レオン……今回は話しかけても大丈夫だよね?
自分の視界の右下にずっと浮かんでいる小さい本のマーク。
それに触れて、マイページを表示させる。
『好感度
エリオット……12%
ディラン……11%
レオン……14%
ビト……40%』
「えええええ!? 40!?」
驚きすぎて、つい大声で叫んでしまった。
メイドか誰かがやってこないかと、慌てて自分の口を手で覆う。
嘘っ! すごい! 10%も上がってる!!!
元々好感度が上がりやすいキャラなのか、さっきの私の回答がナイスすぎたのかはわからないけど、とにかく10%も好感度が上がったのはありがたい。
ビトとは3兄弟よりも一緒にいる時間が多そうだし、好感度が高いに越したことはないわ!
よかった!!
高いとはいえ、まだまだ半分以下の好感度。
さっきのビトの表情を見れば、好かれているとは到底思えない。
それでも、過去1高い好感度に私は浮かれていた。
「選択肢が全部アウトっていうクソゲー仕様のおかげで助かったわ! これは選んじゃダメっていうのがわかりやすいからね」
まさか、プレイ中にイライラしまくったこの悪魔の選択肢に助けられる日がくるとは。
ホッと胸を撫で下ろしつつ、私はソファにゴロンと横になった。
ああ……今日は疲れたわ。
レオンに無視されて、街でルーカスに会って、エリオットの最悪なイベントをこなして、隠しキャラの未知イベントを無事乗り越えて……。
もうすぐ夕食が運ばれてくるだろうけど、その前にちょっとだけ……。
瞼を閉じたあと、私はすぐ眠りに落ちていった。
***
「よし! 完成っ!」
次の日。買ってきたインクを使い、白雪姫や桃太郎などひとまず5作品の絵本を完成させた。
ドレスや鬼を描くのが大変だったけど、なかなかうまくできた気がする。
「これも絵本にしてもらえるのかな?」
できることなら本にしてもらいたいけど、レオンの許可がないとダメかもしれない。
1番に読ませてって言ってたし、まずはレオンのところに行かなきゃなんだよね……。
昨日思いっきり無視されて好感度下げられたけど、今日は大丈夫かなぁ?
この手に持っている絵本の下書き。
これがあれば大丈夫だとは思うけど、また好感度が下がったら……と少し心配でもある。
「うーーん……不安だけど、行くしかない! これで持っていかなかったら、それはそれで好感度下がりそうだし」
覚悟を決めて、書いた紙を全部手に持つ。
レオンはこの時間、中庭にいるかな?
そんなことを考えながら部屋のドアを開けると、目の前に人が立っていた。
開けた瞬間にいたものだから、驚きすぎてつい悲鳴を上げてしまった。
「きゃあっ! ……ビト!?」
「驚かせてすみません。フェリシー様」
立っていたのは、昨日私の付き人になった隠しキャラのビトだ。
ちょうどノックをしようとしていらしく、右腕が上がっている。
ビビビ……ビックリしたぁぁーーっ!
「どこかに行かれるのですか?」
「あ、え、ええ。ちょっと中庭に……」
「中庭? わかりました。自分も一緒に行きます」
「えっ?」
家の中なのに、なんで一緒に?
ってゆーか、そもそも呼んでないのになんでここに?
一緒に来てもらっても特に問題はないけど、来てもらったところで何も意味がない。
この軽い紙をわざわざ持ってもらう必要もないし、レオンに本を読んでもらうだけなので護衛も必要ないからだ。
「今回は来なくて大丈夫よ。街に行くときは呼ぶから、それまでは今まで通りにしてて」
「いえ。一緒に行きます」
「来てもらっても退屈だろうし、私は本当に大丈夫だから」
「いえ。一緒に行きます」
「…………」
同じ返答しかしないモブキャラかよ!!
そう心の中でツッコんでしまうくらい、ビトの揺るぎない意思を感じる。
私が何か言ったところで意見を変えないだろう。
エリオットに私を見張ってろとか言われたのかな?
それはすごく嫌だけど、仕方ない……。
「わかったわ。じゃあ、行きましょ」
「はい」
廊下を歩く私の斜め後ろを、ビトがついてくる。
なんだかジロジロ観察されているようで、居心地が悪い。
付き人をほしがったの、失敗だったかも。
まさか家の中でもこんな監視されることになるなんて……。
はぁ……と何度目かのため息をついたとき、中庭に到着した。
相変わらずの癒しの空間の中に、目的の人物が座っているのを発見した。
いた! レオン!
草の上に座って本を呼んでいる美少年の姿は、これから写真集の撮影ですか? と聞きたくなるくらい絵になっている。
ピロン
『選んでください。
①ごきげんよう
②何を読んでいるの?
③私も隣に座っていい?』
……最初の質問と同じね。
あのときは無視が正解だったけど、今回はこれがあるし……。
私の手には、レオンの求めているもの(たぶん)がある。
これを持っていたら、話しかけても好感度は下がらないはずだ。
大丈夫……だよね?
この前1%下がっちゃったし、これ以上下がるのは困るんだけど。
チラリと後ろにいるビトを見ると、何しているんだ? と言いたそうな顔で私を見ていた。
中庭の入口に立ちジッとレオンを見つめていたら、不審そうな目を向けられても仕方ない。
えーーい! 迷っててもムダだ!
いってみるしかない!
私はスタスタと足早にレオンに近づくと、選択肢の①にそっと指で触れた。
「……ごきげんよう」
私がそう声をかけた瞬間、背後から「えっ」と驚くビトの声が聞こえた。
レオンには話しかけてはいけない。
それはこの家で働く者なら誰でも知っていることだからだ。
まあ、こんな私がレオンに声をかけてたら、そりゃビックリするよね……。
レオンの綺麗な赤い瞳が、ゆっくりと私を見上げる。
声をかけてきた人物は誰なのか──レオンは静かに私の顔を確認してから、私の手元に視線を移した。
「……新しい話、書いたの?」
「!」
返事してくれたっ!!
予想通りとはいえ、それでもレオンに話しかけられると驚いてしまう。
でも、私以上にビトのほうが驚いたようだ。
クールな無表情キャラのビトが、目と口を丸くして私とレオンを交互に見ている。
よし! 今度は話しかけて大丈夫だったみたい!
さあ、この力作もレオンに本にしてもらうわよっ!
ガッツポーズしたい気持ちを抑えて、私はレオンに手作りの絵本を差し出した。
今回は絵もがんばったし、どうだ!? レオン!




