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第1話 飢えないホームレス

すみません。仮投稿なので、すぐ消すかもです(+_+)






 唐突なんだけど、さ。


 ある日、僕は王都でホームレスになった。




 んだけど。


 飢えないし困らなかった。全然、別に。




 僕がものすごい【固有スキル】持ちってワケでもなく。

 鄙びた国境の村から出てきた、至って平凡な12歳だ。


 そんな普通の少年がホームレスになったのはナゼか?


 ひどい話なんだよ。


 身寄りの無い僕は村で育てられた。村のみんなは優しかった。けど、育ててくれた里親が特別裕福だったってワケでもなく。積み立てた、僕と同い年の実娘の就学費用を、こっそり取り崩して養ってくれてたのを知った。


 その僕の育ての親の実娘の名前はアクシア。いわゆる義妹ってヤツ。

 優しすぎるんだよアイツ。血の繋がらない僕のために、アクシアは自分から学費の件を言いだしたらしい。


 で、まあ、ひと言で言えば居づらくなっちゃったんだよね。それ知っちゃったらさ。


 なので僕はまわりに内緒で、王都の工場(こうば)務めに応募した。

 これ以上里親に負担はかけたく無かったしね。

 それに幼馴染みというか、兄妹同然というか。一緒に育ったアクシアにはぜひ学校に進学して欲しかったし、ね。


 それで故郷を飛び出して、王都で年季奉公。住みこみで働こうとしたんだけど。

 その就職先が、いわゆるブラックでヒドイ所だったんだよ? 「お前らの代わりなんていくらでいる」とか普通に言うし。最初に聞いてた労働条件と全然違うし。


 なんで、2日で辞めた。あの環境で無理したら心か身体か、もしくは両方とも壊れる。「ココに就職する」っていう自分の選択が間違ってたんだけど、まあちょっと見立てが甘かったか。少しばかり高くついた授業料だった。


 でも、それは過ぎたことだと割り切ったよ。だってさ。


 後悔しても、その選択をする前まで時間を巻き戻せるワケ無いし。悩むだけさらに無駄な時間を使うことになる。それこそ無駄。


 自分が間違っていたのなら、認めてさっさと損切りする。

 それは実被害が広がる前。早いほうがいい。



 ‥‥それでさっさと辞めたんだけど、僕のポケットはほぼほぼ空だったんだよ。

 行く当ても村に帰る交通費も無いしさ。


 とりあえず王都を見物しがてらブラブラ。やっぱり都会は違うね。色んな物がある。故郷の村とは大違いだよ、さすがに。


 気がついたら1ヵ月くらい経ってた。



 で、さすがに衛兵のオッサンたちに顔覚えられて職質された。ま、そりゃそうか。

 詰所っていうの? ソコで色々質問責めにあった。





「君、名前は?」


「メティアスです」


「ふんふん。メティアス君ね。書いた?」

「はい。上長」


「何歳? 家は? ご両親は? 最近この辺りをうろついているようだが?」


「親はいません。孤児です。家もありません。12歳です」


「生まれは? 王都じゃないよな?」


「はい。クレマタ村です」



「クレマタ? ってどこだよ?」

「西ですね」


「はい。スクピディア帝国に隣接する村です」


「そんな辺境から。丁稚奉公から逃げ出したクチか? それじゃあ辛かったろう? 食うや食わず、いつ野垂れ死んでもおかしくない。だが君は幸運だ。このエリーシア王都は慈悲深い前王女様が建てられた孤児院がある。そこに行けば取りあえずメシが食えるぞ。柔らかいベッドと‥‥」

「あ、大丈夫です」


「‥‥暖かな食事が用意され‥‥孤児ならばその日暮らし、ろくな生活をしてなかったろう。だがこれからは‥‥」

「ですので、大丈夫です。‥‥衛兵さん、聞いてます?」


「‥‥え? 今何て?」


「僕は確かに宿無しで王都をたむろするガキですけど、そういうの要らないんで。他の、もっと困ってるホームレスの子供にあてがってやってください」


「いや君だって子供だろ! だって家無いんだろ?」


「はい」


「所持金無いんだろ?」


「まあ、そうですね」


「じゃあこのまま野垂れ死ぬしか‥‥」


「あ~はい。ご心配ありがとうございます。でも自分で何とかできるんで、今のところ大丈夫です。あ、町の不良冒険者(チンピラ)とかに絡まれたりしたら、その時とかはお願いしてもいいですか?」


「おう。任せとけ! そういう時こそ衛兵の出番‥‥って違う違う。君、今夜泊まる家も無いんだろう?」


「えっとそうですけど、う~ん。じゃあ逆に衛兵さん?」

「なんだね?」




「なんで家が必要なんですか?」




「は? はい? そりゃあだって‥‥え? ‥‥ええ!?」


「だって。家を持つにもお金が要るし、維持費かかるし」


「‥‥ちょっと待て。宿無しの少年を保護して福祉施設に導こうとした俺が、なんで逆に詰められてんの? あれ? 何がどうなった?」


「宿に泊まるったって、当然宿代払うじゃないですか?」


「‥‥それはそうだよ」


「でしょう? 家が無いなら無いなりに『経費がかからない』っていう素晴らしいメリットがあるんですよ? 無いなら無いで、そのメリットを活かせばいい。幸い王都は治安いいし、公園の水は飲めるし、冬はまだ先だし」


「いやいや待て! それでどうやって生活を‥‥盗みでもしてるのか?」


「まさか。勘弁してくださいよそんなもん。そんな捕縛されるリスクが生まれる行動なんてコスパ悪いし。犯罪はメリットがデメリットを上回る事案の時のみ行えば良いです」


「コスパねえ。それ本気で言ってるなら君、もう衛兵の手に負えない大犯罪者(ヤカラ)なんだが?」


「やだなあ褒められても何も出ませんよ? この王都、怪我も病気もしてないこの体ひとつあれば、何とかできますよ普通」


「はあ。そういうモンなの最近のホームレスって?」


「ですです」


「俺の中の常識が揺らいできたんだが‥‥」



「例えば」


「あ、うん」


「あそこにパン屋がありますね。店名は『こねっと』」


「よく行く店だ。美味いし詰所に近い。‥‥そうか‥‥そこの残飯を」


「違うよ! 確かにそこの廃棄をもらうんだけど、あの店、名店だから。味のハードル高いから。基準を満たさない品質のパンとか平気で廃棄する。‥‥まあ、大半はB級品として廉価で売ったり従業員が買ってったりするんだけど、それでも余る。とにかく店長さんの探求心、プロ意識、味のハードル高いから」


「へ~そうなんだ。へ~」


「それを僕が格安で処分する。『こねっと』は廃棄品を処分する手間や費用が無くなって喜ぶ。僕はその廃棄品を城壁の外の養豚場まで運ぶ」


「ああ養豚場、あるね」


「そこで処分品を豚のエサにする。養豚場は餌代が浮き、美味いパンにありついた豚も喜ぶ。豚が肥えればオーナーも客も喜ぶ。‥‥で、僕が行く時間には市場に出荷される豚がいる」


「ほう。豚の出荷を手伝う訳か」


「正解。さすが衛兵さん。そのまま市場で落札したら、精肉店まで付き添う。そこでは、肉を削いだ後の豚の骨をもらう」


「豚の骨? 肉を取ったらもう無価値だろう?」


「そうでもないよ。その骨に需要がある。『まつふく』の店主さんは火魔法の達人でね。大きな鍋で何日もコトコト煮ることができるのさ。で、なんでも豚の骨をそうやって煮込むと、なんか濃い味の独特のスープができるんだ。『まつふく特製ブタ骨スープ』。そこで豚の骨との物々交換でそこのまかないメシをいただく。これが僕の昼飯だね。で、店主さんは忙しいから‥‥」


「待った!」


「なに? 衛兵さん」


「この話、いつまで続くんだ?」


「あともう少しだよ。こんな感じで町中廻って、僕が夕飯を食わせてもらって次の日の朝飯をゲットするまで。これがルート①」


「ルートだと!? ‥‥あ、①? じゃあ②とかもあるのか?」


「うん。4、いや全部で5ルートか。まだ王都でホームレスになって1カ月。日も浅いし」


「5ルートってお前」





「うっふふ。おもしろい子ね? 衛兵さん」



 僕と衛兵さんが話してる部屋に、黒髪の女の人が現われた。口もとに片手を添えて、静かな笑みを浮かべながら入ってくる。



「誰? お姉さん」


「あ、商会の!」


 衛兵さんは立ち上がって敬礼をした。へえ。このお姉さん、まだ20台前半くらいだろうけど、このベテラン衛兵がそれなりに気を使う相手ってこと?



 へえ。


 面白いな。



「お世話になっております。で、君、面白い子ね? まさに『商』の人。情報に価値があることと、物を動かすと価値が生まれるってこと、本能的に知ってるみたい。‥‥ね? ‥‥ひとつ訊いていいかしら?」


「なんだよ。てか。アンタ誰ェ?」


 僕はわざと「12歳のいきがった孤児」っぽいリアクションで対応する。ま、この衛兵との会話を最初から聞かれてるんなら意味は薄いけど。

 こっちのカードは伏せたほうがいい、って、僕の直感が伝えてきている。


「さっきのルート①。君のその口ぶりだと、『ウチで住みこみで働かないか?』って色んな店主さんに口説かれてない?」


「まあ。そうだけど。それが何か?」


「うふふ。当たり。でもどうして雇われなかったのかしら? そのほうが故郷に帰るためのお金も貯められるでしょう? 野宿もしなくて良いし、衛兵さんにも掴まらないわ」


「た、確かに」


 衛兵さんは僕とお姉さんを交互に見ながら、しきりに頷いている。

 う~ん。まさか質問一発でここまで踏み込んでくんだ。この人。




「そんなの決まってんじゃん?」


「どうして? ぜひ聞かせて」



 路線変更。ダメだ。このお姉さんは敵に回したらヤバいって、僕の直観が言ってる。馬鹿を装う必要も意味もない。

 だって。「こんな質問」してくるんだから。


「どうしたの? ねえ。君と話した大人の一部は、君を雇いたがったハズよ。好条件で。なのに君はこの一ヵ月、そのすべてを断って、孤児としてここに立っている。どうしてかしら?」



 やべえ。このお姉さんやべえ。


 すべて見透かされている。嘘を吐くのは、いい結果を生まない。

 僕は肺に息を入れて、胸を張った。質問の答えはある。考えるまでもなく、僕は答えた。





「それじゃあ、僕自身が、自由じゃないから」






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