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あれ? この人、私の婚約者では?


 レオンに言われた通り、私は他にも子どもが喜びそうな話を挿絵付きで書いていった。


 白雪姫に人魚姫、男の子も読みやすいように桃太郎や浦島太郎など。

 もちろんこの国に合わせて、名前や食べ物などについては少しアレンジを入れてある。



「これもレオンが気に入ったら本にしてもらえるのかな?」



 そんな期待を込めて書いていたけれど、途中でインクがなくなってしまった。




 ああ……終わっちゃった。

 一気に書きすぎちゃったかなぁ。




 テーブルに積み重なっている用紙を見て、はぁ……とため息をつく。

 昔から何かに熱中すると歯止めが効かなくなるのだ。

 

 ここ数日、ずっと部屋にこもって物語を書き続けていた。




 勉強用にって支給されたインクだけど、なくなったらもっと欲しいってお願いしてもいいのかな?

 でも、本当に勉強してたのか確認されたら困るしなぁ……。




 本好きで害のないレオンならともかく、私を嫌っているメイドやディランには絶対に読まれたくない。



「……自分で買いにいくか!」



 幸い、身代わりの妹としてエリオットからはお小遣いをもらっている。

 ディランに文句を言われそうでまだ1度も使ったことがなかったけど、インクなら文句を言われないだろう。




 ほんっとアイツ、小姑みたいにうるさいんだよね。

 好感度が11%しかないから仕方ないんだろうけど。




 ワトフォード公爵家の関係者だとバレないよう地味な服装に着替え、髪の毛も1つにまとめる。

 物語を書いた紙も見つからないように引き出しに隠し、お金を持って部屋を出た。




 ついでに1ヵ所くらい孤児院に行ってみようかな?

 でも、できれば本ができてから行きたいな〜。どうせなら何か差し入れしたいし。




 孤児院にいた天使たちを思い浮かべながら廊下を歩いていると、前からレオンがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 方向からして、図書室に向かっているのかもしれない。




 レオンだ!




 ピロン


『選んでください。


 ①こんにちは

 ②何やってるの?

 ③今日もいい天気ね』


 いつも通り、レオンに会ったら出てくる選択肢がパッと現れる。




 これ、今までなら無視する1択だったけど、今回は違うんじゃない?




 この前、レオンは私に声をかけてきた。

 新しい話を書いたら、1番に読ませてと言ってきた。

 今までとは、あきらかに関係性が違うと言いきれる。




 もう、声をかけていいんだよね?

 じゃあここは……。




 サッと指で①に触れ、レオンにニコッと微笑みかける。



「こんにちは」


「…………」



 レオンは、黙ったまますれ違いざまに横目で私の手元を見た。

 お金の入った小さなバッグしか持っていないことを確認するなり、そのまま何も言うことなく通り過ぎていく。




 ん!?!?

 え!? 無視!?




 レオンの後ろ姿を呆然と見つめていた私は、ハッとしてマイページを開いた。




 ま、まさか……!



 

『好感度


 エリオット……8%

 ディラン……11%

 レオン……14%』




 レオンの好感度が1%下がってる!!!

 そんな!!




 1度会話をした仲なので、もう挨拶くらいはいいだろうと思っていた。

 でも、どうやらそんな考えは甘かったらしい。




 レオン!!! なんで!?

 まだ声をかけちゃいけないってことなの?

 この前は新しい話を書いたら1番に読ませてって言ってたのに、なんで…………って、え? そういうこと?




 さっき、レオンは私の手元を見ていた。

 あれはきっと、新しい話が書いてある紙を持っているのかどうかの確認をしたのだ。


 何も持っていなかったから、無視をした。

 つまり、レオンにとって本を持っていない私なんてミリも興味ないのだ。



「少しは仲良くなれるかもって思ったのに、本あってこそか……!」



 レオン攻略に対する希望が、パラパラと砕け散る。

 やはりこのクソゲーはそう簡単には攻略させてくれないらしい。




 ううん。落ち込んでる場合じゃないわ。

 早く本を完成させて、孤児院を回って絶対にエリーゼを見つけるんだから!




 気合いを入れ直した私は、グッと拳を作ってその場から立ち去った。





***





「よし。インクたくさん買えたぞ!」



 街に出て数時間。

 お目当てのお店を発見した私は、インクを大量に買って帰路についていた。


 フェリシーとしてこの国に住んではいたけれど、こんな文具系のお店には行ったことがなかった。

 異世界のお店に興奮して、ついつい長居してしまった。




 他にもいろいろ買いたかったけど、お金は少しでも残しておかないとね。

 家を出られても、仕事を見つけるまではどうしてもお金が必要になるし!




 この辺にも孤児院がないかと周りをチラチラ見ながら歩を進める。

 日が落ち始めた街には、仕事帰りの疲れた様子の男性や買い出しに走る女性の姿が多い。


 そんな人混みの中で、みんなの視線を集めている人物がいた。



「わぁ……すっっっごいイケメン……!」



 少し離れた場所からでも見つけられるほどの長身に、艶のある黒髪。

 身なりからして、かなりの高位貴族だと思われる。

 

 美形3兄弟に引けをとらないほどの綺麗な顔をした男性に、街の若い女性たちはきゃあきゃあと黄色い声を上げている。




 すごい!!

 メインキャラじゃないのに、あんなにイケメンな人がいるなんて!




 あまりの美形ぶりに見惚れていると、興奮した女の子に後ろからドンッと体当たりされてしまった。



「きゃっ。……あっ!」



 その拍子に、バッグに入れていたインクの瓶が地面に落ちる。

 たまたま雑草が生えていた場所だったので、なんとか割れずに済んだようだ。




 危ないっ! 割れなくてよかった!




 慌てて瓶に手を伸ばすと、誰かの大きな手が私よりも先にその瓶を拾い上げた。



「あ、ありがとうござ……。……!!」

 

「どうぞ。大丈夫ですか?」




 えっ、う、嘘でしょ!?




 瓶を拾ってくれたのは、先ほどジッと見つめていたあのイケメンだ。

 爽やかに微笑みながら私にインク瓶を差し出してくれている。



「すみません! ありがとうございます!」


「いえ。では」



 インク瓶を私に渡すなり、イケメンはさらにニコッと笑顔を作った。

 こんな眩しい国宝級笑顔を間近で見て、目が眩みそうだ。




 性格までもイケメン……!!!




 そんな彼を心の中で称えていると、彼と一緒にいた男性が呆れたように声をかけているのが聞こえてきた。



「ルーカス。お前は本当にいい奴だな。わざわざ拾ってあげるなんて」

「これくらい普通だろ」

「いや。普通の公爵子息はそんな親切なことしないよ。ったく」



 

 ……ルーカス?




 その名前には聞き覚えがある。

 エリーゼの婚約者であり、私がゲームクリアをした際に結婚する男性の名前と同じだ。


 一瞬にして、イケメンに浮かれていた気分が消え去る。




 公爵子息のルーカス……間違いない!

 絶対にあの人だ!!




 彼がエリーゼの婚約者なら、3兄弟並みに顔が整っていることにも納得できる。

 モブなんかではなく、完全なるメインキャラだからだ。




 あの人がルーカス……!

 画像でチラッと見たことがある程度だったから、すぐにはわかんなかった!


 ……どうしよう!?

 私がワトフォード公爵家の関係者って、バレてないよね!?


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