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なんで私、ディランに抱きしめられてるの??


 え……っと? なんで私、ディランに抱きしめられてるの?



 

 抱きしめられているというより、私の顔をディランの胸元に押しつけられているという表現のほうが正しいだろうか。

 顔が横を向いているおかげで息ができているけど、もし真正面を向いたままなら呼吸困難になっていた気がする。




 えっ……まさか、ルーカスの正体に気づいて私を窒息死させようとしてる??




「あ、あの、ディラン様……」


「動くな! 誰かに見られたらどうするんだ!」


「!?」




 何、何!? どういう意味!?

 誰にも見られていない間に、私を殺す気!?




 急いで会場に逃げ込みたいところだけど、ディランの力強い腕に捕まっていて身動きがとれない。

 このままここで殺されてしまうのかと恐怖に陥った瞬間、ディランが「よし。周りには誰もいないな」と呟いて私を離した。


 ムダかもしれないと思いつつ、必死にディランに向かって謝罪をする。



「あのっ、本当に申し訳ございませんでしたっ! 今後は気をつけますので、命だけは……っ」


「は? 何言ってるんだ、お前。この薬の効果が切れたのはお前のせいじゃねーだろ」


「……薬の効果?」



 そう聞き返すと、ディランは自分の瞳を指すように目元をチョンチョンと指で叩いた。

 それと同時に、ポケットから小さな小瓶を取り出す。



「お前の瞳、赤に戻ってるぞ」


「えっ?」


「まだ薄い赤だけどな。でも赤い瞳の貴族はそうはいないから、誰かに見られる前にもう一度目薬をさしとけ」


「…………」




 瞳の色が赤く戻ってきてたから、誰にも見られないように私の顔を隠した……ってこと?

 ……やり方乱暴すぎない!?!?




 地味にジンジンしている頬に触れながら、小瓶を受け取る。

 だいぶ変わったとは思っていたけど、やっぱりディランは乱暴者だ──改めてそう思いながら目薬をさしたとき、ディランがギョッと目を丸くした。



「なんだ、それ!? お前、瞳だけじゃなくて頬も赤くなってるぞ!?」


「……先ほど強くぶつけてしまいましたので」


「強くぶつけた!? どこに?」



 ふざけているのかと思ったけど、ディランの顔を見る限り本気で聞いているようだ。

 あまり責めるような口調にならないように気をつけながら、私は小さい声で返事をした。

 


「……ディラン様の胸元です」


「え……あっ」



 

 ……あれ?




「なんだ。あれだけで赤くなるなんて弱いヤツだな」くらい言われると思っていたのに、なぜかディランは一瞬真顔になったあとみるみる顔を赤くした。

 動揺した様子で一歩下がったと思ったら、今度はサーーッと顔色を悪くしてダラダラと冷や汗をかいている。


 こんなにも表情がコロコロ変わるものかと、つい吹き出しそうになってしまった。




 ディラン……わかりやすすぎるっ!!

 抱き寄せた事実に気づいて照れたあとに、頬を赤くするほど強く押しつけちゃったことに対して動揺しているのがバレバレだよ!!


 私相手にこんな反応するなんて、ディランってば本当にこのおとなしそうな見た目の女性がタイプなのね……。



 

 そんなことを考えていると、ディランが腫れ物でも触るかのように優しく私の頬に触れた。

 今は、焦っているというよりもどこか落ち込んでいるような顔だ。



「……悪かったな。加減ができてなかったみたいだ」


「!??」




 素直に謝った!?




「い、いえ。大丈夫です」



 驚いた気持ちが顔に出てしまっていたのか、ディランは気まずそうに私から視線をそらすなり、いきなり話題を変えた。

 頬に触れていたはずの手も、いつの間にか下ろしている。



「ところで、俺を追ってきた男と会ったか?」


「! はい……先ほど」


「会ったのか!? な、何か話したか!?」


「ディラン様にお話があると言っていましたが」


「それだけか?」


「はい」

 

「そうか……」



 ホッと一安心したようで、ディランはわかりやすいくらいに顔を緩ませている。

 それだけか? という質問は、きっと私の正体がバレていないかどうかの確認だろう。


 私の瞳の色の変化にも敏感に反応していたし、ルーカスに私がフェリシーだとバレないよう、ディランも気を使っていたのかもしれない。




 まあ、変装してパーティーに参加してるなんて怪しいもんね。

 ディランまで気遣ってくれてたなんて意外だけど……。




「あ。俺に話があるって言ってたってことは、あの男はまだ俺を捜してるのか?」


「いえ。会場に戻りましたよ」


「そうか。さっきはあんなにしつこかったのに、意外に早く会場に戻ったんだな」



 ギクッ


 ディランの何気ない疑問に、心臓が一気に跳ね上がる。

 その理由を私はたぶんわかっているけど、それをそのまま伝えるわけにはいかない。




 まさか、ディランに惚れられたと思って逃げたのかも……なんて、言えるわけないよね。

 ほんとごめん……ディラン。




「えっと、じゃあ私たちは会場に戻らずこのまま帰りましょうか?」


「そうだな。あっ、その前にお前に聞きたいことがある」


「なんでしょう?」



 ディランはやけに真剣な表情に変わり、少し睨みつけるかのようにジッと私を見据えた。

 空気が一気に重くなったように感じる。




 な、何?

 ルーカスのことについてじゃないよね?




「お前……エリーゼを見つけると言っていたみたいだが、もし見つかったらどうするつもりだ?」


「え……」



 ピロン


 久しぶりに聞いた気がする、懐かしの電子音。

 まさかと思ったときには、すでに私の目の前にはアンティークフレームに囲われた文字が浮かび上がっていた。



『【イベント発生】今後の予定

 どう答えますか?


 ①「そのまま公爵家に居させてほしい」とお願いする

 ②「公爵家から出て行きます」と本音を言う

 ③「そんなのあんたに関係ないでしょ」と睨む』




 イベント!? ここで!?

 そっか。たしかに次はディランのイベントの番だった!


 でも……このイベント……。




 一度パパッと読んだ内容を、もう一度しっかりと読む。

 もちろんやったことのないイベント内容だけど、今までのように焦る気持ちはない。

 なぜなら、こんなの答えは1つしかないからだ。




 こんなに簡単でいいの?

 ディランが怒らない答えを考えるどころか、むしろ望んでいる答えがあるじゃん!


 ②の「公爵家から出て行きます」!

 ディランはずっと私を追い出したがってたし、この答えしかなくない?

 

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