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肯定も否定もアウト。なら、私の答えは……


 私はゴクッと唾を飲み込むと、真っ直ぐにエリオットを見つめた。



「……エリオット様は、私が犯人だとお思いですか?」


「!」



 私の質問に、エリオットがピクッと眉を動かした。

 選択肢以外の答えを出したことで、浮かんでいた文字が消える。




 私が犯人かどうか、答えるのは私じゃなくてあなたよ!




 本当の犯人を知っているエリオット。

 もしここで私が犯人だと答えたら、それはエリオットがセリーヌに見事騙されたということになってしまう。


 だって、私も使用人たちもセリーヌが犯人だと知っているのだから。



 

 プライドの高いエリオットだもの。

 間抜け……そんな風に思われるのは、我慢ならないでしょ?




 私にだけではなく、ここにいる使用人やまさにエリオットに嘘をついているセリーヌにまで、無能扱いされることになる。

 そんな状態にエリオットが耐えられるわけがない。

 となると、本当の犯人を知っていると答えるしかないのだ。

  



 さあ、どうするの!? エリオット!




 セリーヌや使用人たちが、心配そうにソワソワとエリオットに視線を送っている。

 ここでエリオットがどう答えるのかによって今後の展開がガラリと変わるため、みんな不安を隠せずにいるのだ。



「……フッ。なるほどな」



 すべてを把握したような顔で、エリオットが鼻で笑う。

 今までの人形のような笑顔ではなく、少しは感情が入っているような笑顔だ。




 笑った……!?




「ここで君が犯人だと答えたら、俺は無能扱いというわけか」




 全部読まれてる!!!

 



「俺を試してるのか?」


「!」




 頬杖をつきながらジッとこちらを見つめてくるエリオット。

 苛立ちは感じないけど、ここでの回答を間違えたらおしまいだと直感が言っている。




 どうしよう……。

 はい、とは言っちゃいけない気がする。

 否定しつつ、うまく誤魔化さないと!




「……いえ。エリオット様はどう思われているのか、お聞きしたかったのです。不快に思わせてしまったのなら、申し訳ございませんでした」


「…………」




 うう……無言!

 これはどういう反応なの!?




「自分は答えずに俺に回答を求める……うまく逃げたな」


「い、いえ……」




 逃げた!? これ、逃げた判定なの!?

 ③と同じなら、好感度8%下がって即ゲームオーバー……!?




 失敗した! ……そう思った瞬間、うっすら浮かんでいたエリオットの笑顔がスッと消える。

 


「セリーヌは今日限りでクビだ。屋敷から追い出せ」


「!?」




 突然の冷酷なセリフに、全員がギョッと目を見開いた。

 エリオットの執事だけは、動揺することなく即座に「かしこまりました」と答えている。




 ……えっ?

 これって、セリーヌが犯人だという答え?




 何を言われたのか理解できずに固まっていたセリーヌが、ハッとしてその場に膝をつく。



「エ、エリオット様! 私をクビというのは、いったい……」


「俺に嘘をついたからだ。今すぐに出ていけ」


「ですがっ、私の実家はここから遠く、こんないきなり……」


「関係ない。……ああ。その遠くにあるお前の実家には、しっかり花瓶代を請求するからな」



 高価な花瓶代を請求──その言葉を聞いた瞬間、セリーヌの顔がさらに青ざめる。

 周りに立っている使用人たちは、セリーヌに同情の目を送ってはいるけれど誰も助けようとはしない。


 ここでセリーヌを庇ったなら、間違いなく一緒にクビを切られるに決まっているからだ。



「じ、実家には言わないでくださいっ。そんな高価なものを買えるお金もありませんし、私が働いて必ず返しま……」


「関係ない と言っているだろう?」


「…………っ!」



 エリオットの低く感情のない声に、部屋の空気が一瞬で凍りつく。

 必死に懇願していたセリーヌも、周りにいる使用人たちも、全員ヒュッと無意識に息を止めていた。


 まるで、少しでも音を立てたらすぐに襲ってくる危険な獣を目の前にしたような緊迫した空気だ。




 こ、こわぁっ!!!

 さっきまでは穏やかに話しかけてたくせにっ!!

 態度、変わりすぎ!!!


 ……でも、これって私が犯人じゃないって認めたってことだよね?




 チラリとエリオットを見る。

 虫ケラでも見るような目をセリーヌに向けているエリオットの表情が恐ろしすぎて、思わずパッと視線を外した。




 ダメだわ! 今はそんなこと聞けない!

 向こうから話しかけてくるまで、存在感を消しておこう!!




 今、エリオットの意識はセリーヌに向いている。

 つい先ほどまでは若いメイドの言い分を聞いてあげる優しい当主のようだったのに、今では救いを求めている少女を問答無用で追い出そうとしている。


 エリオットの中に慈悲という言葉は存在しない。




 もし回答を間違えてたら、あの目を向けられてたのは私だったのかも……。

 お、恐ろしすぎる……長男エリオット……!




 その後、セリーヌは執事の力で強制的にダイニングを追い出された。

 セリーヌに同意していた使用人たちは次々に謝罪の言葉を並べたが、エリオットから「半年の減給か退職か選べ」とだけ言われ、それ以上の言及を許されなかった。


 まるでお通夜のような悲壮感が漂うダイニングで、私はただ黙っていることしかできない。




 えっと……私の結果はどうなったの?

 聞きたいけど聞けない……っていうか、もう帰りたい……!




 シーーンと静まり返った部屋の中で、エリオットが口を開く。

 先ほどまでの低く冷たい声ではなく、最初と同じ声のトーンに戻っている。



「というわけで、君への疑いは誤解だったようだ。すまないな、フェリシー」


「い、いえ」




 あああ……この豹変具合がこわいっ!



 

 謝られたというのに、まだ恐ろしいオーラをヒシヒシと感じる。

 私の声が微かに震えていたことで、それが伝わってしまったらしい。

 無表情だったエリオットの口角がまた少しだけ上がる。




 でも、謝られたってことはこのイベントは成功ってことだよね?

 



 好感度を確認したいけれど、エリオットの目の前で不自然な行動は取れない。

 早く解放してほしいと願っていると、思いも寄らない言葉をかけられた。



「疑いをかけた詫びとして、何か君の望むものを1つ贈ろう。何がいい?」


「……え?」




 望むものを1つくれる? 何それ?




 このイベントに成功したのが初というのもあるが、今までゲーム内でこんな提案をされたことは1度もない。

 それに、エリオットの性格からして本当に何か贈りたいから言っているとも思えない。




 さっき私がちゃんとした答えを出さなかったから、もう1度試してるんだ!

 こういったら私がなんて答えるのか……!


 どうしよう! なんて答えるのが正解なの!? 


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