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ビト視点


 今日、フェリシー様はディラン様と王宮のパーティーに行っている。

 もし会場にルーカス・クロスターがいた場合、2人を会わせないようにするのがフェリシー様の役目だ。


 


 さて。うまくいったかな?




 まだフェリシー様で遊んでいたいので、できれば無事にミッションをクリアしていてほしい。

 でも、少しくらいは彼女が慌てるような事態になっていたらおもしろい──そんなことを考えながら待っていると、青白い顔をしたフェリシー様が帰ってきた。


 ニヤッと笑いそうになるのをなんとかこらえる。




 これは……何かおもしろいことがあったか?




「で、何があったんですか?」


「実はね……」



 そう言ってフェリシー様が話し出した内容は、想像以上におもしろく何度も吹き出しそうになった。

 彼女の話を聞きながら、自分なりに分析してみる。




 ルーカス・クロスターの顔を見るなり、ディラン様が逃げた?




 ディラン様は、ルーカス様の顔を見てすぐに孤児院にいた男だと気づいたはずだ。

 でも、話しかけることも挨拶することもなく逃げた……となると、ディラン様は彼に会いたくなかったということになる。


 なぜルーカス様に会いたくないのか?

 それは、きっと孤児院の外に自分がいたという事実を知られたくないからだ。

 正確に言うと、『フェリシー様に、自分が尾行していたことを知られたくなかった』からだろう。


 だから、ルーカス様に孤児院にいたことを問われる可能性を考えて逃げた──そんなところか。




 ……まあ、ディラン様が孤児院にいたことは、俺がフェリシー様に言ってしまったけどな。




 その後、ルーカス様がディラン様を追ったこと、ディラン様の名前を知っていたこと、そしてエリーゼ様について話したいと言っていたことを聞いて、俺の中でゾワッと鳥肌が立つような感覚が走った。




 まさか……ルーカス様はフェリシー様がエリーゼ・ワトフォードだと気づいたのか?




 そもそも、ディラン様が逃げたことがおかしい。

 ルーカス様は尾行に気づいていなかったのだから、ディラン様に会っても何も思わないはずだ。

 

 それでも逃げたということは、おそらく顔を見られていたんだ。

 孤児院の前にいるところを、ルーカス様に見られた。だからあの日もすぐに帰ったし、今日も目が合うなりすぐに逃げた。


 ディラン様はルーカス様が誰だか知らなかったようだが、ルーカス様はどうだ?

 クロスター公爵家の長男。接点のある貴族の顔や名前を覚えていたって不思議じゃない。




 あの日、すでにルーカス様がディラン様の存在に気づいていたとしたら?




 ワトフォード公爵家の次男が、あんな裏街の孤児院をコソコソと眺めている。

 弟のレオン様と一緒に。

 そして、孤児院の中には彼らと同じ赤い瞳をしたフェリシー様がいた──。




 それなら、フェリシー様がエリーゼ・ワトフォードなんじゃないかと思うのも無理はない……な。




「ふっ……ははっ……」


「……ビト?」



 我慢できず、吹き出してしまった。

 心の底から湧き上がるこの『楽しさ』を、抑えることなんてできない。




 本当に……おもしろい!




 まだ知られてはいけない『偽のエリーゼ・ワトフォード』を、よりにもよってその婚約者に知られてしまうとは。

 この事実を知ったなら、あのエリオット様だって表情を変えることだろう。


 

「どうしたの? なんでルカ様がエリーゼ様について話したいなんて言ってたのか、わかったの?」


「いえ……。フェリシー様はどうお考えですか?」


「父親から、エリーゼ様が婚約者だって聞いたのかなって」


「なるほど」




 まあ、それは違うだろうな。




 数回しか会ったことのない男だが、あれほど素直でド真面目な男はなかなかいない。

 もし本当にあの男が婚約者の話を聞いたのなら、兄に挨拶なんてまわりくどいことはせず、まずは本人に1番に挨拶に来るはずだ。


 あの日、ルーカス様はフェリシー様に「もし男と会っているのを知られてしまった場合、どうなるのか?」と聞いていた。

 あれが『ディラン様に自分と一緒にいるところを見られてしまったが、大丈夫なのか?」という意味だとしたら。


「もしかしたら、もう孤児院には来られないかもしれないです」


 そんなフェリシー様の答えを聞いて、ド真面目なルーカス・クロスターはどう思う? 何を考える?



「説得……か?」


「え?」


「あ。いえ、なんでもないです」



 ピンと閃いた言葉を、つい口にしてしまった。

 突然どうした? という顔で俺を見上げたフェリシー様から、フイッと顔を背ける。




 フェリシー様を孤児院に行かせてやってくれと、兄であるディラン様に説得を試みる……。

 ありえる、あの男なら!




 フェリシー様は『父親』と説明していたが、ワトフォード公爵家と知られた時点で父ではなく『兄』のことだと悟られたはずだ。

 姿を見られてしまったから、隠れるんじゃなく堂々と説得にやってくる──あのド真面目男なら、そう行動するだろう。




 ……ということは、今日話せなかったとしてもいつか直接この家にやってくるんじゃないか?




 ルーカス・クロスターと会っていることを、ワトフォード家の兄弟たちに知られたくないフェリシー様。

 尾行して孤児院に来ていたことを、フェリシー様に知られたくないディラン様。

 まだフェリシー様を『エリーゼ様』として人に会わせたくないエリオット様。


 そんな3人の望みをぶち壊そうとしている、実直なルーカス様。




 おもしろい……おもしろすぎる……!!




「ブフッ……くっ、くっく……」


「ビ、ビト? さっきからどうしたの?」



 定期的に吹き出す俺に、フェリシー様から怯えたような声が向けられる。

 なんの説明もなく急に笑い出すのだから、頭がおかしくなったと思われても無理はない。




 この事実を話したら、きっとフェリシー様は真っ青になって震え出すだろう。

 その姿も見たいが、今はこのおもしろい状況をもっと楽しんでいたい。


 フェリシー様には悪いが、しばらくは黙っておくとするか。

 

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