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のぞみはしずくと一緒にいるだけで世界が輝いて見えた。のぞみはしずくと一緒にいるだけで、幸せだった。
この輝きを覚えていよう、とある日、ふとのぞみは思った。
この光り輝く日々のことを、ずっとずっと、覚えていようと思った。
これからの人生でどんなにつらいことがあっても。
どんなに時間が過ぎ去って、年老いても。
絶対に覚えていようと、そう強くのぞみは思った。
のぞみは空想してみる。
今この紅葉の森を歩いているのはのぞみとしずく。でも、二人は若い二人じゃない。年老いた二人だった。でも二人はなにも変わっていない。あのころのまま。とても楽しそうに笑っている。
「絵を描く基本はまず自分がどんな絵を描きたいのか、その理想を自分の中に描くことなんだ」としずくは言った。
「自分の描きたい絵の理想を描く、ですか?」といつものように絵のモデルをしながらしずくと向き合っているのぞみは言う。
「うん。それだけきちんと描けていればあとは自由に描いて大丈夫。それはきちんとした自分の絵になる」しずくは言う。
「その自分の描きたい絵の理想を描くためにはどうすればいいんですか?」のぞみは言う。
「それが難しいんだ。それを見つけることがなかなかできない。自分の絵のスタイルと言ってもいいし、個性と言ってもいいのかもしれないけれど、そう言うものを見つけるまでがすごく難しいんだ。すごく時間もかかるし、いっぱい失敗もするしね」しずくは言う。