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まともな攻略対象者はいないの!?


「この目は、ヴェルド家の証ですから。……処刑人の家系である、あのヴェルド家のね」


「処刑人!?」




 そっか! それが隠しキャラだったビトの設定なのね!

 処刑人の家系……っていうことは、もしかして私が殺されるときはビトが手を下すってこと?




 ゲームオーバーでは『殺された』という文字しか出ていなかった。

 なのでどうやって死んだのかわからなかったけど、おそらくビトが命令されて手を下したのだろう。

 それなら、私が「私の命が1番」だと言ったときに動揺していたのも納得できる。




 きっとすでにエリオットに何か言われてるんだ。たとえば、私が逃げようとしたら殺していい……とか。

 だから、私がそのことを知っていたのかって思って驚いたのね!




 自分の味方になっていたビトは、いざっていうときに私を殺す役だった。

 真面目に孤児院巡りをしていてよかったと、ホッと胸を撫で下ろす。




 ……やっぱりエリオットは怖い!

 あんな笑顔で会話しておいて、裏ではこっそり私の暗殺を了承してたなんて!

 あの笑顔に騙されちゃダメだ!!




 そんなことを考えていると、ビトが静かに問いかけてきた。



「俺が怖いですか?」


「!」




 怖い……? ビトが?

 



 いつも通りの無表情で、真っ直ぐに見つめてくるビト。

 特になんともないような顔をしている、けど……。



 

 あのオッドアイが、処刑人の家系の証って言ってたよね?

 眼帯で隠してたってことは、ヴェルド家の息子だって知られたくないから……?




 オッドアイに興奮する私の反応を見て、ビトはとても驚いていた。

 綺麗だと言われたことがないと言っていたし、この世界でのオッドアイは忌み嫌われているものなのかもしれない。




 私に見せるのも、本当は迷ったのかな?

 嫌悪の目を向けられると、覚悟してたのかも……。




 普通そうにしていても、ビトの中にはこの家系に生まれたことに対してくすぶっている何かがあるのかもしれない。




 まあ正直、処刑人の家系だから何? って感じだけどね。

 そういう職業の家があったって不思議じゃないし、その家に生まれたのはビトにはどうにもできないことだし。


 私を殺す役だったとしても、命令されてのことであってビトが私を殺したいと思ってるわけじゃないし。

 それに、私はエリオットのほうが何万倍も怖いし!!!




「ビトのこと、怖くないわよ」


「……嘘ですよね」


「嘘じゃないわよ。ビトよりも、その……エリオット様やディラン様のが怖いわ」


「…………」



 絶対に言わないでね? という気持ちを込めながらこっそり小さな声でそう呟くと、ビトが綺麗な瞳を丸くした。

 

 目をそらすことなく堂々と見つめ返す私を見て、これが嘘ではなく本音だとわかってくれたらしい。

 ビトの周りを覆っていた暗く重い空気が、一瞬にして消える。



「……ははっ」


「!」

 



 ……笑った?




 今までも何度かビトが笑っているところは見たことがあるけど、いつも笑うのを我慢して肩を震わせている姿ばかりだった。

 こうして堂々と笑っているのは初めて見る。




「やっぱり変な人ですね」


「えっ!?」




 やっぱりって、何!?

 前から変な人だと思ってたの!?




 いろいろとツッコみたいことはあるけど、クックックッと笑い続けているビトに何も言うことができない。

 なんとなく、まだ好きなだけ笑わせてあげたいと思っている自分がいる。




 ……いつもは変に大人びて見えるけど、こうして笑ってると普通の18歳の子どもって感じね。

 ビトもこんなふうに笑うんだ……。




 なんだかほっこりする気持ちでいた私に、ひとしきり笑ったビトが突然笑顔のままぶっ込んできた。

 


「実は、俺……ルカ様がクロスター公爵家のルーカス様だと知っています」


「………………え?」



 一瞬にして頭が真っ白になり、全身から血の気が引いていく。

 私が固まったことに気づいていながらも、ビトは一方的に話を続けた。



「俺、地獄耳なんですよ。ルーカス様がシスターに名乗っていたのを聞きました。フェリシー様も、あの男がクロスター公爵家のルーカス様だとご存知ですよね?」


「…………え?」


「だから本名ではなくお互いニックネームで呼ぶことにしたのではないですか? ……俺に彼の名前を知られないように」


「…………」


「でも、彼がルーカス様だとしてなぜそれを隠す必要があるのか。エリオット様に言わないよう俺に頼むほど、隠さなくてはいけない何か理由がある。……違いますか?」


「…………」


「これは俺の勘ですが、エリーゼ様とルーカス様は婚約しているのではないですか?」


「…………ぇ?」


「だから、ルーカス様と出会ってしまったことをエリオット様に知られたくなかった。そうでしょう?」


「…………っ」




 な、な、な…………なんなの、この子!?!?

 なんでこんなに知ってるの!? 俺の勘って言った!? 勘!?

 いや。全部ドンピシャ当たってますけど!?!? 何者!?


 ってゆーか待って!?

 その情報、全部エリオットに伝わったら一瞬にして私の好感度はゼロになっちゃう……!




 無言のままガタガタ震える私を見て、ビトがクスッと楽しそうに笑う。

 私の困った姿を見たいと思っているのでは……という嫌な想像は、どうやら当たっているようだ。



「安心してください。エリオット様には言いませんよ。言ったでしょう? 俺はあなたを優先してるって」


「ほ、ほんと……?」


「ええ。もちろんです」



 

 よかった……。

 そうだよね。それを知っててずっと隠してくれたんだし、ビトのこともっと信用していいのかも……。




「なぜフェリシー様がクロスター公爵家のルーカスの顔を知っていたのか、なぜエリーゼ様の婚約者だと知っていたのか、気になることはたくさんありますが、今は聞かないでおきますね」


「……ぇ」


「全部一気に知っちゃうのもつまんね--……あ、いえ。少しは秘密のままでいいと思いますので」


「…………」



 

 なんか今、一瞬だけ本音が漏れたような……。




 ニコニコと楽しそうに笑っているビトの笑顔が、今はとてもわざとらしい笑顔に見える。

 さっきまでの幼く素直な笑顔は、いつの間にか変わってしまったようだ。




 やっぱりクセ者だった……!!!

 なんなの。このクソゲー、まともな攻略対象者はいないの!?




 感情のジェットコースターが続いて、メンタルが崩壊しそうだ。

 今すぐベッドに飛び込んで、この疲れきった心をゆっくり休ませてあげたい。




 疲れた……すごく疲れた……。

 心がすり減りすぎて、もう何を言われても驚かないわ……。




「あ。そういえば」


「ん?」


「さっき、孤児院の前にディラン様とレオン様がいましたよ」

 

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