恋愛するなら、誰を選ぶ??
「うーーん……。溺愛ルートって、何……?」
ベッドの上であぐらをかいて座っている私は、腕を組みながら首を傾げた。
令嬢らしからぬ座り方だけど、今この部屋には私しかいないのだから別にいいだろう。
『【ルート変更チャンス】
あと1人の好感度変化で、家族ルートから溺愛ルートに変更できます』
今日の昼間、突然出てきた謎のメッセージ。
何度読んでみても、まったく意味がわからない。
ルート変更のチャンス?
……って、変更も何も、よく考えたら今の私は誰を攻略するのかさえ決めてない状態だけどね?
伝説のクソゲーと言われるだけあって、このゲームは攻略対象者を決めるタイミングが決まっていない。
初期段階で決めろというメッセージが出てくることもあれば、出てくる前にゲームオーバーになることもある。
ここに『家族ルートから溺愛ルートに』って書いてあるし、今はこの家族ルートってことだよね?
そもそも、その家族ルートってなんなのさ。
溺愛ルートになったら、何が変わるわけ???
そこまで考えて、ふとこのゲームのクリア条件を思い出す。
「好感度100%になったら、家族として認められる……」
そうだ。ただ好感度を上げることばっか意識してたけど、最終目的は攻略対象者に家族として認めてもらうことだった!
それが、『家族』ルート?
ってことは、『溺愛』ルートってまさか……攻略対象者から溺愛される……ってこと?
家族ルートでなくなるのなら、その溺愛も家族としてではなく恋愛としての溺愛という意味かもしれない。
「あの4人から、恋愛の意味で溺愛される……?」
頭の中に、目の笑っていないエリオット、仇を見るような目で睨んでくるディラン、心底興味なさそうな無表情のレオン、私の困惑を喜ぶビトの姿が浮かぶ。
その4人が笑顔で自分に言い寄ってくる姿を想像して、ゾゾゾッと鳥肌が立った。
ない!!! ないないない!!!!
みんな誰!? 状態になる!!
そもそも、あの4人に恋愛感情なんてものが備わってるの?
溺愛ルートに変わった瞬間、取り付けられるとか?
そんなのキャラ崩壊するじゃん!!!
あの4人が普通の乙女ゲームのように恋愛する姿なんて想像できないし、ましてやその相手が私だなんてもっと想像できない。
せめて攻略対象者の中にルーカスがいてくれたら……っ!!
本当になんで彼を対象者にしてくれなかったのか、ゲーム会社への不満は増すばかりだ。
この4人しか対象者がいないのであれば、このまま家族ルートでいいんじゃないか……そう思ったとき、1つの可能性が浮かび上がってきた。
でも、もしかして……溺愛ルートになったら、殺されることはなくなる?
恋愛メインのゲームで、ヒロインが殺されるなんてオチは聞いたことがない。
両想いで結ばれるハッピーエンドか、友情のまま終わるバッドエンドの2択が多い気がする。
しかも、もしあの3兄弟の誰かと結ばれるとしたら、私はエリーゼの身代わりではなくフェリシーとして結ばれることになるはずだ。
それなら本物のエリーゼが現れても殺される心配はない。
「ってことは、溺愛ルートを選べば私は死なないの……!?」
突然見えた希望の光。
でも、それは『死なない』というメリットと同時に、あの4人の誰かと恋愛ゲームをしなければいけないという結論に辿り着いてしまう。
「だ、誰を選ぶ……?」
敵に回さなければ優しいエリオット?
いやいや。
あの優しさは、思いやりからくる優しさじゃないし! 自分が楽しむために、うまく駒を動かしやすくしてるだけのことだし!
あの人間味のない男に恋愛は無理でしょ!
じゃあ、最近少し怖さが半減したディラン?
いやいや。
前に比べたら怖くないってだけで、いつも怒ってるしずっと睨んでくるし、今でも十分怖いわ!
あんな短気なディランと恋愛なんて無理でしょ!
じゃあ、1番害のなさそうなレオン?
いやいや。
本がないと挨拶すらしてくれない男と、どう恋愛しろと!?
それに、私は年下より年上のほうが好きだし、レオンとの恋愛も無理!
じゃあ、1番無難そうなビト?
いやいや。
この中では1番無難だけど、ビトだって十分おかしいからね!?
あの地獄耳と勘の良さは人外レベルだし、その情報をうまく小出しにしながら私やエリオットの様子や状況を見て楽しむなんて、悪趣味もいいとこだし!
そんな謎すぎるビトとの恋愛も無理!
「って、全員無理じゃん!!」
思わず、手元にあった枕をボスッとベッドに叩きつける。
完全に情緒不安定だ。
待って。落ち着いて。
よく考えたら、まだルート変更の条件が揃ってないんだった!
メッセージには、『あと1人の好感度変化で』と書かれている。
この好感度変化というものが、あのピンク色に変化する数字を意味しているのだとしたら、この『あと1人』というのは間違いなくエリオットのことだろう。
どんな条件で色が変わるのかわからないけど、あのエリオットに何か変化が起こるとは考えにくいよね?
それなら、まだそんな心配しなくても……。
そんなことを考えていると、部屋をノックされた。
コンコンコン。ガチャ。
返事を聞かずに勝手にドアを開けたのは、水色髪のメイド……マゼランだ。
悪びれた様子もなく、ムスッとした顔で部屋に入ってきた。
「エリオット様とディラン様がお呼びです。急いで来てください」
「え……?」
「ほら、早く。急いでください」
私に気遣うことなく、マゼランはどんどん急かしてくる。
何か考える余裕もないまま、私は言われたとおりに足早に部屋を出た。
……え? 誰が呼んでるって言った?
エリオットとディラン? え? 2人?
この家に来てから、2人が一緒にいるところなんて見たことがない。
ゲームの中でも、2人のいる場所に呼び出されることなんて一度もなかった。
な、何……?
もしかして、ディランがルーカスのことを思い出して、エリオットに話したとか……?
私がエリーゼの婚約者と会ってるって、バレたの!?
ドキドキドキ……と不安でいっぱいの中、ダイニングに案内された。
中には、椅子に座っているエリオットとディラン、そして壁際にビトが立っていた。
ビト!? なんでここに?
まさか、ルーカスのこと確認されて本当のことを話したんじゃ……!?
私と目が合うなり、ビトはスッと顔をそらしてしまった。
なんで目をそらすの!?
本当にルーカスのことがバレたの!?
やけに気まずそうな顔をしているディランの前では、エリオットが薄ら笑いを浮かべている。……あいかわらず目は笑っていないけど。
「やあ。フェリシー。急に呼び出して悪かったね」
「い、いえ。何かご用でしょうか? エリオット様」
「ああ。君に大事な話があってね」
大事な話……ま、まさか……。
「今度王宮でパーティーがあるんだが、それに君とディランの2人で行ってきてほしいんだ」
「…………え?」
想像と違いすぎる質問だったので、一瞬意味がわからなかった。
ルーカスのことじゃないの?
っていうか……王宮のパーティー? そこに、私が?
ディランと2人で? え???




