表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/79

私が婚約者役になったのに、ディランはなんで怒らないの!?


「今度王宮でパーティーがあるんだが、それに君とディランの2人で行ってきてほしいんだ」



 エリオットのセリフが、頭の中をぐるぐると回っている。

 言葉は理解できているけど、まさかね? という気持ちが強く、どうにも素直に受け入れられないのだ。




 私とディランが、2人で王宮のパーティーに行く??

 え? 私はまだ社交界に出しちゃいけない存在なんじゃないの?

 それに、なんでディランと???




 私の表情で考えが読めたのか、エリオットが冷静に説明を始める。

 当事者であるはずのディランは、なぜかずっと黙ったままだ。



「本当は俺が行くはずだったんだが、行けなくなってね。代わりにディランに行ってくれと頼んだのさ」


「……そうですか」




 だから!?

 なんでそこに私が入るの!?




「ディランには、ワトフォード公爵家代表としていろいろと挨拶をしてきてほしいのだが……うちと取引のある家の者の顔も名前も覚えていないそうだ」


「…………」




 だから!? だから、何!?




「ビトの話によると、君は人の顔と名前を覚えるのが得意だそうだね? ぜひ、ディランの代わりに覚えて、当日コイツに教えてやってほしいんだ」


「…………はい?」


「ディランは見てのとおり記憶力が悪くてね。頼んだよ、フェリシー」


「…………」




 呆然とする私の前で、ディランが「見てのとおりって、どういう意味だ!?」と怒っている。

 ギャーギャーうるさい兄弟喧嘩が遠くに聞こえるほど、私の脳内はそれどころではない状態になっていた。




 え? なんて?

 人の顔と名前を覚えるのが得意? 誰が? え、私?

 むしろ、めちゃくちゃ苦手ですけど?

 カタカナの名前なんて、覚えられる気しませんけど?




 エリオットはいったい何を言っているんだ……とプチパニックになりかけたとき、「ビトの話によると」という言葉があったことを思い出す。

 この意味不明な事態の犯人に気づき、グルンッと顔をビトに向ける。




 ビト……ッ! 元凶はあんたか!?




 そんな私の圧を察したのか、ビトも同時にブンッと素早く私とは反対方向に顔を向けた。

 もう、その行為自体がイエスと言っているようなものだ。




 やっぱり!! なんでそんな嘘ついたの!?

 名前や顔なんて覚えられないし、ディランとパーティーっていうのも意味わかんないし、何これ!?

 嫌がらせ!?!?




 歯をギリギリさせてビトを睨みつけたい気持ちをなんとか我慢して、私は冷静を装ってエリオットに意見した。



「あの……ですが、私はまだ社交界に出ないほうが良いのでは……」


「その心配はいらない。フェリシーには『エリーゼ』としてではなく、『ディランの婚約者』として参加してもらうつもりだからな」




 は?




 そう声に出さなかったことを、誰か褒めてほしい。

 思いっきり顔を歪めて聞き返さなかった私を、誰か褒めてほしい。




 ディランの婚約者として? え?

 意味わかんないけど、それってディランが嫌がるんじゃ……。




「…………」



 何言っているんだ!? とブチギレるディランを想像していた私は、静かに椅子に座っているディランを見て愕然とした。

 文句を言うどころか、なぜか顔を赤くしてプイッと私に背中を向けている。




 ちょっと……なんで怒らないの、ディラン!!

 私があなたの婚約者役にされたんだよ!? いいの!?

 死に物狂いで反対しなくていいの!?




 絶対に私の顔を見ないようにしているのか、不自然な体勢で椅子に座り、私に背を向けているディラン。

 顔は真正面のエリオットたちを向いたまま、少し楽しそうに目だけで私の様子を見ているビト。

 頬杖をついて、困った様子のディランと私を見てやけに満足そうなエリオット。




 ……なんだ、この状況。

 いったい何が起こってるの?




 前世でプレイしたことはないけど、もしかしたらこれは次のディランのイベントに関係しているのかもしれない。

 断ったら、好感度が急落する可能性も十分考えられる。




 まあ、エリオットに頼まれてる時点で私に断る選択肢なんてないけどね。

 ディランも黙ってるし、別に承諾してもいいんだよね?

 なんで断らねーんだよ!? とか言ってキレたりしないよね?




「……わかりました」


「ああ。助かるよ、フェリシー。では、貴族名簿をあとで君の部屋に届けさせよう」


「は、はい」




 そうだ! 貴族の名前や顔を覚えなきゃいけないんだった!!




 非常に楽しそうなエリオットの顔を見る限り、やっぱりできませんなんて言えるわけがない。

 そんなことを言ったなら、一瞬にして態度が豹変することだろう。




 もうっ!! ビトのバカ!!!




 最後まで私の顔を見ないまま、何か言ってくることもないまま、私が部屋を出るまでずっとディランは変な方向を向いていた。






 ***





「ちょっと!! ビト、どういうことよ!?」



 ビトと一緒に自室に戻るなり、私は彼を壁際に追い込んで詰め寄った。

 責められるとわかっていたのか、ビトはケロッとした様子で冷静に回答してくる。


 

「仕方なかったんですよ。それしか方法がなかったので」


「何がどうなったら、私がディラン様の婚約者としてパーティーに参加するって話になるわけ!? しかも貴族の顔や名前を覚えるのが得意って何!?」


「ディラン様とルーカス様を会わせないためです」


「……えっ?」



 思ってもいなかった回答に、一瞬頭が真っ白になる。

『ディランとルーカスが会う』だなんて、背筋が凍るほど恐ろしい言葉だ。



「ど、どういうこと?」


「そのパーティーに、ルーカス様も来るかもしれないってことです。そこで2人が挨拶を交わしたら、ディラン様に孤児院にいた男性がルーカス様だとバレるでしょう?」


「!!」




 そっか!

 王宮のパーティーなら、ルーカスと会っちゃう可能性があるのか!


 


「だから2人を会わせない役が必要だなと思い、俺がフェリシー様を同行させてはどうかって提案したのです。ディラン様に名簿を見せないために、フェリシー様は顔を覚えるのが得意だと嘘をつきました」


「……そういうことだったのね」




 たしかに、今ディランにルーカスを認識されるのは困る!

 その分私が名簿を覚えなきゃいけないけど、ディランにバレるよりは全然マシだわ。




「じゃあ、婚約者としてっていうのは……」


「フェリシー様も、今の姿のままでルーカス様にお会いするのは困るんじゃないかと思いまして」


「う……そ、そうね」




 たしかに!!!

 私がワトフォード家のエリーゼだと思われるのは困る!

 それならたとえディランの婚約者役だとしても、別人として参加するほうが安心だわ。

 

 えっ? っていうか、それを一瞬で判断してエリオットに提案したってことだよね?

 ビトってば有能すぎない!?




 なんて頼りになる味方なんだろう……そんな尊敬の念を持ってビトを見上げた私は、彼の怪しい笑みを見てスンッと真顔になった。

 私を見るビトの瞳が、なぜかキラキラと輝いている。




 なんだろう……なんか、楽しいオモチャでも見つけたって感じの空気を感じるわ……。

 気のせいだよね? うん。気のせいってことにしておこう。




 そこは、私のメンタルのためにも深く考えてはいけない気がする。

 ビトの本心については考えないことにして、私はもう1つ気になっていたことを尋ねた。

 


「……そういえば、ディラン様はなんで怒らなかったのかな?」


「え?」


「私はその理由で納得できたけど、ディラン様にとっては貴族の名前を覚えてくれれば誰でもいいわけでしょ? 私が婚約者役だなんて、すごく嫌がりそうなのに」


「…………そこは特に問題は……というか、むしろ……まあ、大丈夫なんじゃないですか」


「えぇ? 本当に?」




 何、その適当な感じ!

 



 なんだか歯切れの悪い言い方をするなり、ビトは「では失礼します」と言ってササッと部屋から出ていってしまった。

 私はいつブチギレたディランが部屋に突撃してくるかとソワソワしていたけど、結局パーティー当日までディランが私を訪ねてくることはなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ