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殺されるくらいなら、逃げます!!


 私……今、1番選んじゃいけない答えを言わなかった……?

 っていうか、私……エリオットに怒鳴った???




 サーーッと全身から血の気が引いていく。

 今頭に浮かんでいるのは、『ゲームオーバー』という言葉だけだ。

 きっと家に帰ったら行方不明になっていたエリーゼが戻っていて、用無しになった私は口封じのために殺されるのだ。




 さっきはエリーゼが戻っても変わらないって言ってたけど、好感度がゼロになったらそんなの関係なく私を殺すはず……!




 エリオットの顔からはもう笑顔は消えていて、クビにしたメイドを見ていたときと同じ目──冷たく細められた赤い瞳で、私をジッと見据えている。

 さっきまでのエリオットとは、雰囲気が全然違う。



「……フェリシー。随分と態度が変わったな? ……いつから俺にそんな偉そうな口をきけるようになったんだ?」


「…………っ」



 感情のない冷めきった声。

 エリオットの静かな怒りを察し、私の脳内には再度『ゲームオーバー』の文字が浮かぶ。

 前世で何度も何度も見てきた文字だ。




 ダメだ……! 殺される……っ!!




 ゲームでは、毎回エリーゼが家に戻ってから私が殺されるという流れだった。

 この世界でもその流れになるなら、家に帰ってきているエリーゼと会うまでは殺されないということになる。




 このまま家に帰るのは危険!

 なら、少しでも生きる可能性を考えて……逃げるしかないっ!!




 チラリと馬車の取手に視線を送る。

 馬車は街中を走っているためスピードも比較的ゆっくりだし、このくらいなら飛び出しても大怪我をする心配はなさそうだ。



 

 まだ人通りも多いし、馬車から飛び降りた私を追いかけるなんてエリオットはしないはず!!

 私と違って、誰かに見られたら困るもんね!?

 怖いけど……黙って殺されるのを待ってるわけにはいかない!!




「……エリオット様」


「なんだ?」


「今までお世話になりました!」



 エリオットの「は?」という声が聞こえたときには、私は腰を上げて馬車の取手に両手をかけていた。

 ガチャッとドアを開けたタイミングで、エリオットが私の腰に手を回して動けないようにし、もう片方の手で勢いよくドアを閉められる。



「何やってるんだ!?」


「……離してくださいっ!」


「何言って……」



 バタバタと暴れる私を抑えようと、エリオットの腕に力がこもる。

 グイッと腰を引かれる状態になった私は、そのまま後ろに倒れてしまった。



「きゃっ……!」



 ドタドタ……ッ!!

 2人が倒れる音と振動が、馬車の中に響く。




 痛っ……くない? あれ?



 

 覚悟していた痛みを感じない代わりに、自分の下に人の感触と温もりを感じる。

 それと同時に、今自分がどんな状態なのか……誰を下敷きにしてしまっているのかに気づき、慌てて起き上がった。



「もっ、申し訳ございま……!」



 ガバッと顔を上げた瞬間、思ったより近くにエリオットの顔があり、驚いて言葉が途切れてしまう。

 仰向けに倒れているエリオットの上に覆い被さり、両手を伸ばして起き上がっている状態の私。

 完全に押し倒しているようにしか見えない。




 え。何これ。

 押し倒された超絶イケメンを拝めるっていう、激レアラッキーイベントでも発生した?




 目の前にある規格外の顔面を見て、一瞬だけゲームプレイ中の脳内に変換されてしまった。

 すぐに我に返り、光の速さでエリオットから離れる。



「申し訳ござ……うっ!」



 ゴツッと鈍い音とともに、頭に激痛が走る。

 狭い馬車の中で思いっきり立ち上がってしまったため、頭をぶつけてしまったのだ。




 いったぁーーーーい!!!




「うう……っ」



 あまりの痛さに、呻き声をあげながらその場にうずくまる。

 ズキズキと痛む頭を両手で抱え込んでいると、「ふっ」と小さな笑い声が聞こえた。




 えっ?




 まさか……と思いながら見上げると、エリオットが少しうつむきながら肩を震わせているのが見えた。

 勘違いでもなく見間違いでもなく、あのエリオットが笑っている。冷酷非道の長男、エリオットが笑っているのだ。



「クッ……クックッ……」


「…………」




 え……なんのバグ?

 このゲーム世界、崩壊でもするの?




 そう思ってしまうほど、普通に笑っているエリオットの姿はなんとも違和感だらけだ。

 バグのせいでキャラ崩壊が起こっているとしか思えない。




 な、なんなの。頭でも打っておかしくなっちゃった?

 あっ。それとも、本当にブチギレたときは笑いながら罵倒してくるタイプのサイコパスとか?




 ひと通り笑って満足したのか、エリオットは「フゥーー」っと長く息を吐き出したあとに私を見下ろした。

 今は、エリオットは馬車の椅子に座っている状態。私はその横でうずくまっている状態だ。

 私たちがバタバタしていたからか、いつの間にか馬車は止まっている。



「威勢よく吠えたり馬車から飛び降りようとしたり、やけに度胸のある行動をしたと思ったら、次は急に頭をぶつける間抜けぶり……フェリシー、君はおもしろい女だな」


「!!」




 おもしろい……女?




 その言葉を聞いた途端、張り詰めていた緊張が一気にほぐれたのか全身から力が抜ける。

 前世でこのクソゲーについて調べていたとき、各キャラの『攻略クリアの条件予想』が繰り広げられていたのを目にしたことがある。

 その際、エリオットのクリア予想は『エリオット本人に「おもしれー女」と言われること』という意見が非常に多かったのだ。




 これ、エリオットのクリア条件……ハッ!

 いやいや! それはあくまでプレイヤーが勝手に予想してただけで、公式が発表した内容じゃないし!

 ……でも、もしかしてゲームオーバーにはなってない?




 エリオットが目の前にいるけど、好感度の見えるマイページを開いて確認したほうがいいのか。

 そんなことを考えていると、ピロンという電子音とともに勝手にマイページが開かれた。

 前に一度だけ見たことのある、いつもよりも少し豪華なアンティークフレームだ。



『【ルート変更チャンス】


 全員の好感度変化を達成しました。

 家族ルートから溺愛ルートに変更できます。


 ルート変更しますか?

 はい・いいえ』




 好感度変化を達成……?

 それって、やっぱり今回ので好感度ゼロにはなってないってこと?




 即ゲームオーバーではないと知り、どっと安心感が押し寄せる。でも、そんな安心感に浸っている場合ではない。

 今、私は重大な選択を迫られているのだから。




 これ、どっちを選んだらいいんだろう?

  溺愛ルートに変更したほうがいいの?

 ……わかんないよ!! どっちが正解なの!?


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