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「森に来る前はどんな絵をしずくさんは描いていたんですか?」とパンをかじりながらのぞみは言った。
「人物画がほとんどだった。あとは静物画のデッサン。でも昔から風景画も描いていた。街の風景ばかりだったけど」パンにバターを塗りながらしずくは言った。
「君はどんな歌を歌っていたの? アイドルになる前のころはさ。どんな歌を歌い、どんな歌を聞いていたの?」
「そうですね。基本的には練習曲ばかりでした。比較的早い年齢でデビューはできたし、本当にありがたいことに応援してくれるファンのかたもいてくれました。その期待に応えるために練習ばかりしてました。好きな音楽と言うよりは必要な音楽ばかりを歌っていましたし、聞いていました」真っ赤なトマトを食べてからのぞみは言う。
「グルーではなくてソロというのは珍しいの?」しずくは言う。
「珍しいと思います。基本的にはアイドルはグループです。私にもグループを組むお話はありましたけど、事務所とマネージャーさんがお断りをしました。理由はそのほうが私のためになるとそう会議で判断をしたからだと思います」
「君はアイドルと言うよりはシンガーだと僕は思う」としずくはとても嬉しいことを言った。
「ありがとうございます。すごく嬉しいです。でも私の歌はシンガーと言えるほど力はありません。曲も自分では作れませんし、私はやっぱりアイドルなんです」
「君の声は天使の声だと思う」とのぞみをじっと見つめてしずくは言った。
「どうしたんですか? きゅうにたくさん褒めてくれて。なんにも出ませんよ」と顔を真っ赤にしながらのぞみは言う。