から声をかけると、レオンは目だけ動かして私の顔・手元・顔……と順番に視線を移し、何も言わずにまた本に視線を戻した。

 まるで、何もなかったかのような無反応ぶりだ。




 うん。コイツも通常運転ね!

 わかりやすくていい! ちょっとムカつくけど!




「はぁ……。これで好感度が1%下がってたら、本当に溺愛ルートに変わったのか判断がつかな……ん?」



 すぐに確認したくてマイページを開いたというのに、いつもの好感度一覧が出てこない。

 文字が書かれていない真っ白なフレームの右下には、またあの[?]マークがある。




 何これ。なんで好感度が出てこないの? バグ?




 現実世界でバグなんてあるのか? と思いながら[?]マークに触れると、パッと画面が変わった。

 そこに書いてある説明を読んで、私は思わず「はああ!?」と叫んでしまった。



『【ルート変更による好感度表示の終了について】


 溺愛ルートでは、現時点の正確な好感度を見ることはできません。

 攻略キャラの反応を確認して、うまくストーリーを進めてください』




 好感度が見れない!? 嘘でしょ!?




 好感度ゼロでの死亡というリスクがなくなったからか、純粋に相手の気持ちがわからない恋愛を楽しませたいのか、溺愛ルートでは好感度の表示はないらしい。

 それはまぁ納得できるといえばできるけど、だったらルート変更前に言えという気持ちは拭えない。




 これだからこのクソゲーは……っ!!!

 先にそれ言ってよ!! なんでこんな大事なことを言わないの!?

 っていうか、たしかにレオンに会ってもイベント発生してなかった!

 その設定すら変わってるじゃん!!




 予想外の展開に、つい廊下に立ち尽くしたまま頭を抱えてしまう。

 先ほど「はああ!?」と声をあげてしまったけど、聞こえていたであろうレオンは冷静に本を読み続けている。

 まったく興味を持たれていないようで、安心したような悲しいような複雑な気持ちだ。

 



 これ、絶対好感度下がってるよね?

 ……いや。いつも通りか? わからない……。




 前世を思い出したときからずっと見えていた攻略対象者の好感度。

 今までは自分の言動が正しいのか間違っているのかすぐに確認できたけど、もうそれを知る術はないのだ。

 それが普通とはいえ、やっぱりどこか心細い。



 

 ……まあ、見えなくても大丈夫……だよね?




 死ぬことがないなら、好感度が見えなくても特に問題はないはずだ。

 たとえゼロになってしまったとしても、家から追い出されるだけで済むからだ。

 問題があるとすれば、誰かの好感度が100%になって結婚エンドになってしまうことだけど……そんな可能性は限りなくゼロに近いだろう。



「まさか、ここにきて好感度が見えなくなるなんて……」


「コウカンドとはなんですか?」


「わあっ!!」



 突然の背後からの声に、驚いて数センチ飛び上がってしまった。

 振り返ると、どうして今まで気づかなかったのか不思議なくらい近くにビトが立っている。



「ビト! 驚かさないでよ!」


「普通に声をかけただけですが。それより、コウカンドとはなんですか? 見えなくなったって、何か目に異変でも?」


「……なんでもないわ」




 そういえば、ビトは地獄耳なんだっけ。

 変なことを口にしないように、気をつけなきゃ。




「ところで、なんでここに?」


「フェリシー様を捜していました。新しい孤児院の情報が入ったので」


「!」



 

 また新しい孤児院を見つけたんだ……!




 すでに何軒か回ったけれど、いまだにエリーゼは見つかっていない。

 まだ私が行っていない孤児院の場所など、ビトに調べるように頼んでいたのだ。




 溺愛ルートになって死ぬことはなくなったけど、エリーゼ捜しは続けなきゃ。

 エリーゼだって、自分の家に帰りたいはずだし!




「ありがとう。すぐに行くわ」


「わかりました。では、馬車の準備をしてきます」


「馬車? 私は馬車は使ったらダメだって、ディラン様に言われているけど……」


「……そのディラン様が、許可されたんですよ」


「ええっ!?」



 それだけ言うなり、ビトはスタスタと歩いていってしまった。

 その場に残された私は、恐る恐るディランの部屋の方向に視線を向ける。




 ディランが馬車の許可を出してくれた? なんで?

「ワトフォード公爵家の者だとバレないように馬車は使うな」って言ってたくせに……。

 



 ルート変更して、最初の違和感。

 まさかこれが溺愛ルートに変更したことによる恩恵なのかと、首をひねる。




 よくわからないけど、これが変化の1つ?

 なんだか……なんだか……しょぼすぎない!?




 イケメンキャラとの恋愛メイン乙女ゲームに設定が変更されたというのに、その結果が『馬車が使えることになった』だなんて、正直言って残念すぎる効果だ。




 いや。いいんだけどね!? 十分嬉しいんだけどね!?

 でもさ、もっと笑顔で会話できるようになるとか、睨まれたり無視されなくなるとかさ、もっとなんかあるじゃん!?




「はぁーー……っ」



 さすがクソゲーというべきか、なんというか……私は自分の心を落ち着かせるために、深く息を吐いた。

 今さらこのゲームの仕様に文句を言ってもどうにもならないのだ。



「とりあえず、今はエリーゼを早く見つけてあげることだけ考えるか……」



 現実逃避するかのように、私は気持ちを切り替えて玄関に向かって歩き出した。

 まさかこのあと、すぐにルート変更による大きな状況変化が起こるとも知らずに──。



ここまで読んでくださった方、ブクマや評価、リアクションをしてくださった方、本当にありがとうございます。

いつも執筆のヤル気をいただいております!


次回はノベル1巻発売日(15日)付近ということで、14・15・16日の3日連続で更新いたします。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


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