好感度がどんどん下がっちゃう!!
「エリオット様に呼び出されたぁ!?」
ビトの報告に、私は部屋の外まで聞こえてしまうくらいの大声を出してしまった。
今さら遅いけど、慌てて自分の口を自分で覆う。
なんでエリオットが私を!?
もしかして、私がルーカスと話したことがバレた!?
それとも、イヤリングを1つ落としちゃったことがバレた!?
悪い想像しかできず震えている私に、ビトが冷静に言い返す。
「あ。違います。呼び出されたのは自分です」
「え……ビトが?」
「はい」
なんだ……と安心すると同時に、なぜビトを呼び出すの? とまた不安が押し寄せてくる。
ビトは定期的に私の報告をしているはずなので、それを待たずにわざわざ呼び出すなんて余程の急用だということだ。
私じゃないといっても、ビトを呼び出すってことは私に関係してる話のはずだし……いったいなんなの?
あのエリオットのことだ。
どうしても良い方向には考えられない。
どんどん険しい顔になっていく私を見て、なぜか少し楽しそうな様子のビトが自分の口元に人差し指を立てた。
「『俺に届いた手紙のことについて話したいことがある』……そう言われました」
「俺に届いた手紙?」
「はい。……いったい誰からの手紙が届いたのでしょうね?」
「…………」
意味深な言い方をするビトに、私の心臓がドクドクと嫌な鼓動を刻んでいく。
その手紙が私に関係しているとすれば、差出人は1人しか思い浮かばないからだ。
まさか……ルーカス!?
私の予想した通り、エリーゼが自分の婚約者だと聞いて会いたいって言い出したとか!?
王宮のパーティーでディランに逃げられてしまったので、直接エリオットに連絡してきたのかもしれない。
もしエリオットが許可したら、私がエリーゼとして紹介されちゃう!?
いや……でも、まだ誰の好感度も100%になってないんだから、ルーカスと会わせるなんてことはしないはず……。
グルグル考えている私を横目に、ビトはテーブルの上に置いてあった新作絵本を手に取って私に渡してきた。
「呼び出された理由は、行けばわかりますよ。フェリシー様はこの本をレオン様に見せに行くのでしょう? どうぞ」
「…………」
「さあ。一緒に部屋を出ましょうか」
「……そうね」
一見、悩んでいる私の気が紛れるようにレオンのところに行け……と言ってくれているように見えるけど、それなら最初から呼び出されたことを私に言わなければよかった話だ。
なんとなく『1人でゆっくり考えることができずモヤモヤする私』を想像して楽しんでいるように感じてしまうのは、あまりにもビトのことを悪く思いすぎているのか──。
まあ、いいや。
悩んでたって答えは出ないし、レオンと絵本の話でもしながらあの美少年顔に癒されるとしよう!
*
「子どもを太らせてから食べようとする魔女なんて、よく思いつくよね。フェリシーってサイコパス? 前からおかしいと思ってたけど、もしかしてそっち系?」
「…………」
新作絵本『ヘンゼルとグレーテル』を読んだレオンが、眉間にシワを寄せながらボソッと呟く。
彼の毒舌は今日も絶好調のようだ。
……おかしいな。
私は癒されに来たはずなのに、ちっともマイナスイオンを感じないぞ?
ここは空気の綺麗な中庭で、目の前にいるのは目の保養になる超絶美少年のはずなのに……。
いつも無愛想なレオンだけど、なぜか今日はいつも以上に無愛想……というより、どこか不機嫌そうに見える。
本があれば問題ないはずなのに、この態度だとなんだか好感度が下がっているような気がする。
さっき、普通に「こんにちは」って声かけてここに来たけど……まさか好感度下がってないよね?
レオンのイベントは、毎回会った瞬間に始まる。
本を持っていないときは『無視』しないと好感度が下がるけど、本を持っていれば声をかけることが許されているのだ。
なので無難な「こんにちは」を選んだのだけど、今のレオンの様子を見ると不正解だったのではないかと思ってしまう。
今までは本さえあればどんな声かけでも好感度は下がらなかったのに……もしかして、今日は「こんにちは」はアウトだったとか!?
ディランに続いてレオンの好感度まで下がったら困る。
今ここでマイページを確認してみようかと思ったとき、レオンがかすかに聞こえるくらいの小声で呟いた。
「……ディラン兄さんとパーティーに行ったんだって?」
「……え?」
あまりにも小さい声。
話の流れとはまったく関係ない質問内容。
そして本に視線を落としたままの状態だったため、一瞬私への質問で合っているのか迷ってしまった。
シーン……とした気まずい空気が流れ、慌てて返事をする。
「あっ、はい。い、行ってきました」
「妹じゃなく恋人っていう設定だったんでしょ? 楽しかった?」
「あ……はい。えっと……楽しかった……です?」
「へぇ……」
なんとなく棘のある言い方に違和感を覚えつつ、無難な答えを返す。
何も知らないレオンに、ルーカスがいて困ったとかディランが逃走したなんて話はする必要ないだろう。
レオンから話題を振ってくるなんてめずらし……って、ええっ!?
本から目を離さないままのレオンが、あきらかにムスッと口を尖らせている。
これは気のせいではなく、完全なる不機嫌状態だ。
なっ、なんで不機嫌になったの!?
もしかして、自分も一緒に行きたかったとか!?
「あの……レオン様もパーティーに行きたかったのですか?」
「は? そんなわけないでしょ」
「あ。すみません」
ジロリと睨まれて、秒で謝罪する。
すると、いつものように草の上に座っていたレオンがいきなりバッと立ち上がった。
「……僕はただ、あんなひどい扱いしてきた兄とのパーティーが楽しいなんて、変なヤツだなって思っただけだよ」
「……変……」
「それと、孤児院へのボランティアに知らない男と一緒に行ってるらしいけど……それもやめたほうがいいんじゃない?」
「え。な、なぜですか?」
「なぜって……わかんないけど。なんとなく!」
「…………」
そう言い捨てるなり、レオンはプイッと私に背を向けて中庭から出ていってしまった。
本にしか興味のないレオンが、パーティーの件や孤児院の件について触れてくるのも意外だけど、なんとなくという曖昧な言葉で濁すのはもっと意外だ。
いつも言いたいことをハッキリキッパリ遠慮なく言うレオンらしくない。
なんだったの……? 自分で質問したくせに不機嫌になるなんて。
話も飛びすぎてめちゃくちゃだったし……もしかして反抗期???
いや。レオンは常に反抗期といってもいいような……今に始まったことじゃないよね。
……あっ、それより好感度は!?
パッ
『好感度
エリオット……17%
ディラン……25%
レオン……27%
ビト……55%』
「27%!! ……やっぱり下がってる!!!」
誰もいないのをいいことに、ガックリ項垂れて中庭に四つん這いになる。
連続で好感度が下がってしまったのだから、少しは全身で落ち込ませてほしい。
ベタッと草の上に寝転がり、バタバタと手足を動かさないだけまだ理性が残っていると褒めてほしいくらいだ。
なんで下がるの!?
レオンといいディランといい、反応が読めなすぎる!! なんで!?
今までは、2人の性格を考慮していい選択をしてきた。ずっと順調だった。
なのに、ここにきて2人の考えていることがまったくわからなくなってしまった。
「やっぱりこの色が関係してるの……?」
まだ目の前に浮かんでいる好感度の表示。
ほんの少しの違いだけど、レオンもディランも以前よりピンク色が濃くなってきている。
もしこの色が濃くなるほどキャラの考えに変化が出てきてるとするなら……早くエリーゼを見つけないと、どんどん好感度が下がっていっちゃう!!




