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絵を描いている間の休憩時間のとき、のぞみはしずくと一緒に湖の風景を木の根元に座りながら眺めていた。
「私の絵。もう何枚か完成しましたよね」のぞみは言う。
「うん。どれも素晴らしい絵ばかりだとおもう」しずくは言う。しずくは折れて地面の上に落っこちていた木の枝を拾ってそれをまるで魔法の杖でもあるかのようにして、空中で振って遊んでいた。
「絵の中の私はみんな笑っていますね」
「うん。僕がそうして欲しいってお願いしたから、絵の中の君はみんな笑っているね」しずくは言う。
「私、しずくさんの絵のモデルを始めたばかりのころは全然笑えなくて、それで練習で描いてもらったデッサンを見たら私が元気に幸せそうに絵の中で笑っていたからすごくびっくりしました」とのぞみは一枚の真っ赤な落ち葉を拾いながらそう言った。
「私、あの絵を見てから家でたくさん笑顔の練習をしました。もっと上手く笑えるようになろうって本当に心からそう思ったんです」
「僕は君の笑顔が見たかったんだ」と湖を見ながらしずくは言った。