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フェリシー画伯のクッキーできました! ……何かおかしいですか?


「クッキーを作りたいんだけど、調理場を借りていいかしら?」



 突然調理場に現れた私に、コックたちは困惑した表情をしつつも「どうぞ」とすんなり承諾してくれた。

 選択肢で『クッキー』を選んだからか、()()()()調理台の上にはクッキーの材料が並んでいる。




 この家に来る前はよく孤児院でも作ってたし、クッキー作りは問題ないわ。

 あとは、どんな絵を描くか決めて最適なクッキーの形にしなきゃ。




 うーーん……と唸りながら、クッキー生地を作りコネコネする。

 ビトは調理場の壁に寄りかかって、私の様子をジッと観察していた。




 丸い形のクッキーに、猫の絵を描くとか?

 でも、それなら猫の形のクッキーにして顔を描いたほうが可愛いかな?

 いや。でもあの3兄弟が猫のクッキーに胸をときめかせたりする?




 嬉しそうに猫型クッキーを喜ぶディラン……そんなの、想像できるわけがない。




 うん。怖いわ。

 あの兄弟に猫ちゃんは可愛すぎるかもね。やめておこう!




「じゃあ、どうしよう? 何がいいかな?」



 生地を寝かせている間、私は部屋から紙とペンを持ってきた。

 クッキーに何を描けばいいか、試しにいくつか絵を描いてみる。




 犬……鳥……カッコよく馬とか?

 一応、猫も描いてみるか……うーーん、どうしよう??




 真剣に絵を描いている私を、ビトと数人のコックが覗き込んできた。

 調理場でいきなり絵を描き始めたのだから、みんなが気になっても仕方ないだろう。




 あっ、そうだ!

 どれがいいか、みんなに意見を聞いてみればいいんだ!




「ねえ。クッキーに描いてあるとしたら、この動物の中でどれが1番嬉しいかしら?」


「動物……?」



 ビトの不審そうな声に続き、コックたちも同時にざわめき出す。

 みんなで顔を合わせ、何やらコソコソと話し合いが始まってしまった。



「なんの動物だ……? これは、犬……か? こっちは?」

「バカ! これは猫だろ! 犬はこっちだ」

「これはヘビじゃないか?」


「……それは馬です」


「えっ!? 馬!?」



 ここにいる私以外の全員が、驚愕の表情を浮かべる。

 どれがいいか選ぶ以前に、みんなどの絵がなんの動物なのか判別できていないらしい。




 私の絵ってそんなに下手!?




 ここ最近、絵をディスられすぎて自信がなくなってきた。

 元々上手いとは思ってなかったけど、ここまでひどいとも思ってなかったのだ。


 ズーーンと落ち込んだ私を見て、若いコックが慌ててフォローしてきた。



「だ、大丈夫ですよ! 絵ってことはわかりますから!」




 なんだそれ。

 どんなフォローなのさ。




「……ありがとう」


「それに、この花は上手いと思います!」


「……それ、鳥なの」


「えっ? と、鳥?」



 若いコックは、周りから小声で「何やってんだ」と言われながら小突かれている。

 フォローしたつもりが、さらに傷口に塩を塗ってしまったのだから無理もない。


 コックたちから異様な視線を送られたビトが、次に私をフォローするべく一歩前に出てきた。



「フェリシー様。その絵があなたの持ち味なのですから、下手でも気にせず堂々と描いていいと思います」




 下手ってハッキリ言ったぞ!?

 フォローになってないよ!?




 私にとどめを刺したビトをコックたちが真っ青な顔で見ている。

 どうやらここのコックたちは、エリオットの言いつけを守り私に失礼な態度はしないようにしてくれているようだ。


 どこかのメイドたちとは大違い。

 とはいえ、誰も「下手じゃないよ」とは言ってくれない。




 どうしよう……動物はやめたほうがいいかなぁ……。

 可愛さやカッコよさが伝わらないんじゃ、アピールにならないし。

 でも、男の人に花の絵のクッキーを渡すのも……。




「あっ」



 ここにきて、さらに閃いてしまった。

 動物や花じゃないけど、ちゃんとアピールになるような絵を──。




 そうだ! ()()にしよう!!





 ***





「できたっ!!」



 クッキーをイメージの形にして焼き上げ、溶かしたチョコでその上に絵を描く。

 すべての工程を終えた私は、「ふぅーーっ」と大きく息を吐いた。




 思ったより上手にできたっ!

 こんなクッキー見たことないだろうし、インパクトは与えられるはず!




 私の小さな歓声を聞いて、少し離れた場所で夕食の下準備をしていたコックたちやビトがやってくる。

 集中して描きたいからと、作業中は近づかないようにお願いしていたのだ。




 動物は判別してもらえなかったけど、これなら見てすぐに何かわかるでしょっ!




「どう!?」



 じゃーーん!! と見せびらかすように、みんなにクッキーを見せる。

 全員一瞬だけ眉を顰めたような気がしたけど、ビトがすぐに答えを口にした。



「これは、人……ですか?」


「そうよ! クッキーを顔の形にして、そこに顔を描いたの」




 やった! 当ててもらえた!




 みんな人だとわかってくれたらしく、コックたちも嬉しそうに笑顔で褒めてくれる。



「ちゃんと人だってわかりましたよ!」

「私もわかりました」

「性別もわかりますよ。男ですよね?」


「そうなの。これがエリオット様で、これがディラン様。そしてこれがレオン様よ」


「…………え?」



 わいわい盛り上がっていた空気が一変して、急に静寂が訪れる。

 笑顔だったコックたちは、なぜかみんな時が止まったように動かなくなってしまった。




 ん? みんな、どうしたの?




 やけに深刻な顔をしたビトが、震える指で静かにクッキーを指す。



「あの……このクッキーは、ワトフォード公爵家のご兄弟3人を描かれたのですか?」


「? そうよ」



 エリオットはわざとらしい笑顔に。

 ディランは眉を吊り上げて怒ったような顔に。

 レオンは眠そうな顔に。

 みんなの特徴をしっかり捉えたなかなかの出来だと自負している。




 自分の顔のクッキーとか、絶対貰ったことないはず!

 これならひと目で3兄弟のことを考えながら作ったものだとアピールできる!


 我ながらナイス考え! ……のはずなのに、みんなが首を捻りながらクッキーを凝視しているのはどうしてなの……?

 

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