ストロベリーショートケーキ⑤
10月某日、最初に面接を受けた大手出版社から内定が届いた。
「ついに届いたぁ」
一番に就職したかった企業からの内定通知は喜ばしい出来事なのだが、反面は自分が決めていた一つの決め事が引っかかっていた。
「やると決めたら全力、掛け持ちはできない。」
それはVTubaを始めた時に決めたたった一つのルール、全力で打ち込むが器用貧乏にはならない。
「楽しかった時間も終わりの時間か…。」
そうVTubaとしての終わり、引退を決めた瞬間である。
そこからは引退までにやり残したことや、明確なスケジュール調整などの準備をして悔い残さず終われるように努力は惜しまなかった。
正直にいえば終わらせたくない気持ちは強かった、掛け持ちで社会人をしながら活動を続けていく自身もあることはあった。
でも、昔からの憧れである出版社での仕事を全力で取り組めないのでは、どちらも中途半端になってしまうのではないか、不安が頭の中に何度もよぎってしまう。
この葛藤は活動中もずっと抱えていた、でもVとしての活動の楽しさが判断を先延ばしにしていた、ほんとに楽しい日々がいつまでも続いてくれればと思っていた。
「でも、楽しい夢をいつまでも追い続けてはいけない」
「夢は夢でも現実にも目を向けないと」
今の楽しい時間は魅力的だがここで足踏みしてられない。
「私は私の夢を現実を未来を進むんだ。」
その為の終止符、お別れの時間、応援してくれた人たち全て…。
そして。
「祝福乃果実との決別」
数年とはいえ自分自身であり掛けがえの無い分身であるこの子との決別。
ずっと引き延ばしてきた現実と今向き合っている。
「本当に大好きだよ…でも...ホントにごめんね」
決意は固い、きっと答えは変わることはない、でも公開や苦しみはしばらく続くだろう。
正直いえば胸が苦しくいまも泣きじゃくっている…きっとひどい顔になっているだろう。
「でも、これは私が最初に決めたこと覆さないと決めたこと」
口に出し、言霊のように自分に言い聞かせている。
「納得しろ、割り切るんだ、現実をみろ」
新しい一歩を踏み出すのに、まるで呪うかのように自分に言い聞かせる。
「果実ならこんな時笑ってお祝いするんだろうな」
そう言葉をこぼしながら涙をぬぐい、いったん作業を止めた。
今は一旦落ち着こう。
時間はかかるかもしれないが現実からは目をそらせない。
「果実なら、祝福乃果実なら...。」
「笑って笑顔で最期を迎えよう!!!!」
そして時は進む。