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ルーカス視点


「失敗したんだな」



 王宮のパーティーから戻った俺を、呆れた顔のユータが出迎える。

 俺の様子で、計画が失敗したことを瞬時に察したようだ。



「ああ。エリオット様ではなくディラン様が来ていたんだ」


「ディラン様が!?」



 それは考えていなかった……といった様子で、ユータが俺から視線を外す。

 なぜそのパターンを考慮してなかったのかと、少し悔しそうな顔だ。



「まさかディラン様が参加されるとは……。ディラン様はお前の顔を見ているからな。素知らぬ顔でエリーゼ様の話をするのは無理だったか……それで、どこまで話したんだ? クロスター公爵家でも、エリーゼ様と会うのはダメだって?」


「……何も話してない」


「何も話してない? 普通の挨拶しかできなかったということか?」


「いや。挨拶すらしていない。目が合った瞬間に逃げられてしまったんだ」


「…………」



 予想外の答えだったのか、不可解そうにユータの眉が顰められる。

 きっと、今ユータの頭の中では俺から逃げるディラン様の様子が想像されていることだろう。



「逃げられた? なんでディラン様はお前から逃げたんだ?」


「それは……」


「それほどお前とは話したくないってことか?」



 俺とまったく同じ考えのユータに「やっぱりそう思うよな!?」と共感したいところだが、頭の片隅にいる薄茶色の髪の女性がフルフルと顔を横に振っている。



「あーー……俺もそう思ったんだが、彼と一緒にいた女性がちょっと不思議なことを言っていて」


「不思議なこと?」


「俺が麗しいから、目が合った瞬間に胸がときめいて緊張して逃げたんだって……」


「…………」



 険しい顔をしたままのユータと、しばらく無言のまま見つめ合う。

 聞き間違いか? という空気が流れているが、そうだと答えてあげることはできない。

 俺も聞き間違いだったと思いたいが、確実に彼女はそう言っていたのだ。


 その話題に触れたくないのか、ユータが目を泳がせながら話を変えた。



「えーー……と、その女性っていうのは、ディラン様の恋人か? たしか婚約者はいないはず……」


「わからない。初めて見る方だった」




 なんとなくフェリシー嬢に似てた……っていうのは、言わなくていいか。




「そうか。その方が、ディラン様はお前にときめいてその場を去ったと……言ったんだな?」


「ああ……」


「それ、冗談だったんじゃないのか?」



 冗談と言われ、そのときの状況を思い返してみる。

 俺にその言葉を向けたときの彼女は、すごく必死な様子で目を輝かせていた。あれが冗談だったとは、どうしても思えない。




 ……いや! きっと冗談だ!

 俺が本気にしてしまって、きっと彼女も慌てたはずだ! うん。そうだ。そうに決まってる!




 無理やり自分に言い聞かせ、俺はグッと力を込めて拳を作った。



「そうだな! きっと冗談だ!」


「だ、だよな。ああ〜ビックリした!」


「悪い、悪い。ははは」



 やけに明るく笑い合っているが、作り笑顔であることはお互いよくわかっている。

 でも、今はそこを深く考えることなく話を進めることを選んだ。



「で、思ったんだけど、やっぱり直接エリオット様に会う約束を取りつけようかと……!」


「!」



 俺の提案に、ユータの顔色が変わる。

 連絡をしてから会うのではなく、いきなりを狙ってワトフォード公爵家の兄たちに会えと話していたばかりなのだから、微妙そうな反応をされるのも無理はない。


 

「実は俺、その女性にクロスター家のルーカスだと名乗ってしまったんだ」


「えっ!?」


「もし彼女がそれをディラン様に伝えていたら、孤児院にいた男が俺だと知られてしまったことになる。だったら、もう堂々と連絡してみてもいいんじゃないかと思って」


「……断られたら?」


「そのときまた考える!!」


「…………」



 ユータの目が細められて、呆れられているのが伝わってくる。

 きっと、このあと言われる言葉もいつも通りだろう。



「はぁ……このド真面目め。とりあえず、エリオット様に会う口実を考えておくから、お前は着替えてきたらどうだ?」


「そうだな。久々のパーティーは疲れ……あれ?」



 ソファから立ち上がり、ジャケットを脱ごうとしたとき──何かがポトッと床に落ちた。

 キラリと光るその小さな宝石は、高級そうな女性用のイヤリングだ。




 えっ?

 なんで俺の服から落ちて……。


 


 そのイヤリングを一緒に見つめていたユータが、軽蔑した目を俺に向けてくる。

 何を想像されているのかを瞬時に察し、一気に冷や汗が出てきた。



「お前……エリーゼ様がどうのって話してるくせに、しっかり別の女性と……」


「ち、違うっ! そんなことしてないっ! なんでこんな……あっ! もしかして、ディラン様と一緒にいた女性の物かもしれない。倒れそうになった彼女を、一度支えたんだ。そのときに服に引っかかったのかも」


「ディラン様と一緒にいた女性の? ……なら、これは使えるぞ。これを渡したいって言えば、会う口実になる!」


「! そうか! なら早速、俺の服に引っかかってたからお返ししたいって伝えて……」


「アホ! そんな言い方したら、お前とその彼女の関係を疑われるだろうが! 偶然彼女のいた場所に落ちていたのを見つけたって言えばいいんだよ!」


「あ。そうか」




 たしかに、ディラン様と彼女の関係がわからない以上、服にイヤリングが引っかかるほど密着していたと誤解されては困るな……。

 

 


 はぁーー……っと特大のため息をついたあと、ユータが床に落ちたイヤリングを拾った。

 そのイヤリングをいろいろな角度から見ながら、「この形や宝石の種類を正確に手紙に書かないとな」などとボソボソ呟いている。



「お前は、その令嬢の名前を聞いていないんだよな?」


「ああ。そういえば、聞いてなかったな」


「よかった。聞いていたら、直接その人に届けないとおかしいからな。聞いてないなら、ディラン様に代わりに渡したいって言っても不自然じゃない」


「エリオット様じゃなく、ディラン様に会いたいって手紙を出すのか?」


「…………」


「…………」



 お互いそれ以上は言わないが、考えていることはきっと同じだろう。

 もし、フェリシー嬢に似た令嬢の言っていたことが本当なら、ディラン様に会いにいっていいのか……と。


 少し無言で見つめ合ったあと、ユータが気まずそうに会話を終わらせた。



「……とりあえず、このイヤリングの件はついでということにして、別件でエリオット様に連絡をしてみよう」


「……そうだな」




 俺の名前を出して、会ってくれるだろうか?

 もうすでに、エリーゼ様が孤児院に行くのを禁止されていたらどうしよう……。




 そんな小さな不安を抱えながら、俺はなんとなくユータの持っているイヤリングに視線を向けた。



いつも読んでくださりありがとうございます!


昨日、短編

『最後のチャンスを潰したのはあなたでしょう?』

を投稿しました。

もしよければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

https://ncode.syosetu.com/n1326ld/

夫婦の離婚ざまあストーリーです!

よろしくお願いします。


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