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「高校生のころ。付き合っていた人がいるんだ」そんなとても悲しいことを急にしずくはのぞみに言った。過去にしずくが『ある一人の女の子』とお付き合いをしていたことをなんとなくのぞみはしずく本人から聞いて知っていたのだけど、その話をのぞみからではなくてしずくからしてくることは今日が初めてのことだった。
「珍しいお話をしますね」とちょっと怒りながらのぞみは言った。
「制服姿の君を見ていたら思い出した」としずくは言った。(かちんときたのぞみは思わず手に持っていたコーヒーをしずくにかけてしまいそうになった)
「めぐみっていう名前の女の子だった」
「綺麗な子だったんですか?」のぞみは言う。
「僕は好きだったけど、君に比べれば綺麗とはきっと言えないと思う」としずくは全然嬉しくないことを言った。
「愛していた。すごく好きだった。めぐみと僕は絶対に結婚すると思っていた」自分の手元を見ながらしずくは言った。
しずくはのぞみのことを今まで一度ものぞみと名前で呼んでくれたことがなかった。だからのぞみはしずくがめぐみと彼女の名前を言うだけで燃えるような嫉妬を感じた。
「声に特徴のある女の子だった。めぐみはとても綺麗な声をしていた。透明感があって、自然で、一度聞いたらすぐにめぐみの声だってわかるような、そんな声に特徴のある女の子だったんだ」しずくは言った。
「声がにていたんだ」としずくは言った。
「初めて君の声を聞いたときにこの声はめぐみの声だとそう思ったんだ」そこまで聞いたところでついにのぞみは我慢できなくなった。