エリオットからの命令
一刻も早くエリーゼを見つけなくちゃ!!
ディランとレオンの好感度が下がってしまったことで、私は焦っていた。
今まで順調に好感度が上がっていたため、危機感が薄れていたんだと思う。
改めて、このクソゲーを舐めてはいけないのだと身に沁みてわかったのだ。
「ルーカスと約束してない日も、積極的に孤児院を回らなきゃ!」
最後に孤児院で会った日、「次は3日後に」と約束をした私たち。
急遽ディランとパーティーに参加することになり忙しくなってしまった私は、ビトにお願いして1人で待ち合わせ場所に行ってもらったのだ。
一緒に行く日を変えてほしい……そう伝言を頼んだのだけど、なんとルーカス側も同じ提案をしてきたという話だった。
変更日は来週だけど……そこまで待ってられない!
ルーカスには悪いけど、その前に1人で違う孤児院に行っちゃおう!
そう決意を固め、マゼランが用意してくれた温かい紅茶を飲む。
以前はこんなことしてくれなかったのに、なぜか最近は紅茶やお菓子を運んでくれるようになったのだ。
これ、ディランの「私に尽くすな」っていう命令が解除されたのかな?
エリオットは私をエリーゼと同じように接しろと使用人に伝えていたけど、ディランが個人的にそれを邪魔していたのだ。
でも、最近はメイドたちから無礼な言葉遣いなどはされなくなっている。
……まあそれでも態度は悪いし、紅茶とかも用意するだけですぐ部屋からいなくなってしまうのだけど。
今さら私に笑顔で尽くすとかできないよねぇ。されても怖いし。
でも、紅茶やお菓子を用意してくれるのは嬉しいな〜。
もしこのまま好感度が下がっていったら、また尽くすなって言われちゃうのかな?
そんなことを考えていると、ビトが戻ってきた。
ビトの顔を見た瞬間、彼がエリオットに呼び出されていたことを思い出す。
連続で好感度が下がったことにショックを受けて、すっかり忘れていたのだ。
ああっ! そうだ! こっちの問題もあったんだった!
「ビト! おかえり。エリオット様の用事、なんだったの?」
ビトは真顔のまま私と目を合わせ、一瞬迷うように目を泳がせるとニッと口角を上げた。
この笑顔がどんな意味を持っているのかわからないけど、なんとなく嫌な予感がする。
「……3日後、大事なお客様がいらっしゃるから、フェリシー様には外出していてほしいそうです」
「大事なお客様?」
「はい。万が一お顔を見られたら困るとのことで、自分と一緒に外出するように言われました」
「…………」
私はまだ『エリーゼ』として表に出られない身なので、言っていることは理解できる。
できる……けど、何かがおかしい。
今までもお客様が家に来ることは何度もあったけど、『外出をしていろ』と言われたのは初めてだ。
なぜなら、『部屋から出るな』と言えばそれで解決だからだ。
勝手に動く小さな子どもではないし、わざわざ家から出さなくても部屋の中にいれば客に会う心配はないはずだ。
そこまで警戒するほど私に会わせたくない相手……手紙が届いたって言ってたし、やっぱりそれルーカスなんじゃないの!?
「そのお客様の名前は!? もしかして、ルカ様!?」
「……さあ。お名前までは聞いておりません」
本当に!?
さっきのニヤ顔、そのお客様が誰だか知ってるからなんじゃないの!?
「本当に知らないの?」
「変な詮索はやめたほうがいいと思いますよ。……エリオット様の機嫌を損ねたくないのなら」
低い声でボソッと呟かれて、思わず「ヒィッ!!」と声が漏れてしまった。
ビトの言うとおり、エリオットが隠そうとしていることを詮索するなんて、喧嘩を売っているようなものだ。
もしバレたら、即ゲームオーバーもありえる。
「そ、そうね。でも、1つだけ聞いていい?」
「俺に答えられることなら」
「その日、ディラン様は一緒にお客様に会う予定なの?」
「!」
この質問だけで、私が何が言いたいのかを察してくれたらしい。
ビトはフッと軽く微笑むと、首をフルフルと横に振った。
「いえ。その日、ディラン様も用事で出かけるそうです。まあ、正確には、エリオット様がディラン様に用事を与えたわけですが」
「! ということは、エリオット様はそのお客様をディラン様にも会わせたくないってこと?」
「さあ。そこまでは」
最後の質問はうまくかわされてしまったけど、ディランが同席しないと聞けただけで十分だ。
エリオットとルーカスが婚約のことについて話す分には問題ないけど、そこにディランがいたら私とルーカスが知り合いだとバラされてしまうからだ。
まだ、エリオットは私とルーカスが会ってることを知らないはず!
だからその2人が会う分には特に問題ないよね? うん。大丈夫、大丈夫!
「わかったわ。この話はこれで終わりにしましょう」
「そうですね。ところで、3日後はどちらに出かけましょうか?」
「……少し遠くの孤児院に行きたいわ」
「わかりました。探しておきますね」
それだけ言うと、ビトはあっさりと部屋から出ていった。
なんとなく、私の焦った様子を見て満足そうな顔をしていた気がする。
「はぁ……。ルーカスが来る日、何も起こらないといいけど……」
*
そんなことを願った5日後──そう、ルーカスが家に来たその2日後。
私は、ガタガタと揺れる馬車の中でエリオットと向かい合って座っていた。
極力近づきたくなかったエリオット。
彼と会うときはいつもダイニングか執務室で、私は座っている彼から結構離れた場所に立っていた。
一定の距離感を保って、できるだけムダな会話はしないように、必要最低限のやり取りしかしてこなかった──はずなのに、今エリオットは膝が触れそうなほど近くにいる。
こんなに近くで顔を見たのも初めてだ。
え、待って。やば。肌のキメ細かすぎん? 美肌すぎん?
てかそのまつ毛何? つけましてんの? 長すぎん? バッサバサじゃん!
上も下もバサバサまつ毛って何それ? 自慢? 自慢してる?
無整形でこの顔の作りってどういうこと? 前世で国でも救ってる? こんな嘘みたいな美形が存在するなんて信じられ……って、そんなことより!!
なんでこうなった?
なんで私、エリオットと2人でお出かけしてるの???




