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自転車で走るのぞみの横をスポーツウェアを着たしずくが自分の足で走っている。
なんでも絵を描くことはすごく体力のあることらしくしずくは時間を見つけては森の中を走っていた。
家に帰ってしずくがシャワーを浴びている間、のぞみはアトリエの掃除をした。(もちろん掃除の許可はしずくにとってあった)もともと綺麗なアトリエだから掃除はすぐに終わった。
のぞみが世界的に成功したのは十四歳のときだった。このときののぞみには怖いものなんてなんにもなかった。
少しだけ休憩するつもりでソファの上で横になったのぞみはいつのまにか眠ってしまった。
その眠りの中でのぞみは素敵な夢を見た。
本当に素敵な夢。
こんな夢だ。
秋の森の中の中に二人はいる。
これからどんなことがあろうとも私はしずくさんのことを愛しています。
しずくの目を見ながらのぞみは言う。
僕はこれからなにがあろうとものぞみのことを守ってみせるよ。
そんないつもなら絶対に言ってくれないことをのぞみのことをちゃんとのぞみと名前で呼んでくれながらしずくは言う。
雨の日も風の日も嵐の日も、いつもしずくさんと一緒にいます。
しずくの手を取ってのぞみは言う。
しずくさんのことを愛しています。初めて会ったときからずっとずっと愛しています。
世界には紅葉が舞っている。
僕と結婚してください。
のぞみ。
愛してる。
しずくは言う。
熱い言葉で。
真っ直ぐな声で。
そして二人は幸せなキスをして、やがて森の中にある小さな家で幸せな結婚をするのだ。
そんなところでのぞみは幸せな夢から目覚めた。
目を覚ましたのぞみは、森に春がやってくるころ、しずくにもう一度、恋の告白をしようと思った。