取り返せないもの
「おはよう、遊助。」
「お、おはよう、正人。」
正人が声かけた茶色ヘアの男は親友の大山遊助、同じく《シン・オブ・ヴァーズ》のプレイヤーであるが、互いはゲーム内のIDが知らないということになっている。それは「禁則事項」だから。
「まーさーと!」
大声で正人の名前を馴れ馴れしく呼んでるツインテールの女の子は黒沢万里、遊助の幼馴染、生まれた時からずっと一緒だった二人は、遊助の言葉では「腐れ縁」という仲らしいのです。
「うるさいな、名前を呼ぶならもっとまともにやれよ、バカ。」
「別にあんたを呼んでるじゃないし、あんたには関係ないだろう?」
「だから耳障りだって、なんかよう?」
「失礼だね、女の子にこんなこと言うなんて。」
「俺は別にお前は女の子なんて一度も思わなかったんだけど。」
この二人を見ながら、正人は自分のゲームキャラクター、バースターを思い出した。正人は分かる、自分と時雨も毎日こんな感じでしょう。でも、おかしなこと、自分は好きな人がいる。時雨は自分、せめてバースターが好きなのもわかってる。正直言うべきだった、「付き合えない」って。何故なのか、言ってなかった、言えなかった、まるで自分の意志じゃないのような。しかしそんなことはあり得ない、自分がバースターなんだから。最悪のパターン、自分はもう時雨のこと…本当そうだったら、二股をかけるなんて、まさに自分は最低。
「正人?目、死んでるぞ。」
「ごめん、ちょっと、考え事してた。」
「まさと、大丈夫?」
「うん、心配すんな、俺は大丈夫なんだ。」
リアルとバーチャルの取捨選択、それはVRゲームの時代からずっとゲーマーたちの課題。ゲーム内の自分は果たして自分か、それとも違うか。今このよりリアル的な世界を作れるゲームの時代では、リアルとバーチャルの分界はもはや曖昧になっている、ゲームの世界はまるで本当に存在している、ただしそれは異世界、それだけです。故にゲームに中毒し、現実逃避をしている人もだんだん増えていくのです。
かつて正人もそうだった、しかしある人の出現はそれを変えた。それは…
「おはようございます。」
優しい声の持ち主は黒髪の少女、長い黒髪はさやさやと風に揺れてる。正人を救ったのはこの少女、雨宮花音です。正人がリアルでいじめられているためゲームに夢中なっていた頃、花音は正人の唯一の光だった。
「おはよう、花音。」
「かのんちゃん、おはよう。」
「おはよう、雨宮。」
「あのね、かのんちゃん、聞いてね、あ…」
三人も挨拶で返す、万里がもっと話したいところで、チャイムが鳴りました。
「残念、じゃ、また後でね。」
万里がこう言ったら、教室を出た。そう、万里とみんなは同じクラスじゃない、でもいつも正人たちのクラスに来て、それに馴れ馴れしく正人の名前を呼んで、だから万里が正人のことが好きという噂がクラスのみんなの中で広がっているのです。
どうやらクラスの連中は、「ツンデレ」という属性はよくわからないようだ。さもなければ、万里が好きなのは遊助のことってのはすぐ分かるでしょう。
「起立!礼!」
お昼休憩の時間は訪れた、遊助と万里は屋上へと登った。
「そういえばさ、ゆすけは期末テストの受験準備はどうだった?」
「俺?まあ、そこそこかな、まりは?」
「あっし全然無理し、ゆすけ教えて。」
「お前がちゃんと勉強してねぇせいだろう、なんで俺が教えなきゃいけんのかよ。」
「だってゆすけはあっしと一緒の学校がいいだろう?わかってるよ。」
「自意識過剰もほどほどにしといてなお前。」
弁当を食べながら口撃をする二人けど、ずっと頭が下がってるままです。
3年前、二人はこうじゃなかった、もっとベタベタでくっついてるだった。
「ゆすけ、今日はゆすけんちで食べたい。」
「いいよ、お母さんに言っとくから、ちょっと待って。」
「おばさんとおじさんは今日帰ってこない、まりは俺んちで泊まるってお母さんが言ってたさ。」
遊助が電話をかけたらニヤついてて言った。
「ホント?泊まりたい!」
「ゲームをやろう、最新作の《フューチャー・ファイターズ》!」
「うん!やろ!」
「え?おじいちゃんが?」
「万里ちゃんのパパとママは、葬式に出るから、今日は帰ってこないの。」
遊助の家についた途端、こんなこと教えられた。
「万里ちゃん?泣きたいなら、我慢しなくていいよ?」
「そうよ、まり、我慢…」
「大丈夫!それより、ほら、ゆすけ、ゲームやるでしょう?」
泣きそうな顔の万里は力いっぱい遊助の袖を引っ張って、逃げようとする。
「母さん、まりは俺に任せるから、心配しないで。」
「うわぁー」と、ようやく我慢できなくなった万里が頭を遊助の胸元に埋めて泣き出した、大好きなおじいちゃんが亡くなったもの。
「まり…」
何も言えない遊助がただひたすらまりの頭を撫で続けて、万里の名前を軽く呼んでる。
あれから半年ほど、まりは一言も言ってなかった、毎日落ち込んでて、授業もろくにできなくて、いっそ不登校になってしまった。
しかし遊助の前では、まりは思い存分に甘えたり、泣いたりして。親さえも知らない一面を見せてあげた。
万里の「大好き」は二人いる。大好きなおじいちゃんがもういなくなった、今の万里は、大好きなゆすけしかいない、ゆすけしかに頼れない。
「あの子、このままだと卒業できないじゃない?」
「ほんと、最近なんか勉強にも集中できなくて、成績も…」
「大山は優等生なのにな、なんかあったでも?」
「自分のせいだ」万里はわかった。自分の面倒を見るために、ゆすけは。
「もうあたしに声をかけないで。」
学校の屋上で、万里が言った。
「え?まり、お前…」
まだ状況が掴んでいない遊助がショックを受けた。
「しつこいのよ!!あたしはひとりでいたいの、なのにあんたはいつもいつもうるさくて気持ち悪いよ!」
(ごめん、ゆすけ。)
「だいたいあんたは自分は何様と思う?おじいちゃんのかわりになれると思うの?あんたがいてくれてあたしは慰めれると思うの?」
(ありがとう、ゆすけ。)
「ホント勘弁、あんたはただあたしとたまたま一緒に育ってたでしょう?それ以外あんたはあたしに対してなんか特殊な意味でもあるなわけ?」
(ゆすけがいないと、わたし…)
「おい、なんか言ってよ、バカゆすけ。」
(わたしを恨んで、もう二度とわたしみたいな悪い子に関わらないで。)
「そっか、よかったな、これで俺の役割も終わったか。」
遊助は笑った。寂しいけど、万里はホント強くなった、自分がいなくても大丈夫でしょう。
「まり、ごめん、これを。」
ポケットの中からギフトボックスを取り出して。
「誕生日おめでとう、こんな俺のプレゼントなんだけど、受け取って欲しい、これでお別れな。」
「いらないよ、あんたのプレゼントなんて。」
(いや、やめて。)
「そうだな、でも、一応ここに置いとくから、先に帰るよ。」
「帰るならさっさと帰れよ、ほんときっしょ。」
(ゆすけ、行かないで…)
それが二人の友達関係の最後。
「寝るから、肩貸して。」
「なんで俺なんだよ、めんど。」と言いつつ、遊助は肩を万里の方に偏った。
「30分後起こす。」
「へいへい。」
万里は夢を見た、あの日のこと。何度も後悔した、あの時、あんなこと言ってなかったら、どうなるだろう。ちゃんと話し合ったら、まだ自分はゆすけのそばにいられるでしょう。ここ3年間、辛かった、ゆすけとの楽しい時間を思い出すたびに、涙が止まらない。
夢の中でしか謝れない。
「ゆすけ…ゆすけ…行かないで。」
夢でも、現実でも、万里は同じこと言った。
「行かないよ、どこでも。」
遊助は返事をした。
「ごめん…怒らないで…わたしは…わたしはゆすけが大好きよ。」
「怒ってないよ、俺も、万里が大好き、だから泣かないで。」
もう何度目でしょう、万里が過去のことを夢見て、泣き出すの。やっぱり真実を明かしたほうがいいかな。
3年前の屋上で、まりは言った。
「もうあたしに声をかけないで。」
それに対しての遊助は「え?まり、お前…」と返事したが、その出てきてなかった言葉の続きは「お前、どうして泣いてるの?」
言わなくてもわかる、ずっと一緒だったから。まりは苦しんでる、悲しんでる、それでも自分のためにあんなこと言った、まりの気持ちを無駄にしたくない。正直今でも後悔した、あの時もし、「俺は大丈夫だから、ありがとう。」と返事したらどうなるだろう。でも人生はそう甘くはない、タイムリープなんかも存在してるはずがない。取り返しはもうできない。
「頼む!正人、このことはまりに言わないで。」
「え?わ、わかった。」
頭を下げておねだりする遊助の姿を見て、正人はちょっとびっくりした。普段の不真面目な格好を収めて、真面目な顔で言うほど大事なことだと確実にわかった。
「でも、いいの?万里ちゃんも辛かったでしょう?ちゃんと話し合えばわかるだろう、幼なじみだから。」
「いや、俺たちにとってそれが一番かも。これは爺ちゃんのことがゆえだけじゃなく、俺たちはいつも互いに頼りすぎて、もう普通の人間関係から外れてしまった。あれのお陰で、今のまりも俺もちゃんと友たちができたじゃない、だからこれでいい。」
「じゃいつまで万里ちゃんを騙すつもり?バレたら今度ほんとに嫌われるかもしれない、万里ちゃんにとって、自分に嘘をついたのが一番許せないことだろう、特に自分の大切な人に。」
「だからこそバレないようにしないと、もう3年も経ったから、真実を明かす時機を逃したんだ。」
遊助はこう言ったが、実は怖がってるでしょう。「まりのために」とか言ったけど、ホントは自分のためにじゃないかな?ただ自分がもう万里の世話をしたくないからその時は挽回しようともしてなかったのかもしれない。
「お、遅いぞ、バースター。」
ギルド部屋で、龍之介はソファーの上に横になった。
「ああ、今日は用事がな、オメエらの方はどうだった?」
「順序順序、だがもうすぐ大型イベントが来るから、みんなはまだ外でレベル上げをしている。」
横目でバースターをちらっと見て、顔が暗かった。いつもそんな顔してるのはもう慣れたけど、なんか今日の雰囲気はちょっと違うような気がする。
「なに?不機嫌?」
「ねぇよ、オメエに関係ねぇ。」
「言ってみな、人の世話をするの、俺結構得意だぞ。」
言った途端、龍之介の頭の中にある女の子の顔が浮かべた。ツインテールで、一人で泣いてる女の子が「行かないで」と言ってる顔。
(いや、そうでもねぇか。)
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