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この男は何を考えてるの!?


「フェリシー、君は本当に物欲がないんだな。それとも、何か考えがあってわざと俺からの贈り物を断っているのか?」


「ま、まさか。ただ、身につけていく場所もないので遠慮しているだけです」


「……そうか」



 エリオットの赤い瞳にジッと見つめられて、心臓がキュッと締めつけられる。

 今は、ガタガタと震える手を必死に抑えておくので精一杯だ。




 もう!! エリオットは何を考えてるの!?




 ドレスの店で「好きなものを買ってやる」と言われたのを断ったあと、宝石店、帽子屋、バッグの店など連れ回され、どの店でも同じことを言われたのだ。

 目的がわからず怖かったため、ドレスに引き続き全部の買い物を拒否した私。

 そんな私を、エリオットは興味深そうにジロジロと見てくる。




 ほんっとになんなの!?

 なんで私に何かを買い与えようとするの!? 意味わかんない!




 恐ろしいのは、エリオットの反応が微妙そうに見えることだ。

 私の対応で楽しんでいる様子はない。確実に今は『おもしれー女』判定されていないのがよくわかる。

 でも冷たい表情になっているわけでもないので、エリオットの嫌いな『つまらない女』判定されているわけでもなさそうだ。




 つまり、断るのは正解でもないけど不正解でもないってことだよね。

 たぶん……だけど、『素直に買ってもらう』『断る』以外の予想外な答えを望んでいるような気がする……!




「では、次の店に行こうか」


「は、はい……」




 まだ行くの!?

 もういい加減諦めてよ! 何を言われても、私はあなたに高級品を買ってもらったりしないからね!




 何か変わった答えを言ってみてもいいけど、もしそれがエリオットの地雷になっては大変だ。

 彼の態度を豹変させる可能性を考えると、ここは安全な『断る』という選択肢しかない。




 さあ、次はどこの店に連れていく気!? 

 高級ヘアアクセサリーのお店!? それとも高級な靴屋さん!?




「着いたぞ」


「……え」




 ここって……カフェ!?




 エリオットが足を止めたのは、白と薄い水色で統一された綺麗でおしゃれなカフェの前だ。

 店内には女性の客が多く、テーブルの上には小さなケーキやフルーツが並んだ3段のケーキスタンドが置かれているのが見える。




 ふわあああっ!! 美味しそうっ!!!




 エリオットとのお出かけで憔悴しきっていた私は、目の前に並んだ甘い誘惑に見事釣られてしまった。

 私の表情ですべてを察したらしいエリオットに誘導されて、おとなしく席に着く。

 店内の女性たちから向けられる羨望の眼差しも、もう慣れたものだ。



「ドレスや宝石は断ったのに、ここは断らないとは。フェリシーは、装飾品よりも食べ物のほうが嬉しいのか?」


「……そう、ですね」


「なるほど。それはたしかに……普通の令嬢とは少し違うかもしれないな……」


「え?」


「いや。なんでもない」


「…………」




 普通の令嬢とは少し違う? たしかにって……何に対して?

 誰かが私のことを普通の令嬢じゃないって言ってたってこと? でも……。




 誰か、とはワトフォード家の兄弟かビト、使用人たちしか思い当たらない。

 私の存在を知っている人はそれしかいないのだから、当然だ。

 でもその人たちはみんな私が元平民の孤児だと知っているし、普通の令嬢じゃないなんて今さら言うのはおかしい。




 もしかして、一昨日エリオットを訪ねてきた大事なお客様?

 もしその人が私のことを知っているなら、やっぱりそれはルーカスってことになるけど……。

 いや。でも、ルーカスは私がワトフォード家に関わってるって知らないし、そんなわけないよね。じゃあ、エリオットはいったいなんの話をして……。




「エリオット!」



 届いたケーキを食べていると、急に背後から男性の声がした。

 フォークを口から離し振り返ろうとしたときには、その男性はすでに私たちのテーブルの横に立っていた。

 エリオットと年の近そうな若い貴族男性だ。



「久しぶりだね、ロイ」


「こんなところで何をやっているんだ? ……っと」



 笑顔でエリオットに声をかけた男性が、私の存在に気づいて遠慮がちに言葉を止める。

 勝手に名乗るわけにいかないため、私もペコッと軽く頭を下げることしかできない。




 いけない! 今日の私はエリオットのどういう関係者なのか、事前に確認するのを忘れてた!

 呼び捨てにするほどの仲みたいだし、妹や婚約者って誤魔化すわけにはいかないよね。

 友達……にしては年も違うし、なんて説明するの?




 困った視線を送ると、エリオットはニヤッと少しだけ口角を上げてから男性を見上げた。



「紹介するのは初めてだったな。妹のエリーゼだ」


「!?」




 えっ? 妹? 妹のエリーゼって紹介した?

 私を!? なんで!?




「妹? ああ。そういえば妹がいるって言ってたな。はじめまして」


「は、はじめまして」



 その挨拶のあとは、エリオットたちが短い会話をするのをただただ聞いていた。

 私について深く追求してくる人じゃなくてよかったという安心感と、なぜエリオットは私を妹と紹介したのかの疑問で頭がパニック状態だ。




 え? え? なんで?

 私を妹の身代わりにするのは、誰かの好感度が100%になったとき……このゲームをクリアしたときだけのはずなのに……。




 そのあとは味のしないケーキや紅茶をなんとか喉の奥に押し込み、私は帰りの馬車の中でエリオットに尋ねた。

 これもエリオットの試し行動の1つなのかもしれないけど、聞かずにはいられない。



「あの、エリオット様」


「なんだ?」


「なぜ……私を妹だと紹介したのですか? まだ私はエリーゼ様を名乗ってはいけないのでは?」


「…………」



 口元は笑っているが、目には優しさが一切ない。

 そんな恐ろしい赤い瞳に少しの間見つめられたあと、エリオットは私から目を離さないまま答えた。




「もういいかと思ってな。君にはもうすぐエリーゼとして結婚してもらうつもりだから」


「えっ?」




 結婚!?

 まだ好感度が100%になってないのに、もうその話を!?




「あの、そのお相手は……」


「まだ言えないが、好青年だから安心するといい」


「…………」




 好青年って、間違いなくその相手はルーカス……だよね?

 え? なんでゲームクリア前に、その話を?

 私をエリーゼとして表に出しちゃったら、あとから本物のエリーゼが見つかっても交換できないじゃん!!


 どうするつもりなの!?!?


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