表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

プロローグ カモメorウミネコ



 海岸に私が立っている。白い翼が駆けていた。翼の持ち主は、澄んだ青空と海原の間を旋回しながら、キラキラと光る水面の下を、抜け目なく睨み付けていた。



 海面下の獲物を狙う小さな狩人たちは、魚の動きを、そこから波及する小さな飛沫から察するのだという。見事な観察眼だ。わが軍の連中も、あのカモメ共くらいの緊張感を持って見張りをしてくれれば……。



「……いや、ウミネコか? むぅ、どっちだ……というか何か違いがあるのか……?」



「鳴き声が違いますよ。ニャー、ニャー、って、猫みたいに鳴くのがウミネコです」



 独り言のつもりだったが、返事が来た。それも思った以上に近くから。振り向くと、私の目と鼻の先で、和泉二等が海原に目を向けていた。



「ほら上官、聞いてみてくださいよ。どっちに聞こえます?」



「……どっち、と言われてもな。どちらの鳴き声も聞いたことがないから、何とも言えん」



 嘘だ。本当はそもそも聞こえてすらいない。私の耳は、彼女の声と、私の心音に支配されていた。



「えー、仕方ないですね。えーっと……あぁ、やっぱりウミネコですよ。ほら、ニャーニャ―鳴いているでしょう?」



「そう、か? ……うん、言われてみれば、そうかもな」



「でしょう?」



 コロコロと、彼女が笑う。



 彼女の視線はウミネコを眺めていたが、私の視線は、彼女の笑顔を見つめていた。



 不意に、彼女の視線が揺れ、こちらを見ようとする。私は慌てて視線をウミネコへ戻す。が、白い翼は、私が見てない間に獲物を攫って行ったらしく、遠くへと去っていくところだった。



 蒼と碧の境目へと去っていく白い集団。心を落ち着けるべく、隣に気付かれぬよう呼吸を深くしながら彼らを見つめる。



「……行っちゃいましたね」



「そうだな」



「あの子達、海の向こうまで行くんでしょうか」



「どうだろうな」



「それなら、敵船の様子とか、ついでに見て来てくれればいいのに」



 彼女らしい冗談に苦笑する。だが同意見だ。あのウミネコ達は、水平線の向こうまで行くのだろう。ならついでに、偵察の一つでもしてくれないものだろうか。



 影すら見えぬ敵達を。我が国を狙う敵国の戦艦の様子を。その鋭い眼で観察してきてはくれないものか。



「……それで、何の用だ? まだ訓練の時間は終わっていないはずだが」



「ちょっと上官に会いたくて来ちゃいました」

 落ち着きかけた心臓がまた跳ね上がる。心中を悟られまいと、彼女を睨みつけて、



「馬鹿が、さっさと訓練に戻れ!」



「はーいっ」



 カミナリ親父に叱られた悪戯っ子のように、慌てて海岸を離れ、訓練場へと戻っていく様子を、呆れたまなざしで見つめる。



 周りに他の視線が無くて助かった。多分今の私は、普段よりずっと動揺して見えている。



 あの馬鹿者は、気付かなかったようだけれど。



登場人物紹介


九条朱鷺(くじょうとき):湾岸基地司令。中尉。


和泉燕(いずみつばめ):湾岸基地所属。二等兵。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ