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完璧爽やか王子系って……私の好みドストライクなんですけど


 ルーカスから離れるため、早歩きで孤児院に向かっているのだけど……なぜか私たちの後ろから、ルーカスが同じスピードでついて来る。


 ビトも不思議に思っているのか、後ろをチラチラ確認しながら歩いている。

 ルーカスからは人の良さが溢れ出ているので、警戒しているというよりは何しているんだ? と疑問に思っているような顔だ。




 これ、絶対に私たちについてきてるよね?

 なんで???




 あまり話しかけたくはないけど、この状態でいるのも不安だ。

 私はピタッと立ち止まるなり、ルーカスを振り返った。


 ルーカスは前回も一緒にいた相手と2人で行動しているらしく、私が振り返ったのに気づくなり2人もピタッと足を止める。

 ルーカスの同行者は気まずそうな顔だ。



「あの…………何か?」



 恐る恐る問いかけると、ルーカスは大量のパンを抱えながら申し訳なさそうに頭を下げた。



「あっ、すみません。あとをつけてしまって……。先ほど、あなたがこのパンを孤児院に配ると言っていたのが聞こえて……」


「? ええ。そうですが」


「よければこのパンも孤児院の子どもたちに……と思い、ついてきてしまいました」


「!」



 どこまでも親切なルーカスの言葉に、少しでも不審に思ってしまった自分を責めたくなる。




 ……この人、本当に公爵家の人間?

 高位貴族なのに、こんなに優しい人がいるなんて……。




 私の話を聞いて孤児院への寄付を決めたということは、ルーカスはどこに配るかなど何も考えないままこの大量のパンを買ったということになる。

 それは、きっとあのパン屋の店主が困っていたからだろう。


 ただそれだけの理由で大量のパンを買い、こうして自分自身でパンを持って街中を歩いている──なんともめずらしい公爵子息だ。




 でも……孤児院に寄付してくれるのは助かるけど、わざわざ同じ孤児院に行く必要はないよね?




「ありがとうございます。孤児院の子どもたちも、きっとみんな喜びます。この先にも別の孤児院がありますので、よければそちらに……」


「そうなのですね。では、このパンはそちらの孤児院に持っていきます」


「はい。よろしくお願いします」




 よし。これで、ルーカスと離れられる!




「はい。ただ、あなたがそのパンを寄付するところを見ていてもよろしいですか?」


「…………はい?」



 にっこり微笑んだまま、首を傾げて疑問系で返す。

 


「お恥ずかしい話、今まで孤児院に行ったことがないのです。事前の連絡なしにどうやって寄付をされに行くのか、見せていただきたいのですが……」


「…………」




 そんなの、あなたがニコッと爽やかに笑いながら「パンをどうぞ」って言うだけでいいと思いますけど!?

 ど真面目か!!




 心の中で盛大にツッコミを入れたけど、もちろん口には出さない。

 前世でもこういう真面目くんと仕事をしたことがあるけど、このタイプは口で「大丈夫だよ」と言うだけでは納得してくれないのだ。




 思ったよりめんどくさいタイプだった!

 でも、仕方ない。こうなったら、すぐ終わらせて帰らせよう!




「わかりました。私も、そんなたいしたことはしませんが……」


「ありがとうございます」



 ニッコーーと満面の笑みを向けられて、目が眩みそうになる。

 なぜこの人が攻略対象者の中に入っていないのだろうと、ゲーム会社を恨みたくなってくる。




 こんな素敵な人もいるのに、なんで攻略対象者はあんな変わり者ばかりなの……!




 そんなことを考えている間に、孤児院に到着した。

 今日も庭では小さい子どもたちが楽しそうに走り回っている。



「こんにちは」


「あっ! おはなしのおねえちゃんだーー!」

「ほんとだーー!」

「おねえちゃーーーん」



 私のことを覚えてくれていたのか、みんなが笑顔でこっちに走ってくる。

 



 ああっ……天使たちが走ってくる〜〜!!

 可愛いっ!!




 頬や口元がゆるゆるになっているのが自分でもわかる。

 怪しい人だと思われないように引き締めたいところだけど、愛らしい天使たちを前にしたらニヤケるのを止められない。



「覚えててくれたんだね」


「おぼえてるよーー。おねえちゃん大すきだもん」


「あ、ありがとう……っ」



 天使たちの癒しパワーで、疲れきった心が浄化されていく。

 集まってきた子どもたちは、私の後ろに立っている男3人と大量のパンに気づくなり、目が釘付けになった。




 ふふっ。みんな、期待で目が輝いてる。




「このパン、みんなへの差し入れだよ。あっちのパンは他の孤児院に持っていくから、みんなにはこっちのパンをあげるね」



 そう言ってビトの持っているパンを見せると、みんな大喜びでビトの足にくっついた。



「ほんとーー? すごーーい!」

「わーーい!! やったぁーー!」

「ありがとぉーー」


「!?」



 小さい子どもたちに抱きつかれて、ビトがオロオロと焦っている。

 眼帯をつけた無表情のビトに、子どもたちは怖がってはいないようだ。



「フェ、フェリシー様。これ、どうしたら……」


「ふふっ。それじゃ動けないわね。貸して。私が中にパンを運んで……」



 そう言ってビトの持っているパンを受け取ろうとしたとき、先にルーカスに取られてしまった。

 彼の持っていたパンは、一緒にいる男性に渡したらしい。



「これ、結構重いですよ。俺が持ちます」


「……ありがとうございます」


「いえ」



 ニコッと優しく微笑むその姿は、もう絵本の中の王子様にしか見えない。




 なんてスマートな男なの! ルーカス!

 ちょっとカッコよすぎじゃない?




 前世でもこの世界でも、こんな風に女扱いをされた経験がないためどこか気恥ずかしいというか、照れてしまう。

 



 どうしよう……。

 ルーカスがこんなにカッコよくて優しくて王子様タイプだったなんて……私の好みドストライクなんですけど……。


 このままじゃ、私…………ルーカスが推しになっちゃう!!

 

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