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「めぐみさんのためにしずくさんは自分の絵を売るようになった」のぞみは言う。
「そうだね。めぐみと出会わなかったら、今も僕はまだ自分の絵を売ろうとは思っていなかったと思う。アトリエの中で自分のために絵を描いていたんだと思う。ただ白いキャンパスとだった一人で孤独に向き合い続けていたんだと思う」
そんなしずくの姿をのぞみはすぐに想像することができた。
それはきっとしずく本来の姿なんだろうと思った。そんな孤独なしずくをめぐみが変えたのだ。あるいは、救ったと言ってもいいのかもしれないと、温かな顔をしているしずくを見てのぞみは思う。(そしてもししずくがめぐみと出逢っていなければ、しずくの絵に救われた自分はどうなっていたのだろう? とのぞみは思った。救われず、しずくとも出会えなかった私は今、世界のどこにひとりぼっちでいるのどろう? どこの暗闇の中でたくさんたくさん泣いているのだろうと思った)
「めぐみは僕の絵を褒めてくれたけど、僕がめぐみに絵のモデルになって欲しいって頼んだときは顔を真っ赤にして絶対に無理って言って断ったんだ。だから僕はめぐみの絵を描きたかったんだけど、全然めぐみの絵を描くことができなかった。めぐみが僕の絵のモデルになってくれたのは僕とめぐみが恋人同士になって付き合いを始めてからだった」とどこか遠くを見てしずくは言った。