ルート変更……する?【12/15発売ノベル1巻書影あり】
溺愛ルート……どうしよう!
こっちのルートを選ぶべき!?
「…………リシー」
でも、溺愛ルートを選んだら、誰かを恋愛対象として選択しなきゃいけなくなるかも!
「……フェリシー」
この攻略対象者の中から、いったい誰を選べば……
「フェリシー!」
「はいぃっ!!」
突然大声で名前を呼ばれて、ほぼ反射で返事をしてしまった。
顔を上げると、エリオットの不快そうに細められた赤い瞳が私を見据えていた。
「何ボーーッとしているんだ?」
「もっ、申し訳ござ……」
「はぁ……。いいから、とりあえず椅子に座れ」
エリオットに言われ、今自分が馬車の床に座り込んだままだったことを思い出す。
慌てて椅子に座り直している間、エリオットは御者に出発するよう伝えていた。
いけない……今はエリオットと一緒だし、ルート変更についてはあとで考えなきゃ。
チラリと宙に浮かんでいる文字を横目で見るなり、私は平静を装って姿勢を正した。
とはいえ、つい先ほどいろいろな失態をおかしているので、今さらおとなしい令嬢のフリをしたところで意味はないのだけど。
石になろう。うん。そうよ。私は石っころ。
家に着くまで、ただの置物としてここに存在していよう……。
目の前に座るエリオットからなんとも言えない視線を感じるけど、私は絶対に目を合わせることのないよう、目を閉じて顔を下に向けた。
話しかけてこないで! という私の念が通じたのか、それ以降エリオットが声をかけてくることはなかった。
*
「本当に……エリオットの好感度もピンクになってる……!」
自分の部屋に入るなり、私は速攻でマイページを開いて好感度を確認した。
予想していた通り、エリオットの好感度の数字も他のキャラ同様薄いピンク色になっている。
『好感度
エリオット……20%
ディラン……25%
レオン……27%
ビト……55%』
「好感度20%かぁ……。3%も上がってる……」
好感度が上がったことも驚きだけど、全員が20%以上なことにも驚きだ。
なぜなら、前世プレイしていたゲームでは最高好感度が17%までしかいかなかったのだから。
まさか、こんなに高くできるなんて……って、一般的には全然高くないけどね!?
クソゲーを基準にしてるせいで、30%以下なのに高い数値だって思っちゃうわ!
「はぁーー……っ。まあ、そんなことより今はこれをどうするか考えないと、ね」
好感度のマイページに被るようにして浮かんでいる、もう1つのフレーム。
私が選択していないからか、消えることなくずっと浮かんだままだ。
『【ルート変更チャンス】
全員の好感度変化を達成しました。
家族ルートから溺愛ルートに変更できます。
ルート変更しますか?
はい・いいえ』
「はぁ……ほんと、どうしよう」
前にも少し考えたことがあるけど、もう一度ルート変更をした場合のメリットとデメリットについて考えてみる。
溺愛ルートに変更した場合のメリットは、なんといっても死なない可能性が高くなるってことだ。
恋愛メインの乙女ゲームだと、たとえバッドエンドでも『死』なんて展開にはならないはずだ。
でも、その分誰かと恋愛をしなきゃいけないってことになるんだよね……。
そう。これがデメリットだ。
恋愛メインのゲームに変わるということは、私が誰かと恋愛をしなければいけないのだ。
あのクセ者だらけの攻略対象者の誰かと──。
うっ! 無理っ! みんな無理っ!!
誰かと恋に落ちるなんて、そんなの絶対ありえない!!
あのメンバーが女の子を好きになるところなんて想像できないし、なんとなくそんな姿は見たくない気もする。
見た目だけは文句なしのイケメン集団だけど、性格に難がありすぎだ。
「どうすればいいの!? せめて、溺愛ルートがどんなものか内容を知ることができれば……!」
そこまで言って、ハッとしてフレームを見上げる。
もしかして……という私の期待通り、豪華なアンティークフレームの右下に[?]マークがついている。
ちっっっさ!!! マークちっさ!!!
全然気づかなかった! ほんっとこのクソゲーってばクリアさせる気ないよね!?
そんな文句を心の中で言いながらも、すぐにその[?]マークに触れる。
普通のゲームと一緒なら、これはヘルプマークのはずだ。
ちゃんと機能してくれたら、溺愛ルートについて何か説明が……!
パッ
『【溺愛ルートについて】
家族ルートとは違い、攻略対象者の好感度が100%になると、その対象者と結婚できます。
好感度が足りない場合は、結婚できません。
失敗して好感度がゼロになると、家から追い出されてしまいます』
出たっ! これよ! この説明書が欲しかったの!!
興奮しながら読み進めるたびに、明るい兆しが見えてくる。
ハッキリと、好感度がゼロになったら家を追い出されると書いてあるのだ。
「家を追い出されるだけ? 本当にそれだけ? ……やったぁーーーー!!!」
死なない!! 好感度がゼロになっても、死なない!! しかも、好感度が足りなければ対象者との結婚もなし!
じゃあ、もうこれを選んでもデメリットなんてないじゃん!!
溺愛ルートを選んで、好感度が上がりすぎないようにすればいいだけ。
それだけで、私は死ぬことなくこのクソゲーから離脱できるのだ。
「そんなの簡単すぎる! だって、普通にしてたらアイツらが私を好きになるはずないし!」
どうしよう。ここは1番好感度の低いエリオットにしとく?
それとも、私のことを1番疎ましく思ってるディラン?
それとも、挨拶しただけで自在に好感度を下げられるレオン?
1番好感度の高いビトは、絶対になしだよね?
「うーーん。どうしよう?」
理想的な展開に舞い上がっていた私は、まだ先ほどの説明の続きを読んでいないことに気がついた。
慌てて読むと、そこにはさらに私の理想的な内容が書かれていた。
『どの攻略対象者にするかは、選んでも選ばなくてもいいです。
全員攻略のハーレムルートを目指しながら、最後に1人を選ぶことも可能です』
「……嘘! 誰かを選ばなくてもいいの!?」
ハーレムルートなんて聞き捨てならないけど、誰も選ばなくていいのは非常に助かる。
誰か1人のルートを選んでしまったら、そのキャラとのイベントが盛りだくさんになってしまう可能性が高いからだ。
さっすが設定ボロボロのクソゲーね!
こういう適当なところは助かる!
まあ、好感度100%にならない場合のクリアのタイミングがいつなのかとか、わからないことも多いけど……いざとなったら好感度をゼロにしちゃえば終わるわけだし!
できることなら、波風立てずに終わる『好感度が足りないラスト』を目指したい。
不明な点は多くても、死ぬことはないという結果を知れただけで大満足だ。
「よしっ! そうと決まればさっそく!」
『ルート変更しますか?
はい・いいえ』
私は、自信満々に『はい』をポチッと押した。
その瞬間、ずっと浮かんだままだった文字がスゥッと消える。
世界観に何か変化があると思ったけど、文字が消えた以外は特に何も変わっていない。
……えっと。何も変化ないけど、これで本当に溺愛ルートになったのかな?




