簡単すぎるイベント……と思ったのに!?
『【イベント発生】今後の予定
どう答えますか?
①「そのまま公爵家に居させてほしい」とお願いする
②「公爵家から出て行きます」と本音を言う
③「そんなのあんたに関係ないでしょ」と睨む』
突然始まったディランのイベント。
いつもなら、突如始まった知らないイベントにパニックになるところだけど……このイベントは答えが簡単すぎて、「本当にこれで好感度上げちゃっていいんですか?」という余裕な気持ちだ。
こんなの、答えは②に決まってるじゃん!
ディランはずっと私を追い出そうとしてたんだし、「公爵家から出て行きます」って言ったら喜ぶに決まってる!
っていうか、私がエリーゼを捜してることはディランには言ってないはずなのに……。
エリオットに聞いてたのね。まあ、いいけど。
それを知っていながら今まで何も言ってこなかったことに疑問を感じていると、ディランが不快そうに眉根にシワを寄せた。
考え事をしていたせいで、しばらく無視してしまっていた事実に気づき、慌てて返事をする。
「あの、エリーゼ様が見つかったら、私は公爵家から出て行きます!」
「!」
「安心してください! 今後も家に居させてほしいなんて言いません! エリーゼ様が見つかったらすぐに家を出ますし、ワトフォード公爵家にも二度と関わりません!」
「…………」
だから殺さないで!
そう口から出そうになった言葉をなんとか飲み込み、私はニコッと笑顔を向けた。これが嘘ではなく本当の気持ちだと信じてもらえるように……疑われないように。
完璧な答えだ──そう思った瞬間、ディランは悔しそうに顔を歪ませた。
……えっ?
「本当に……出ていく気なのか。……エリオットの言うとおりだな」
「エリオット様の……?」
「俺はそれほどお前を追い詰めていたんだな……」
「…………」
え? 何? なんの話?
ここは「よしっ!」って喜ぶところじゃないの? 「早く出ていけ」って促すところじゃないの?
なんで……悲しそうな顔をしてるの?
予想外の反応をされて、どう答えていいのかわからない。
そんなはずはない。そんなはずはないけど、どうにもディランがショックを受けているように見えてしまっている。
まさか……。
ディランが喜ぶ答えを言ったのに、ショックを受けるはずが……。
「あ、あの、ディラン様……」
「もう帰ろう」
「えっ」
そうボソッと言うなり、ディランは私に背中を向けてスタスタと歩き出してしまった。
怒っているような冷たい態度なのに、ディランからは悲しい空気が漂ってきている……気がする。
なっ、何? この空気?
もしかして、答えを間違った? そんなわけ……。
ディランの後ろを歩きながら、そっとマイページのマークに触れる。
パッと現れた画面を見て、私は声を出さないよう咄嗟に自分の口を手で覆った。
「!!!」
そんな……っ!!
『好感度
エリオット……17%
ディラン……25%
レオン……30%
ビト……55%』
25%……5%も減ってる!! 失敗した……っ!?
なんで!?
順調に上がっていた好感度が、ここにきて下がってしまった。
まだゲームオーバーになるような数字ではないけど、理由がわからないため不安な気持ちがどんどん押し寄せてくる。
今の答え、何がいけなかったの……?
ディランはずっと私を追い出したいって言ってたのに……何が正解だったの?
***
「お疲れ様です。フェリシー様」
「……ただいま」
ワトフォード公爵家に戻り私の部屋に向かうと、部屋の前でビトが待っていた。
どこかワクワクしていそうな表情を見る限り、今日の話を聞きたいのだろう。
「ずいぶん顔色が悪いですね? もしかして作戦は失敗したんですか?」
「……違うわ。とりあえず、中に入って」
「はい」
私の顔色が悪いと言っているくせに、ビトは先ほどよりも楽しそうに口元を緩めている。
心配している様子は微塵もないところが、ビトの性格をよく表していると思う。
ほんっとにいい性格してるわ!
まあ、いいや。今はわからないことが多すぎるから、ビトの意見が聞きたいし!
「で、何があったんですか?」
「実はね、会場にルカ様がいたの」
「ああ、やっぱり。でも作戦が失敗してないってことは、会わずに済んだってことですよね?」
「ディラン様とルカ様が話すことはなかったんだけど……」
私は、ディランがルーカスと目が合うなり一目散に会場から出て行ってしまったこと。
そのディランをルーカスが追っていったこと。
ルーカスはディランが誰かわかっていて、エリーゼの件で話したいことがあると言っていたことを全部ビトに話した。
「いきなりルカ様からエリーゼ様の名前が出て、なんで!? ってビックリしちゃって……」
本当に、今日は『なんで!?』の連続だったわ。
1日で寿命が縮まった気がする……はぁ。
頭のキレるビトなら、何かわかることがあるかも……そんな期待を込めて話したのだけど、なぜかビトは真顔の状態から急に吹き出した。
「ふっ……ははっ……」
「……ビト?」
笑った!? なんで!? この話のどこに笑う要素あった!?
……あっ。もしかして、何かわかったの?
「どうしたの? なんでルカ様がエリーゼ様について話したいなんて言ってたのか、わかったの?」
「いえ……」
わからんのかい!!
じゃあ、なんで笑ってるの?
謎すぎるビトの様子に首を傾げていると、笑いのおさまったビトが私に向き直った。
笑った理由を話すつもりはないらしい。
「フェリシー様はどうお考えですか?」
「……父親から、エリーゼ様が婚約者だって聞いたのかなって」
「なるほど」
なるほどと言いつつ、納得した様子もない。
参考に聞いたのではなく、ただ私の意見を聞きたかっただけのように見える。
なんだろう?
なんとなく、もう答えがわかったような顔をしてる気がするんだけど……。
教えてくれる気配のないビト。
そんな彼がやけに楽しそうなオーラを放っているのが非常に気になるところだ。
今までのやりとりからして、ビトが楽しそうなときは私にとって困難な場合が多いからだ。
なんか……怖いんですけど。
不安を感じつつも、私は話の続きをすることにした。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
次回はビト視点です。




