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人はいつ恋に落ちるかわからない。
そんなことをのぞみは思った。
「この湖ボートがあるんですね。しずくさんのボートなんですか?」
白い小さなボートにしずくと一緒に乗りながらのぞみは言った。
「うん。家を買ったときに一緒にもらったんだ」オールで湖の水面を漕ぎながらしずくは言った。
湖の水面は太陽の光を反射してきらきらと輝いている。森に吹く秋風が水面を小さく揺らしている。
湖畔に停めてあった白いボートを見つけてから、最初にボートに乗りたいと言ったのはのぞみだった。
「しずくさん。ボート漕ぐの変わりましょうか?」のぞみは言う。
「まだ大丈夫」としずくは言う。のぞみはそんなしずくの言葉に甘えることにした。
湖の中心くらいまでやってきたところで、しずくはボートを漕ぐのをやめた。この辺りから見ると、森は今まで以上にとても幻想的な風景に見えた。紅葉する赤と黄色の森。そんな世界には薄く霧のようなものがかかっている。
「冷たい」
湖の水に指先で触れながらのぞみは言った。