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その日、秋の雨が朝から森に降っていた。しずくの家にやってきたのぞみはしずくと一緒にアトリエに移動する。
いつもならそのまま絵の作業に入るのだけど、のぞみはしずくに「しずくさん。めぐみさんの絵。見せてもらってもいいですか?」と言った。
するとしずくはとくに驚いた様子もなく「いいよ。すこし待っていて」と言ってアトリエの奥にある倉庫の中に移動した。
それからすこししてしずくはアトリエに一枚の布に包まった大きめの絵を持って戻ってきた。
しずくはゆっくりと慎重な手つきでその布をとって、絵を取り出すとその絵をのぞみに見やすいように、スタンドの上に置いてくれた。
その絵の中には一人の少女がいた。
舞台は森の中。でも普通の森じゃない。その森は青色の森だった。青と白の木々の生えている幻想的な森だった。空には桃色の月が描かれている。季節は冬。少女は高校生が着るダッフルコートを着ている。そのコートの下は制服。幻想的な森の中にいる少女は椅子に座ってじっと『こちら』を見つめている。
その少女はめぐみだった。
めぐみの姿はとても絵とは思えないくらい、まるで写真のように(あるいは写真以上に)鮮明な姿でその絵の中に描かれている。
その顔は、のぞみにすこしだけ似ている。でもそっくりと言うわけじゃない。めぐみはめぐみでありのぞみはのぞみだった。雰囲気や形や魂のゆらめきも、よく似ている、といえるほどでもなかった。(そのことにのぞみはすごくほっとした)