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ふと伸ばしていた黒髪をばっさりと切ろうとのぞみが思ったのは、そんなときだった。
事務所に確認をしてみると、いいよ、と言う返事がきた。絵のモデルをしているので、しずくにも確認をとってみると、しずくも、かまわないよ、と言った。なのでのぞみはさっそく自分の長い黒髪をばっさりと切って綺麗な耳が出るくらい短くした。
「おはようございます」
新しい私になった姿を早くしずくに見てもらいたいと思って、今朝はいつも以上に自転車を濃く足に力が入った。
短い黒髪になったのぞみを見て、しずくはしばらくの間、目を大きく見開いてのぞみの顔をじっと見ていた。
「あの、やっぱり変ですか?」と少し照れながらのぞみは言った。
そののぞみの言葉にもやっぱりしずくは無言のままだった。
それから二人は今日もいつものように絵を描く作業を開始した。
のぞみはしずくの前でいつものようにじっとしている。
でも昨日までと違うのはのぞみの髪が短くなっていることだった。だから今日からしずくが描いている四角いキャンパスの中には新しいのぞみがいるはずだった。
そこまで考えたところで、では昨日までの私はいったいどこに行ってしまったのだろうか? とそんなことをふと疑問に思った。