ゲーム、スタート
「……とはいえ、本当にゲームが始まるのかな?」
キャラの見た目や名前、設定などがすべて一致していたとしても、どうにも信じられない。
信じられないというより、信じたくないのかもしれない。
本当にゲームと同じことが明日から起きるの?
でも、それならあれがないとどうしようも……って、あっ!
目線を斜め下に向けたとき、見慣れたマークを発見した。
開いた本の形をしたマーク。
これが、先ほどと同じように白く光った状態で宙に浮いている。
「マイページのマーク!」
ほぼ無意識にそのマークに指を当てると、ピロンといった軽快な音が聞こえた。
それと同時に、目の前にアンティークフレームで囲われた画面がパッと出てくる。
ゲームプレイ中に何度も見たものだ。
『好感度
エリオット……8%
ディラン……10%
レオン……12%』
現在の攻略対象者の好感度がわかるマイページ!!
これがないと、今の好感度がわからないもんね!
「それにしても、この数字……全員ゲーム開始時の好感度と同じだ」
改めて本当にここがあのゲームの世界であることを実感するとともに、これまでの自分の健気な行動を思い返してガックリしてしまう。
何も知らなかったこの1ヵ月、3兄弟と仲良くなりたくて私なりに努力してきた。
笑顔で挨拶をしたり、迷惑をかけないようになんでも言うことを聞いたり……。
でも、全然距離は縮まらなかった。
そりゃあ、そうだよね。
ゲームスタート時の好感度は決まってるんだもん。何も変わらないはずだよ。
それに、それくらいで好感度が上がるなら伝説のクソゲーなんて呼ばれてないし!
攻略対象者たちの気難しさは、ゲーム上でも実際にこの世界で会った上でもよく知っている。
正直言って、あんなヤツらの好感度を100%にするなんてほぼ不可能だ。
明日本当にゲームの内容がスタートしたら、私はきっとあと1ヶ月も生きていられない……。
なんとしてでも、早くエリーゼを見つけなくちゃ!
***
翌朝。
苛立だった若い女性の声かけで、目が覚めた。
「何をしているんですか。早く支度をしてください。もう時間がないんですから!」
「…………え?」
ボーーッとする頭で布団から顔を出し、声のしたほうを見る。
部屋の入口に立っている水色の髪のメイド──マゼランが、イライラした様子でベッドに横になっている私を睨みつけていた。
……あれ? 朝?
昨夜はなかなか寝つけず、深夜までこれからの計画について考えていたはずだ。
朝方まで起きていた記憶はあるけれど、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
えーーっと、支度ってなんのことだっけ……?
まだ寝ぼけた頭でそんなことを考えていると、ピロンという軽快な電子音が聞こえてきた。
それと同時に目の前に白い文字が現れる。
『どこへ行く?
①教会
②図書室
③どこにも行かない』
……この質問は……!!
その文字を見た瞬間、パチッと一気に目が覚めた。
布団をめくって勢いよく起き上がると、マゼランがビクッと肩を震わせたのが文字越しに見える。
ゲーム最初の質問とまったく同じ!!
じゃあ、やっぱり……本当にあのゲームがスタートしたんだ!
起き上がったものの、一言も話さない私を見てマゼランが急かすように声をかけてくる。
「早くしてください」
「!」
選ぶのが遅れると言われるセリフまでも一緒……!
ゲームスタート時のやり取りは、嫌というほど覚えている。
それぞれの選択肢を選んだあとに何が起きるのか、この質問の答えが何につながっているのかもバッチリ知っている。
この質問は、最初にどの攻略対象者に会うかを決めるためのもの……!
恋愛をするわけではないため、ルート決めとはまた違う。
本当にただ最初に会う対象者を決めるだけだ。
まあ、ただ会うっていっても小さなイベントはあるから、どうしたって好感度は下げられちゃうんだけどね。
どの選択肢を選んでも必ず好感度の下がる最初のイベント。
どうせ下がるなら、できるだけ減る量が少ないイベントを選ぶべきだ。
現時点で1番好感度が高くて、1%ずつしか減らない三男レオン!
レオンに会うために、ここは図書室を選ばなきゃ!
そう思いながら文字に手を伸ばす。
自分ではわりと冷静でいたつもりだったけど、実際にはこの状況に緊張していたらしい。
ガタガタと震える私の指は、狙っていた『図書室』ではなくその下の『どこにも行かない』を押してしまった。
ピロンという音と共に『どこにも行かない』の文字が光る。
あああああっ!!! 嘘でしょ!?
間違えて③を押しちゃったああああ!!
「どこにも行かないのですね。わかりました」
「あっ……!」
選択肢を選んだあと、メイドはムスッとした顔で部屋から出ていった。
これも、ゲーム通りの流れだ。
行っちゃった……どうしよう!!
ゲームの流れなら、この後ここにディランが来るはず!
自分の決定的ミスに、思わず頭を抱えてしまう。
あああっ、もうっ!!
なんでよりによって乱暴者のディランにしちゃったの、私!!