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三男レオン


 攻略対象者の誰か1人でも好感度がゼロになってしまうと、行方不明だったエリーゼが現れ、ヒロインである私は用無しとして殺される。

 でも、好感度がゼロになる前にエリーゼを見つけることができたら、私は殺されずに開放されるかもしれない。



「エリーゼは今もこの国のどこかで生きてる。捜せばきっと見つかるはず!」



 現在、兄弟の中で1番妹思いのディランだけがエリーゼを捜している。

 しかし、ワトフォード家の娘が行方不明になったことが世間に知られては困るので、あまり大規模で捜せていないのが現状だ。


 そのせいでディランは日々イライラしているといっても過言ではない。




 まあ、だからってそれを私に八つ当たりされても困るけどね!!




 そんなディランが一向にエリーゼを見つけられない理由は、彼女の特徴に関係している。

 名前を明かすことができないため、ディランは『ピンク色の髪で赤い瞳の18歳の少女』を捜させているのだ。


 これはエリーゼの特徴だけど、実は今は違う。

 行方不明になった彼女は、そのショックから記憶をなくし茶色の髪色に変わってしまったのだ。




 そのことを知らないから、ディランはエリーゼを見つけることができないのよね……。

 でも、私なら見つけられるわ!

 エリーゼがいる場所だって、見当ついてるし!




 身代わりとして来たとはいえ、私はこの家の3兄弟と使用人以外には会ったことがない。

 エリーゼが帰ってくる可能性を考えて、まだ私を娘として外に出していないのだ。

 

 クロスター家の子息と結婚するまでの間にエリーゼが見つからなければ、そのとき初めて私は『エリーゼ』として社交界に出ることになる。




 幼い頃に会った貴族とか、エリーゼの友達にはバレるんじゃないの? って感じだけど、そのへんの設定もさすがクソゲー仕様……。

 なぜか誰もエリーゼの顔を知らない設定になってるのよね。




 家から出ない、友達もいない箱入りのお嬢様だったってことなのに、お茶会には行ったことがあるという矛盾しまくりの設定。

 このゲームは、そんな謎仕様や矛盾設定がわりと多い。


 

 

 まあとにかく、婚約者ですらエリーゼの顔を知らないってこと!

 だから『私』がエリーゼとして顔を覚えられてしまう前に、本物を見つけなくちゃいけないのよね!




「ゲームのクリア前に婚約者のルーカスに会う機会なんてなかったし、大丈夫だとは思うけど……」



 このゲームをやりまくった熟練者気分ではいるけど、私が知っているのはあくまでゲームの途中までだ。

 毎回途中で死んでしまったため、ラストはおろか後半部分は何も知らない。

 

 もしかしたら、結婚前に婚約者に会う機会があるかもしれないのだ。



「なんにせよ、急がなきゃ!」



 街に行くため、ドレスから1番地味な服に着替える。

 ワトフォード家の娘だと気づかれなければ、街には行ってもいいと言われている。


 食事も寝床も確保された、この贅沢な暮らしから逃げるわけがないと思われているのだろう。




 まあ、実際には監視がついてるんだけどね。

 



 ゲーム内で街に出た時、選択肢の中に『逃げる』があった。

 好奇心で一度だけ押してみたけれど、速攻捕まって監禁されてしまったのだ。




 監禁された後の展開は最悪だったわ……。

 絶対にあのルートには進みたくない! 気をつけよう……。




 ゾゾゾッと背筋に悪寒が走ったけど、なんとか気持ちを奮い立たせて部屋を出た。



「たしか、外に出るなら正門じゃなくて裏門からって言われてたよね? 裏門ってどこだろう?」




 記憶が戻る前の昨日までの私は、一度も街には行かなかった。

 この家を出たら、もう二度と帰ってこられないような気がして怖かったからだ。



「……今の私なら、帰れなくなったら喜んじゃうけどね」



 そんなことを呟きながら廊下を歩いていく。

 右側の窓から庭を見ると、少し遠くに立派な正門が見えた。




 あれが正門ね!

 じゃあ、あっちとは逆のほうに行けばいいのかな?




 キョロキョロと屋敷内を見回しながら歩いていると、小さな中庭を発見した。

 人があまり通らない、静かで落ち着いた空間。




 わぁ……何ここ。素敵!

 綺麗な花も多いし、静かだし、なんかゆっくりしたいときに来たいかも……って、ん?



 

 綺麗な中庭に見惚れていると、草の上に直に座りひっそりと本を読んでいる人物がいることに気がついた。



「!!!」



 サラサラの銀髪に、丸く大きな赤い瞳。女の子のように可愛らしい顔をした超絶美少年──三男のレオンだ。

 エリオットとディランはエリーゼの兄だけど、14歳のレオンは弟にあたる。




 レオン!!

 そっか! ここがゲームによく出てきた、レオンがいつもいる中庭!




 ピロン


『選んでください。


 ①ごきげんよう

 ②何を読んでいるの?

 ③私も隣に座っていい?』




 出た! ゲームの選択肢!




 レオンを見た瞬間に出たこの選択肢は、彼に会うたびに表示されるものだ。

 本好きのレオンは、いつも中庭で1人静かに本を読んでいる。

 三兄弟の中で1番おとなしくて害がない人物だけど、もちろんこの少年もくせ者だ。




 他人に興味ゼロで超マイペースなレオンは、話しかけられるのが大っ嫌いなのよね!



 

 軽い挨拶だろうが、レオンに声をかけるだけで好感度が下がってしまうのだ。

 つまり、無視という選択肢がない限り、レオンに会うだけで好感度のマイナスは避けられない。

 ……ゲームの中ならば。




 でも、今は大丈夫!!

 選択肢を選ばなくても問題ないって、さっき証明したからねっ。

 ここは何も声をかけずに素通りするわよ!




 スタスタと足早に近づいていくと、気配を察したレオンが目だけ動かして私を見た。

 バチッと目が合ったけど、そのまま何も言わずに横を通り過ぎる。



「…………」


「…………」




 その瞬間、宙に浮かんでいた選択肢がフッと消えた。




 ……大丈夫?

 目が合った状態で思いっきり無視しちゃったけど、これって逆に好感度下がるんじゃ!?




 自分の行動が正しかったのか自信がなくなり、一気に不安に襲われる。

 レオンの好感度が1番高い状態とはいえ、今は1%だって好感度を下げたくない。




 確認してみなきゃ!




 視界の右下にずっとある本のマークを指で触れると、マイページがパッと表示された。


『好感度


 エリオット……8%

 ディラン……11%

 レオン……13%』




 レオン、13%!? 1%上がってる!!

 じゃあ、やっぱり無視するのが1番なんだ!




 ホッと安心するとともに、無視したことで好感度が上がることにドン引いている自分がいる。




 これで好感度が上がるなんて、ほんっとこの家の兄弟ってみんな変!!!




 これからも関わらなくてはいけないこの3兄弟のことを考えるだけで、頭が痛くなってくる。

 自分の未来を不安に思いながら、私は足早に中庭を通り過ぎた。


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