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私が1番に優先しているのは……


「さあ。フェリシー様は、誰を1番に優先されますか?」



 ニヤッと怪しく笑うビトは、私から目を離さない。

 まるで、動揺する心の中を探られているような感じだ。




 どうしよう……。

 なんて答えればいいの……?




 今出ている選択肢の中には、正解があるとは思えない。

 かといって、ここに名前のない人も絶対に違う。ビトやジェフやメイドたちを1番に優先するなんて、どう考えてもおかしいからだ。




 ……ビトは、嘘をつくなって言った。

 私の考えなんてわからないはずのに、ビトはそれが嘘かどうかがわかるの?




 世の中には、顔色や声色を聞くだけで嘘を見抜ける人もいる。

 ビトもその人たちのように鋭いのかもしれない。




 もし嘘だってバレて、エリオットを優先するようになったら困る……!

 でも、この場合の『本当』ってどれなんだろう?

 私は誰を1番に優先してるの?




 3兄弟の中なら間違いなくエリオットだけど、私はあの家から逃げるために今がんばっているわけで、それは言うことを聞いてるとはならないと思う。

 どちらかといえば、反抗しているという意味になりそうだ。


 そして、もちろんルーカスや自分も1番の優先とは言えない。

 3兄弟に嫌われないように、自分の気持ちよりも3兄弟を優先して行動しているからだ。




 ……待って。これって、答えがない!?

 私は何を1番に優先させてるの!?




「……まだですか? フェリシー様。あなたが1番優先させているもの……答えられませんか?」


「わ、私が1番優先させているものは……」




 私は何を……?




 そこまで考えたとき、なぜ自分が今必死にがんばっているのかが頭に浮かんだ。

 自分の考えでもエリオットでも推しでもなく、私が1番優先させているものは──。


 

「私は……私の命を優先させてるわ」


「!?」




 そう。私は、私が死なないための選択をしてるの!

 そのためなら、そのときそのときで優先する相手を変えるわ!




 私が答えた瞬間、空中に浮かんでいた文字がスゥッと消えた。

 この答えがどんな結果につながるのか、ドキドキと速まる心臓を感じていると──無表情だったビトが、驚愕の表情を浮かべた。




 ……え?




「なぜそれを……。まさか、知っているんですか……?」


「知ってる……?」

 



 え? 何、この反応。

 知ってる……って、なんのこと? 何が?




 突然『私の命』なんて意味のわからない言葉が出て驚いているのなら、理解できる。

 コイツ、急に何言ってんだ? と思われても仕方ない。


 でも、このビトの反応は違う。

 これは()()『私の命』と言い出したことに驚いているんだ。




 もしかして、ビトは「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」って言いたいんじゃ……。

 でも、それに驚いてるってことは、ビトも私に命の危険があることを知ってるの……?




 お互いが、なんで知っているのか……と不可解な顔で見つめ合う。

 現時点では、お互いに知っているはずのない情報だからだ。


 なんて答えようか迷っていると、ビトが口を開いた。

 どこか訴えかけてくるような真剣な表情で、ピリッと空気が凍りつく。



「俺の家のこと、ご存知なのですか?」


「家?」


「俺の……家系のことです」

 



 ビトの家系のこと? 何? そんなの知らないけど……。

 



 ビトの様子からして、どうでもいい内容だとは思えない。

 おそらく、『騎士』『付き人』『貴族』以外に何か特殊な設定がされているのだろう。

 あまり人に知られたくないような、そんな家系の設定が──。




 なんだろう……?

 隠しキャラだったビトに何か大きな秘密があるのはわかるけど、それが何かは知らない……。




 隠しキャラだったため、ゲーム上では設定も何もかも『???』にされていたのだ。




 ここは……素直に知らないフリをしたほうがいい?

 でも、そうなるとこの話は終わってビトの隠し事を知らないままになっちゃうかも。

 知ってるフリをしてみる……?




 こういった秘密や闇を抱えているキャラは、その内容を知って受け入れてあげることで、その闇から解放してあげるきっかけになったりする。

 そのためには、ヒロインである私がその内容を知る必要があるのだ。




 このビトの感じ……きっと、ビトにとって悪い意味で重要なことのはず。

 重くなりすぎないように、聞いてあげることができるかな?




「…………」



 あのっ……と声を出そうとしたとき、ビトが無言のまま自分の眼帯に手をかけた。

 そのままスッと眼帯を外し、真っ直ぐに私を見つめる。

 


「!」




 オッドアイ!?




 普段見えているビトの右目は、深い青だった。

 ネイビーの髪色と合わせて落ち着いた雰囲気だったのに、左目は鮮やかなエメラルドグリーンで少しだけ輝いて見える。




 ビトはオッドアイだったの!?

 左右の瞳の色が違うなんて、そんな……まさか……!

 



「俺の家は……」


「綺麗すぎるっ!!」


「は?」


「あっ、ごめん!」



 何か言いかけていたビトの言葉を遮ってしまった。

 真顔になっていたビトの顔が、ポカンとした表情に変わる。




 しまった! 興奮が抑えられなくて、つい口に出しちゃった! 

 だって……だって……あの全人類憧れのオッドアイを持つイケメンを生身で見れる日がくるなんてっ!!




 アニメやゲーム内では見たことがあるけど、実際に本物のオッドアイを見るのは初めてだ。

 なんともいえない興奮が胸の奥から湧き上がってきて、我慢できずに憧れの視線を送ってしまう。




 あああ……すごいわ。なんて天才的な美しさ!!!

 ビトってば、こんな素晴らしいものを隠していたなんて!!

 

 ……って、ダメダメ。落ち着くのよ、フェリシー! まずはビトの話を聞かなくちゃ!



 

「あの、何か言いかけてたよね? ごめん。何かな?」

 

「…………」


「ビト?」


「いえ。……この目を綺麗だなんて言われたのは初めてです」


「えっ? そうなの? こんなに綺麗なのに!」


「…………」




 綺麗だって言われたのが初めて!? なんで!?

 この世界ではもう見慣れてるってこと!?

 でも、見慣れてたとしても綺麗なものは綺麗だって思うよね?




 意味がわからず首を傾げると、ビトはフッと鼻で笑うなりボソッと呟いた。



「あなたは何も知らないから、この目を綺麗だなんて言えるんです」


「? どういう意味?」


「この目は、ヴェルド家の証ですから。……処刑人の家系である、あのヴェルド家のね」


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