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美少年の毒舌が止まりませんね


「エリオット様の分はないのですか?」



 そうビトに問いかけられて、思わず呆れた目を向けてしまった。


 エリオットの分なんて、あるわけないじゃない──そんな私の心の声が届いたのか、まだ何も答えていないというのに「あ、ですよね」とビトが自己完結させている。




 私なんかの手作りクッキーをエリオットが食べるわけないし、昨日の今日でこんなの渡したら『媚びを売ってるつまんねー女』認定されちゃうわ!




 ビトが察してくれたことに感謝して、さっきの質問はなかったことにして話を続ける。



「……ビトは今食べる? 包もうか?」


「あ。今食べます」


「じゃあ、これとこれ、どうぞ」


「ありがとうございます」



 眼帯をつけたビトの顔クッキーを渡すと、ビトは改めて絵を見ることなくあっさりとそれを口に放り込んだ。

 もっとしっかり絵を見ろよ……そんなツッコミを胸にしまい優しく見守っていると、クッキーを食べ終えたビトが意外そうな声を出した。



「……おいしいですね」


「そう? よかった」




 なんでそんな意外そうに言う!?

 それぞれのクッキーの感想といい、さっきから失礼なんですけど!?




 いろいろと文句を言いたいところだが、おいしいと言ってくれたなら許そう。

 真顔で失礼をぶっ込んでくる付き人から目を離し、私は他の人へ渡すクッキーを再度包み始めた。








「よし! 全部包み終わった!」



 最後の袋にリボンを付け終わり、私はふぅ……と一息ついた。

 こういった細かい作業は嫌いではないため、かなり集中していたようだ。

 

 気がつけば、調理場の端っこでビトがコックとお茶を飲んでいた。



「ビト。お待たせ。終わったわ」


「あ、はい。今から渡しに行きますか?」


「そうね」



 調理場を出てすぐにディランの部屋を訪ねたけれど、ディランはどこかに出かけているようだった。


 部屋の掃除を担当しているメイドにクッキーを置いてもらえるよう頼み、出来上がった新作絵本を持ってレオンのいる中庭を目指す。




 本を持ってないと、レオンは挨拶すらしてくれないからなぁ……。




 日当たりがよく、静かで落ち着く空間でもある中庭。

 そのいつもの場所に、銀髪の超絶美少年が座って本を読んでいる。


 ピロン



『選んでください。


 ①お元気?

 ②今日は天気がいいわね

 ③また本なんてつまらないもの読んでるの?』



 お決まりのレオンの挨拶イベント。

 似たような選択肢の中に、今回はとんでもない地雷が混ざっている。




 うわぁ……『本なんてつまらない』なんて、レオンにケンカ売ってるようなもんじゃん!

 なんで選択肢の中にこんなの入れちゃうかなぁ!?

 間違って押したらどうしてくれる!?




 普通の選択肢でも好感度が下がるようなゲームなのに、地雷を選んでしまったらとんでもないことになる。

 一度試しに選んだことがあるけれど、通常1%しか下がらないはずのレオンの好感度が一気に10%下がり、ゲームオーバー寸前になりかけたのだ。




 ほんっとクリアさせる気ないよね、このクソゲー!




 間違って③を押さないように丁寧に①に触れ、レオンに近づいていく。

 

 選択肢以外も話せるけど、あまり選択肢を無視してばかりでは何かバグが起きそうで怖い。

 そのため、選んでも問題ない答えがある場合はできるだけ選択肢から選ぶようにしている。



「……お元気?」


「…………」



 そう声をかけると、レオンは私の顔を見上げたあとにチラッと手元に視線を移した。

 私が新作の本(紙)を持っているのを確認するなり、その口を小さく開いた。



「新しいの書いたの?」


「はい」




 ……ほんっとに本にしか興味ないんだなぁ。

 クッキーも渡したいけど、やっぱりここは本が先だよね?




 スッと数枚の紙を渡すと、レオンは無言のままそれを受け取った。

 もうレオンの目はその紙に集中していて、たぶん私の後ろのほうからこちらを見守っているビトには気づいていない気がする。


 


 今回はオリジナル要素の強いアラジンとピーターパンにしてみたけど……どうかな?




 冒険っぽいところが男の子に好かれると思ったのに、レオンは表情を変えないまま冷静に感想を述べてきた。



「やっぱりあんたって変。ランプから魔神が出るとか、大人にならない島とか、空が飛べる妖精の粉とか、なんでこんな変なことばっか思いつくわけ?」


「…………」


「でも、今回あの変な絵がないのはよかったよ」


「……ありがとうございます」



 お礼を言っていいのか微妙なところだが、もうそれしか言えない。

 たとえ私の絵を邪魔扱いされたのだとしても、ここは素直に褒めてもらえたのだと喜んでおこう。




 まあ、変って言われただけでつまらないとは言われてないし、合格ではあるんだよね?




 レオンの言葉を前向きに受け取り、私はクッキーが包んである袋をレオンの前で広げた。



「絵は、今回クッキーに描いてみました」


「は?」



 レオンによく見えるように、クッキーをさらに前に差し出す。

 アラジンに出てくる魔法のランプ、魔人、ピーターパンに出てくるティンカーベルを描いたクッキーだ。




 魔人とティンカーベルが難しかったけど、幽霊みたいな足と妖精の羽は上手く描けたと思う!




 つい先ほど読んだばかりのキャラが描かれたクッキーを見て、レオンが大きな目をこれでもかというほどに細めた。

 眉間も寄せていて、あなたは近視ですか? と聞きたくなるような目でクッキーを凝視している。




 そんな、思いっきり『なんだこれ』っていう顔をしなくても……。




「なんだ、これ」




 普通に言われたし。




 麗しい美少年から繰り出される毒舌は、通常よりも心にダメージを与えてくる。

 ゲームやアニメ上では結構人気キャラになりそうなものだが、実際にされるととても悶えてなんていられない。


 


 うーーん……これ、クッキー持ってきたの失敗だったかな?

 

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