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「高校を卒業したら僕はめぐみと結婚しようと思っていた。この家はそのために買ったんだ。買ったと言っても、空き家になっていた母の親族の家を安く売ってもらったんだけど、僕はそのために自分の絵を売るようになった。それまで僕は自分の絵を売ろうなんて全然思っていなかったんだ。僕は絵を完成させることだけを考えていた。自分の絵をお金と交換しようなんて思ってはいなかったんだ」
「お金を稼ぐ画家になるつもりはなかったと言うことですか?」のぞみは言う。
「いや、そう言うことじゃない。もちろん画家になるつもりだったし、そのためには絵を売らなくてはいけないこともわかっていた。作品主義というか、絵は売らないで、すべての絵を自分で所有しようと思っていたわけでもないんだ。それなのに絵を売ろうなんて全然考えていなかった。単純に子供だったんだと思う。僕は子供だった。ううん。今もそうなのかもしれない」としずくは言ってコーヒーを飲んだ。
「確かにしずくさんは子供ですね」
楽しそうに笑ってのぞみは言った。
「僕は大人になろうと思った。めぐみのために。二人の幸せのために。子供ではなくて、きちんとした大人にならなくちゃいけないと思ったんだ」